プロローグ 【奴隷少女】
―― 殴られたお腹が痛い。
必死で草木を掻き分けて走る。
ボロボロの布切れ一枚を羽織って。
―― 折られた右腕がズキズキ痛む。
夜の月明かりに照らされて、頬も内出血で膨れ上がっている。
後からは怒号が聞こえる。
―― 裸足で駆ける・・・何のために?
生きるため。
でも、もう駄目かもしれない。
痛みで頭がどうにかなりそうだ。
(お父さん、お母さんっ助けて!)
「あっぐぅ・・・はぁはぁっ」
うぅと嗚咽を漏らしながら涙で視界がぼやけて行く。もうダメだ・・・何のために私は走っているのかも分からなくなってきた。
楽になりたい。死んだら楽になれるのだろうか・・・もし、天国があるのなら、こんな世界からおさらばして、お父さんとお母さんに会いたい。
――後から聞こえる鎧の掠れる音が強く響く。
私を確実に殺しに来ている。
聞こえる怒号の中に笑い声が聞こえる。きっと笑いながら私を殺すのだろう。
ふと、死んだ私を凌辱する兵士達の幻影を思い浮かべる。
イヤだ!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
死にたくない!なんで、なんで私がこんな目に遭わないといけないの!?
絶対に間違ってる。
「はぁはぁっ・・げほっ。だ、誰かぁ!!た、たすけてっ!!」
助けなんてあるわけ無い。
そんな事わかってる!!わかってるけど、生きたい!
死にたくないっ。
(せめて・・・彼奴等だけは絶対に許さない!!)
こんな地獄の様な場所に呼び出され、奴隷に落とされて、許せるわけがない。
何回でも、何万回でも、絶対に殺してやる。
風切り音が響く。
「ああああっいだいッ!」
斬られた背中から血が噴き出す。
命が終わる。
それでも、生きたい・・だからっ!
ずりっずりっと這いつくばり、みっともなく生き足掻く。助かるわけないのに。
背後に立っている兵士が剣を振り下ろそうとしているのがわかる。
ケタケタと嗤いながら。
私の命を刈り取ろうと。
必死に手を伸ばす・・・もう助かるわけがないのに。
ふと温かい感触がした。
私の手を掴んで誰かが引っ張る幻想が見える。
「奴隷か?・・・ヒドイな、おいっ!誰か救護班を呼べ」
ボスっと何かに抱きとめられる。
上から響く温かい声が聞こえ、見上げるとボヤける視界で誰かが私を見ているのが分かった。
何人もの人達が此方にかけてくる。
後にいた私を殺そうとした兵士達が狼狽えているのが朦朧とした意識の中でハッキリと目に焼き付く。
「わかっているだろ?そこを超えたら、お前達を斬る」
(だれ?わたし・・・)
誰かが私に何かをしている。
温かい感覚がして、燃えるような痛みが柔いで行くのがわかる。
(温かい。死ぬのかな?わたし)
月明かりに照らされて少女『石狩優実』は意識を失った。




