九話 ローエンの鍛冶場
サシャさんによる治療を受けて数日がたっていた。ここ何日かは部屋で外の景色を見る毎日で、能力を使って靴や服なんかを能力で出したりしていた。スキルの防具判定はどうも日本の自衛隊や海外の軍が使っている物は一応防具と言う扱いになるみたいで、空ちゃんが見たら興奮するようなミリタリーファッション?で一式揃ってしまってサシャさんからは「それ女の子が着る服じゃないよ?」と呆れられてしまった。
グエンさんは時々来るのだけれど、扉を少し開けて中を覗いては「元気かぁ?」と尋ねてくる。
毎回少ししょんぼりしているけれど、私の事を気遣ってくれているのが分かって、悪い人では無いのだと今はハッキリわかる。
そんな数日を過ごしていた時にサシャさんから「今日は少しお出かけしようか」と声を掛けられ快諾したのはお昼ごろだった。
「じゃあ行こうか。ゆっくりで良いから立ってみて」
サシャさんに促されて、久しぶりにベットからちゃんと立ち上がってみる。
筋力が少し衰えているみたいで、立ち上がるのに少し苦労したけれど、何とか立てた。
「うん。大丈夫そうだね」
「はい。それにしても、良いんですか?こんな可愛らしい服頂いて?」
出かけるならと、サシャさんから淡い水色のワンピースを頂いて、着ているのだけれど、私のサイズにピッタリだし、多分買ってくれたんだと思って申し訳なく感じる。
「良いの良いの!それあの馬鹿が買ったやつだから」
「え?グエンさんがですか?」
頷くサシャさん。グエンさんが買ってくれたんだ・・・なんだろう。こんなに優しい人達に恵まれて本当に良いのだろうかと不安になってくる。
「そうよ!アイツ服屋で・・・ぷふっ」
思い出して吹き出すサシャさん。もしかして、不審者と間違われたのだろうか。
見た目は少し怖いけれど。
「えっと何かあったんですか?」
「えぇ!本人の名誉の為に秘密だけどね。さっ歩ける?」
本当に何があったのだろうか?と思ったけれど、サシャさんが秘密と言うくらいなので、聞かないでおこう。
ゆっくり、一歩ずつ歩く。倒れたりしない様にサシャさんが隣を一緒に歩いてくれる。だからか、不安感も無く、私は部屋を出る事が出来た。
廊下を歩き、外に出て、ふと疑問に思った。
グエンさんは何処にいるのだろうか?いつも、この時間に来ているのだけれど。
「あの、グエンさん?どこに?」
「あぁ、あそこだよ」
思い出した様に、サシャさんが明後日の方向を指さすと建物の脇から顔を半分だけ覗かせて見つめているグエンさんが居た。なんか、ストーカーみたいだよグエンさん。
「変態よねぇ」
「い、いえ。気遣ってくれてるって分かりますから」
私がまた、発作を起こさない様に配慮してくれているのだと。
もう大丈夫だと、頭では分かっているけれど、もしかしたらと心の何処かで思ってしまう。
「それなら良いんだけどね。さて、この街を外から見るのは初めてよね」
「はい。窓からは見えましたけど、こうして外を見るのは初めてです」
前に見た寂れた村と違い、街道もしっかりと舗装された美しい街並み。ヨーロッパの街並みみたいだと思った。
「ここはユーラシア帝国の辺境区フォーサイス領。綺麗でしょ」
「はい!すごく綺麗です」
辺境区。確か、国境沿いの街と言っていたっけ。それで此処まで綺麗なのだから、帝国はかなり豊な国なのだろう。サシャさんが手を繋いで私を連れて案内してくれる。
道中何度か男の人とすれ違って、その度に体が強張ったけれど、最初の時より大分良くなってきていて、発作の様な症状は起きなかった。
サシャさんが隣で手を繋いでくれているのもあるのかもしれない。
多分一人だと歩けないかもしれない。
「あの。サシャさん?ここは?」
「ふふっ今日の目的地の一つだよ」
歩くのを止めたサシャさんは一件のお店の前で立ち止まる。なんだか、かなり他の建物と違って無骨な作りの建物だ。看板にはローエンの鍛冶場とシンプルに書かれた文字。
「鍛冶場ですか?」
「うん。ここは私とグエンもお世話になってる武器屋よ」
あ、分かった。
彼女が此処に連れて来てくれた理由。多分私が自立できるように仕事場を探してくれていたんだ、スキルの恩恵があれば鍛冶師として生計を立てる事も出来ると。
任せてと言っていたサシャさんが、私の為に仕事場をちゃんと探してくれていた事がありがたい。
「ローエンは偏屈ジジイだけど悪い人じゃないから」
「ローエンさんですか?」
「えぇ。さぁ入りましょう」
スッと誘導して私と一緒にお店の中に入る。
店内はシンプルな様相で、想像していた様な、武器や防具が並んでいる様なお店では無く、カウンターがあるだけだった。カウンターには誰も居なくて、奥の部屋から金属を叩く音だけが響いている。
室内に入ったサシャさんは気にせず奥に入っていき、手を繋いでいた私も引っ張られるような形で奥に入る。
奥の部屋は鍛冶場になっていて、炉の熱気と鉄の匂いがする室内で一人の無骨な老人が黙々と熱で真っ赤に燃えている鉄をハンマーで叩いている。
「おーい。ローエン爺さん?入るよー!」
「あぁちょっとまってろ」
ジュウっっと叩いていた鉄を水で冷やし、立ち上がる。
「おせぇじゃねえかよ。遅すぎてコレッタ婆さんに依頼されてた包丁の焼き入れ始めちまったぞ」
「仕方ないでしょ。言ったじゃないまだ、怪我治ってないって」
ふんと鼻を鳴らして「たくっ」と文句を言いながら私を見つめるローエンと呼ばれた老人。
ビクリと体が無意識に震えて強張る。やっぱり、どうしてもまだ、少し男性は怖い。
「・・・聞いてたより小せぇな。肉を食え。体が持たねぇぞ」
「は、はい。あの、私、石狩優実と言います」
お辞儀して挨拶すると「あぁ。聞いているよ、俺はローエン・カンザスだ。よろしくな嬢ちゃん」と言ってサシャさんを見る。
やっぱりサシャさんが事前に話してくれていたんだ。
「で?さっきから、あそこで覗き込んでる馬鹿は何してんだ?」
「あぁあれ?病気だから気にしないで」
・・・まだ、覗いてたんだ。
半分だけ顔をだしてしょんぼりした顔して眺めているグエンさん。
「あの、グエンさん。入ってきませんか?」
流石に可哀そうに思って聞くとぱぁっと顔を輝かせて「良いのか?」と言いながら入ってくる。
やっぱり、体は緊張で強張るけれど―――グエンさんが優しい人だと、危害を加えない人だという事はこの数日でハッキリ分かっている。
それに私を助けてくれた恩人。
「変態め。何鼻の下の伸ばしてるのよサルがっ」
「あぁああん?てめぇに言われたくないね。つり目女」
額を突き合わせてにらみ合う二人と呆れた顔をするローエンさん。
これが彼らの日常らしい。
「夫婦漫才はよそでやれ」
「「誰がコイツと夫婦になるかよクソ爺が」」
「たくっ息ぴったりじゃねーかよ。まぁいいか。で、嬢ちゃん」
「はいっ」
ビクッと震えながらローエンさんに返事をすると、ジッと私の目を見て「悪かねぇな」と一言呟く。
一体なんだろうか。
「おい。サシャ、良いぜ。嬢ちゃんは内で預かる」
「お!ありがとうっ」
「最初から断らせないつもりだったろうが」と愚痴りながらローエンさんが私を見て「怪我が治るまでは俺の仕事を見てるだけで良いからな」と言って手を差し出してくる。
私を雇ってくれるのだとハッキリ分かって、私は怖いけど震える手を差し出して握手する。
仕事人の手だと思った。がっしりとした。優しい手だと。
それを見ていたサシャさんとグエンさんは顔を見合わせて何ぜか笑っていたけれど。
なんだか、気恥ずかしく感じた。




