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二話 絶望少女の逃避行―2


――ピチャンと水滴が殴られた頬を伝う。


 冷たい。

(どこ・・・ここ)


「いっ!!・・・はぁはぁっ」


 痛すぎる。頬に付いた水もなんか臭い。

 折られた右腕に力が入らない。

 左腕は動くから、何とか起き上がれたけど。


「牢屋?・・・それに」


 下を見るとボロ布一枚だし、元々来てた制服もはぎ取られたの?

 こんなの、人権侵害だし、許されていい訳無い。

 

「私、そうだ・・・いったっ」


 お腹も頬も右腕も、何もかも痛い。

 最低最悪な状況だった。


――逃げないと。


(逃げないと奴隷として売られる)


 売られた後どうなるかなんて馬鹿でもわかる。

 女の私だ・・・凌辱されるし、それこそあのクソ老人が言っていたように一週間も持たない。


 脳裏に嗤う彼奴等の残像が過る。

 怖い、けど死ぬのはもっと怖い。


「はっふっ・・・ひっ」


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!



 脳裏に過る死と言う恐怖。

 見下し、嘲笑い舐る男達の幻影。


 逃げて・・・どうなる?

 もし逃げれてもきっと直ぐに捕まる。

 捕まって、殴られて・・・。


「助けてよ誰か・・・誰でもいいからっ」


 蹲り浅い呼吸を繰り返す。

 右腕に力が一切入らない、殴られた腹がズキズキ痛む。


 帰りたい・・・帰りたいよ。


◇◇◇◇◇


 何時間そうして蹲っていただろうか。

 少し落ち着いてきた。

 落ち着いて―――死ぬ恐怖を押し込めて考える。


(生きて、何とか元の日本に戻らないと)


 石畳の牢屋から吹き抜ける風が嫌に身体を凍える。


「何とかしないと」


 思い出せ、どうやればこの状況から逃げられるか。

 あるとすればスキルだ。


――PrismForgeあれが命綱。


(でも使い方が分からない)


 重たい身体だけど、立つしかない。

 鉄格子、あそこからなら通路が見える?

 痛いし、上手く歩けない―――兵士は居ない。少なくとも鉄格子から見える範囲は。


(よかった・・・地下じゃない)


 後ろを見て少しホッとする。

 部屋の上段に小さいが窓から月明かりが見える。


 それに、月明かりの下――窓の際から城が見える


(多分ここ、城の中じゃない。それに兵も居ない)


「そう言えばお披露目とか言ってた・・・だから見張りがいないのか」


 だとすると、このチャンスは長くは続かない。

 多分、数時間もすれば見張りが来る。


(そうしたら今度こそ終わりだよね)


 明日には奴隷として売り払われて、きっと死ぬ。

 呼吸が浅くなっていく。

 殴られた箇所が嫌に痛む。

 思い出すなっ。今は逃げる事だけ考えろ!

 死を連想するだけで勝手に体が震える。 


「はっ。ひっ・・・はぁはぁ。一日一回何でも武器や防具を呼び出せるだったはず」


 なら、それにかけるしかない。

 でも、重症の私・・・しかも只の高校生の自分に剣や槍なんかがあっても意味がない。


(銃・・・はありかもしれない。でも、弾が尽きれば終わりだよね)


 それに、そもそも此処から出ないと話にならない。

 多分近くには誰もいない。


 静かすぎる牢獄が幸いした。

 周囲の音がハッキリ聞こえる。


「外には誰もいない・・・そういえば、空ちゃんから聞いた覚えがある」


 空ちゃん。私の唯一の友達でサバゲーマニアの彼女。

 現代兵器が大好きな彼女が事あるごとに私に教えてくれたっけ。


――ある!


 空ちゃんが何時の日か言っていた。

 その時は適当に話を合わせてたけど、まさかこんな時に役に立つなんて。


(確かそう。C4爆弾だ)


 火も必要ない、雷管と言う物を粘土にぶっ刺して起爆させるタイプの爆弾って言ってたような気がする。

 時限式の電子タイプもあるとか。


 動画を見せながら嬉々として話していた空ちゃんに感謝しつつ、念じて見る。


(お願いします神様!出てください)


 その願いは確かに届いた。

――ポトリと地面に何かが落ちる音を聞いて閉じていた目を開けると、確かに見た事ある物があった。


(本当に出た!爆弾!!)


 ゆっくり、恐る恐る持ち上げる。

 空ちゃんの話だと、雷管を起動させないと絶対に爆発しないって話だったよね。


 粘土みたいな物と、電子部品がセットで揃っていて、電子部品にはタイマーを作動させるボタンの様なものと、赤く十の文字がデジタル出表示されている。


(このボタンを押したら十秒後に爆発するんだ)


 急がないと。

 これを起動したら直ぐに逃げないと、次に捕まったら今度こそ殺される。それどころか、私の能力がバレれば多分、あの二人ならきっと碌でもない事を思いつくに決まってる。


 幸い、折られたのは腕だけだ。

 身体中が痛いけど死ぬよりはまし。


 壁に爆弾を取り付ける。

 始めてで、しかも取り付け方も良くわかっていないので壁に付けるまでに少し時間が掛かってしまったけれど、関係ない。


 爆風から体を隠す場所・・・あそこがいいか。


 汚れた石造りの便器のうしろ。

 丁度人一人分が体を隠せそうだ。

 バクバクと心臓が脈打つ。

 震える手で私はボタンを押す。


 pippipi・・と電子音が響く。


 直ぐに便器の後ろに隠れて丸くなる。

(大丈夫っ大丈夫っまだ兵士も来てない)


 ピピピピピピ、ピー。


 ドンッ!と激しい爆発音と煙で咽る。

 爆風で吹き飛びそうになる体を必死で丸めて耐え忍ぶ。

 吹き飛んだ石の破片が身体に何度も当たるが、こんな痛みは何ともない。

 

 腕を折られた時よりはまし!



 キーンと激しい耳鳴りがする。音がよく聞こえない。でも、この爆発だ・・・きっと直ぐに兵士が来る。


 痛む身体を強引に起こして、土煙が充満する牢屋から走り出す。流石、現代の爆弾だけあって、ちゃんと壁は破壊されて外に出れるだけの穴が開いた。


 石が足に突き刺さって痛すぎる。

 でも我慢して急がないと・・・!?


「いやっいやだっ!!」


 走ってくる音が聞こえる!

 それも大勢の。


 転がる様に駆けだす。

 


 火事場の馬鹿力って本当にある!

 痛みも気にせず走れる・・・これなら逃げられる気がする。

 どうやら、廃教会の様な場所で右側に大きな城が見える。その反対方向は何処までも真っ暗な森が見え、不気味な様相をしていた。


―― 絶対に生き延びる。


 駆けだす。ひたすら、真っすぐ不気味な森の中に向けて、後ろから聞こえる怒号を聞きながら。

 何処まで逃げるのか、逃げた先は?なんて考えも捨てて、ひたすら、真っすぐ。


(捕まったら死ぬんだから!!頑張れ!私っ!)


 闇夜に紛れてひたすら逃げる。

 多分私の居た場所が爆発しているんだから、直ぐに追手が来る。


 「はぁ・・・はぁっ!」


 痛い。滅茶苦茶痛いでも、折られた時ほどじゃない。

 そもそも何で私がこんな目に合わないと行けないんだ!


 げほっと咽ながら走り続ける。

 行く当てもなく、ひたすらに。


――かくして、絶望の逃避行が始まった。



新作です。

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