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一話 『絶望少女の逃避行』良くあるテンプレと良くない話


 おお!!と言う多数の歓声と眩い光に目が眩む。

 暫くして目が慣れてきた頃、ようやく事態を飲み込んだ少女、石狩優実は辺りを見回して察した。


―― これは異世界召喚と言うやつだ。


 まさか本当に、こんな事があるのかと、まさか自分がこんな事に巻き込まれるのかと。ただ、それは自分だけではなかった。


(この2人、確か不良グループの)


 物珍しそうに辺りを見回す金髪の男女の事は知っている。

 彼らは自分の通う高校の先輩で半グレとも付き合いがあると噂されている二人だ。


「ようこそ!勇者様方!アルカナ皇国へ!」と言いながら尊大な態度で出迎える豪華な服飾を纏った老人。


 彼が話始めた途端に静かになる面々を後目に金髪の男神楽叶が「あぁ?何だよここは?」と面倒くさそうに告げていて「叶っちマジそれ!つーか、私達遊びの最中たったんだけど」と早乙女美鈴が一瞬私を見て便乗していた。


 彼女の言う遊びと言う言葉を聞いてブルリと無意識に体が震える。


(遊びって言えば、アレだ)


 彼女達の遊びと言うのは自分達にとって都合の悪い人間をリンチする行為だと聞いたことがある。

 そんな二人の愚痴を無視してニコニコと胡散臭い笑みを浮かべながら「それは失礼。ですが、私共としても急を要する事態でしてね」と話す老人。



「実は、貴方達を召喚したのは、この世界を脅かす憎き帝国を打倒していただきたいのです。彼等は傍若無人で野蛮な存在なので、何としてでも神の裁きを降さねばなりません」


「神の裁き??んな事どーでも良いんだよ。さっさと帰せよクソ爺が」

「そうそう!私もこんな面倒な話パス!」


「申し訳ないですが元の場所に戻すには帝国が持つ帰還の紋章が必要なのですよ」


 嘘だと私の直感が告げている。

 そもそも、帝国が傍若無人だというのも胡散臭い。


(何時でも帰せる紋章があるなら、それこそ帝国とやらが異世界召喚するだろうに)


「あの。そもそも私達は戦いとかそういうのは、力も無いですし」


 そもそも戦った事のない私が戦場とか死ねと言っている様なものだ。隣の二人はともかく。

 何で、こんな少年少女を戦争に引き連れようとしているんだ。それこそお前たちが傍若無人では無いか。 


「問題ありませんよ。えぇ」

「何が問題ないだ??」


 怒気強める叶を見ても顔色を変えない。

 いざとなったら、私達の様な未熟な存在等どうとでもなると思っているみたいな。いや、そもそも兵士に囲まれている時点で私達は危険な所に居る。


「えぇ。異界召喚の際には必ず女神様から特別な御力を頂きますから」


「それってスキルって奴じゃない?ほら、根暗オタクが言ってた奴!」

「根暗?あぁ、んなこと言ってたな」


 興奮している二人、馬鹿じゃないか?そんな面倒な事私は望んでいない。

 それに、スキルなんてあったらそれこそ、戦場に送る大義名分が出来るじゃない!


―― 嫌に決まってる!そもそも私は喧嘩だってした事ないのに!


「ほうほう。なにやらご存知のようでしたな。では、早速ですが女神の御力を確認いたしましょう」


 兵士の一人が、私達の元に来て、良く分からない石を手渡してくる。

 これで、何か分かるのだろうか?

 受け取った叶が「んだよこれ?」と汚そうに触り「マジキモいわ―」と美怜が指で摘みながらドン引きしている。


(普通の石みたいだけど)


 見た目はそこら辺に転がっている石みたいだ。


「それは鑑定石。念じれば女神の御力が分かると言われております」


 どんなテンプレだよ。そもそも、女神の力って私達召喚者だけの特権見たいな事を言ってたのに、何で

こんな物があるんだ。・・・隣の二人は、そこら辺全く理解してなさそうだ。現に、面白そうに石に向かって念じているし。

 嫌な予感がする。

 なんて言うか、私達を見る周りの目が値踏みするような―――嫌な視線だ。


「おぉなんだこりゃ?ははっ!剣聖だとよ!俺にピッタリじゃん」

「ねねっ!私は聖女だってぇ!ウケるッ!」


 ケラケラと笑う二人――お気楽すぎる。

 二人の言葉を聞いて「おぉ!それは素晴らしいっ」と大喜びする老人の態度も気にくわない。

 さっき迄値踏みしてたくせに、急に態度を軟化させてる。


 それに、あんなのが剣聖と聖女?ありえないでしょ。


 少なくとも、あんな不良が持ったらロクなことにならないような名前のスキルだし。

 虐められてた子達からすれば『ふざけるな』と言いたいだろう。


「では、そこのお嬢さんもお願いしますね」

「・・・はい」


 嫌な予感がしつつ私は言われた通り石を持って念じてみた。

 他の二人と同じように表示されるウインドウ。


 『異世界言語理解』

 異世界の言葉が理解できる。


(これが私達が普通に話せていた理由か)


 多分、これはあの二人も持っているんだろう。

 問題はこっちだ。


『PrismForge(プリズムフォージ)』

 虹色の鍛冶場

 一日一回まで一度でも見た事聞いた事のある実在する武器と防具を召喚できる。鍛冶職としての最高峰の適正を持つ。


 何度も内容を確認する。

(これは生産職って事?だとすると私は前線で戦わなくて済むかもしれない)

 戦いたくない私としては最高の結果だ。

 でも、何だろう嫌な予感が増してくる。


 「なにこれ?なんて書いてあんの?ぴゅしむ?ふぉーげ??」


 っ!?いつの間に隣に?

 私の鑑定石に書かれている事を読み上げようとする早乙女美怜。


 英語が読めないのか。


 難しい顔をしつつスキルを見ている。

 どうやらスキルの内容は私にしか見えないようで、スキル名だけをうんうん唸りながら独り言を喋っている。

 出来ることならこの二人とは関わりたくない。

 だけど、これが間違いだった。


――私を見る目が変わった。


 老人達や兵士が私を汚物を見るような目で見つめてくる。まるで失敗したみたいに。


「フォージ・・・鍛冶師ですか。失敗ですね」


(そうか!彼等は前線で戦える存在が必要で、鍛冶師なんて要らないんだ!)


 それに、彼女が英語が分からないのがマズかった。

 多分、只の鍛冶師だと思われている。

 これは、良くあるテンプレの追放ものだ。


  最悪だ。こんなわけの分からない場所でほっぽり出されるなんて―――いや、戦場に送りこまれないだけましか。


「彼女はどうやら巻き込まれただけのご様子だ。さっさと何処かに捨ててきなさい」


 冷たく言い放つ老人。

 だけど、私としても、こんな最低な老人に使われるのも嫌なので大助かりだ。


(さっさとここから・・・)


「おーちょい待てや。おっさん」


 あの眼は―――遊びを思いついた時の目だ。


 最悪な予感がして後退る。

 逃げないとマズイかもしれない。逃げ道は何処だろう?

 あそこから逃げられるか?


「なんですかな?剣聖殿」

「こーいう展開を根暗オタクから聞いた事があんだよ」


 ケタケタと笑う叶と、叶の隣に移動して不思議そうに眺めている美鈴―――逃げないと。


 叶が逃げ出そうとしている私を指差す。


「追放された奴が『ざまぁ?』するって奴。つまり何が言いたいかっつーと」


 ――コイツ!!

 見下すように私を見下ろす。


「追放じゃなくて殺せよ。ソイツ」

「ま、まって!私はそんな事する気ないっ!!」


「どっちにしろお前さっきから斜に構えててうぜーし、死ねよ」


 頭に火花が散った様な衝撃が来る。


 その場に蹲ってしまう。殴られたと気付いて、遅れて頬に伝わる強烈な痛み。


「ぐっ・・・うぅっ」


 殴られた頬がズキズキと痛む。

 喧嘩なんてしたことが無い自分にとって始めて殴られる痛みに思わず目から涙が浮かぶ。


「つーわけで、良いよな?殺して」

「ひゅー!叶っちサイコー」


 きゃいきゃいと騒ぐ美怜の頭を撫でる叶の手が少し赤くなっていて、彼が殴ったのがハッキリわかる。

 コイツ等狂ってる。


 本気で私を殺すつもりだ。


「ダメですよ剣聖殿」


 流石に止めてくれる。

 そう思った私が間違いだった。


 老人が嗤う。

 兵士も、豪華な服を身にまとった貴族みたいな男達も嗤う。


「この後お披露目があるのですから、それに一応罪のない人間を殺すのは教義に反します・・・ですが確かに剣聖殿の言う事も一理ありますね」


「なので」


 冷たく見下ろす――まるで汚物を見る様に。


「人間でない存在。奴隷として売りましょうか」

「あぁ!?奴隷だぁ?だから殺せって」

「いえいえ、ご安心ください。奴隷として落とされれば、一週間も経たずに小娘程度、息絶えますよ」


 ケタケタと周囲の人間達も嗤う。

 人間じゃない!なんで、人の生死に関わる提案を聞いて笑ってられるの!?

 「や、やだっ」


 ひっと声を上げ思わず駆け出す。

(に、にげないと、ほ、ほんとうに殺される)


 顔を真っ青にして駆け出す。

 でも、それを分かっていたかのように、一人の兵士が私の目の前に移動して、全力で腹を殴り飛ばす。


 ――吹き飛び、地を転がる。


 痛みで頭がパチパチと弾ける。


「あがっ!!い、いたいつ――やめでっ」


 蹲り嗚咽を漏らす。

 なんで、なんでこんなことに。


「きもっ」

「マジな。そーだ!美怜見てろ」


 ケラケラと笑う叶の声が上から聞こえる。

 

「や、やめって!!」


 私の片腕を持ち上げ――足を踏み抜く。


 バキッ!!!と聞きたくない音が響いて、強烈な痛みが右腕から伝わる。


「あああああっ!!!」

「はははっ!!さいっこーーー!」

「マジ叶っち鬼畜じゃ~~ん!」


 腕が折れて、ありえない方向に曲がっている。

 痛みと言うより燃えているような錯覚さえして、意識を保つ事も難しい。

 朦朧とする頭で、聞こえるのは周囲からの嘲笑の声だけ。 


「おどうさんっおがあさんッたずげてっ・・・おえっ」


 びしゃっと吐瀉物を撒き散らし、その場で気を失う。

 それを見て、ケタケタと悪魔のように笑う声がずっと頭に残り続けた。


――アルカナ皇国200年7月10日後世の歴史に残る出来事だった。



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