十話 新たな日常
カーン、カーンっと鳴る音と熱気。
鉄の色を見ながら真剣にハンマーを叩くローエンさんを眺める。
それが、今の私の日常になっていた。
折れた右腕以外は比較的早く治って、今は毎日診療所からローエンさんの鍛冶場までグエンさんやサシャさんに送り迎えをしてもらっている。大分二人に慣れた私は時々体が強張るだけで、それ以外は発作の様な物が起きる事もない。
「良い色だ。分かるか嬢ちゃん」
「何となくですけど・・・熱がしっかり通ってる?って言い方が合っているのか分かりませんけど、そんな感じがします」
感覚的な物で、言語化は出来ないけれど。
私の指摘は正しかった様で「そうだ。この状態を覚えとけよ」と言って、熱した鉄を再度叩く。ローエンさんをサシャさん達が偏屈だと言う意味は最近分かった。
ローエンさんは客を選ぶ。一見さんでも武器は作るけれど『目が気に入らねぇ』と言われたお客さんにはどんな人にも売らない。実際に目の当たりにした時は驚いたし、そんな風にお客さんを選んでも商売が出来ているのだから、凄腕の鍛冶師なのだと思う。
「あの。何かお手伝いしても良いですか?」
「ダメだ。怪我が治るまで、そこでしっかり目に焼き付けとけ」
これだ。
私はこの鍛冶場で働いている事になってる。実際お給料も貰ったのだけれど、ローエンさんは簡単な仕事も全部一人でこなしていて、私は只、ずっと見ているだけなのだ。
それが、すごく申し訳ないと思って何度か手伝おうとしたのだけれど今みたいに止められてしまう。
「腕は職人の命だ。中途半端に動かせば取返しの付かない事になる。今は見て、心に焼き付けとけ」
「でも・・・」
「嬢ちゃん。今打ってるこれ、何になるか分かるか?」
真っ赤に燃える鉄を打ちながら私に問いかける。
「えっと。確か剣でしたよね。常連さんの」
「そうだ。アイツは帝国軍の所属だし、人当たりの良い真面目な奴だ」
カーンっと鉄を打つ音が響く。
「俺はサシャから一通りの事は聞いている。だからあえて言うが、これは人を殺す武器になる」
「・・・っ」
暑い室内なのに、体の芯から冷えていく感覚がする。
動悸が激しくなり、強張る。
思い出してしまう。あの日の事を。
「嬢ちゃんはこの武器は人を斬り殺す武器にしかなれないと思うか?」
叩いた鉄を冷やしながら、静かにローエンさんは呟く。
優しく諭す様に。
「武器・・は武器だと思います。人を殺す為の」
「――そうだな。だがよ。言ったろ?これを欲しているのは人当たりの良い真面目な奴だと」
ハンマーを置きふぅっと息を吐いたローエンさんが私を見る。
「こいつはよ。持論だが、人を生かす事も出来ると俺は思ってる。使い手次第で、それこそ嬢ちゃんを斬ったクソ野郎が持てばそりゃ、嬢ちゃんの言う通りの人斬りの武器さ。でもよ、その武器がなければ、サシャや、グエンが傷つき、もしくは死ぬかもしれねぇ。ずるい言い方かもしれねぇが、俺は自分の目で見て『生きて欲しい』と思う奴には俺の作った剣で守れると信じてるのさ」
――そうか。ローエンさんは気づいていたんだ。
私が、まだ心の何処かで恐怖が残っている事に。
人を殺す武器を作る事にも、それで、誰かが傷つき、もしくは罪の無い人が死んでしまう事を。
「守る為。そうですよね・・・あの。私、怖いです。自分が殺されるのも・・・サシャさん達が傷つくのも」
「なら、分かるだろ。先ずは治せ。そんで作れ、嬢ちゃんの大事な人を守れる武器をよ」
完治した手で彼らを、私を助けてくれた人達を守る為の武器を作る。
それが、私が返せる恩なのだと。ローエンさんは言っている。
「後、ついでに言っとく」
立ち上がって私に近寄るローエンさんは「ついてこい」と言って鍛冶場の外、カウンター横の部屋を開ける。室内はがらんとしていて、木箱が一つだけ置いてある部屋だった。
「あの、この部屋は?」
「倉庫だ。ここの鍵は俺が持ってる」
ドシドシと歩いて木箱に向かうと、開けて中から物を取り出す。
(あ、私が作った武器だ)
拳銃と弾が詰められたそれは、私が治療院でここ数日作っていた物だった。一日一回作り出せる能力で私が扱えそうな物を空ちゃんと話した記憶を頼りに作って隠していた物。それが何故かここにある。
「サシャが持ってきた。見れば分かる、自分で使おうと思ったな?」
「・・・はい」
責めるような声を聞いて俯いてしまう。ダメだと分かっても夜、ふとした時に思い出してしまう。私が皇国の人間に殺される幻影。その度に作っていたのだ。
「悪い事じゃねぇ。でも使い方を間違えるな、この武器は大事な人を守る為に使え」
「分かりました」
自分の為では無く、誰か大切な人の為に。
ローエンさんは私の恐怖を正しく理解していた。
「何があるか分からねぇ。それこそ明日皇国が攻めてくるかもしれねぇ。だから毎日これを作るのは止める必要は無い。だが、作ったら此処に入れとけ。もし本当に必要な時、使わないと行けない時は俺の責任で鍵を開ける」
背負うと、私がもし人を殺さないといけないときはローエンさんが責任を持つと言っている。
そんな風に良くしてもらうような人間では無いと私が一番分かっているのに。
「・・・ありがとうございます」
泣きそうになる自分を必死に堪えてローエンさんに感謝する。私は恵まれている。




