第99話 予想外と反省と
学園祭の初日も終わりに近づいてきた時間帯にクラスの出し物である喫茶店へとやってきたペシエラは、魚のフライを食べながら今日の疲れを癒している。
「明日とあさっては試合がありませんので、ようやく手伝いができましてよ」
ひと口食べたペシエラは、みんなに向かってそういっている。この言葉を聞いて、クラスのみんなは少しほっとした表情を浮かべている。
「それにしても、この魚のフライでしたっけか、結構おいしいですわね。海の魚がこのような料理になるとは、さすがですわ、お姉様」
「えへへ」
ペシエラからの高評価をもらって、チェリシアは嬉しそうである。
実際、この料理はペシエラの前世の知識を駆使して作り上げられたものだ。だからこそ、褒められて嬉しくなるというものである。
そのまま食べても白身魚の淡白な味わいと衣の食感で味わい深いのだが、このために用意したソースをかけるとまた味が変わってくる。
この王都では魚を食べることなんてのはまずありえないので、人気になったというのも頷ける話だ。
「これらは、すべてロゼリア様が一人で調理なさっておられるんです」
「教えていただくことはできましたけれど、さすがに調理まではさせていただけませんでした」
「それは仕方ありませんわね。ここまで魚を持ってこれただけでも奇跡的ですから、無駄にはできませんもの。慣れた方がされる方が一番なのですわ」
ロゼリアを弁護しながら、ペシエラはちらりとロゼリアに視線を向けている。
その視線の意味をなんとなく、ロゼリアは察した。
ロゼリアの様子を見たペシエラは、連れてきた対戦相手の四人を店から追い出す。ちょっと重要案件なので、クラスの外に聞かれるわけにはいかなかったからだ。
ただ、ちょっと不満げにしていたので、再選はいつでも引き受けるといっておいた。そしたら、機嫌を直してお願いを聞き入れたこれた。こっちもこっちでお調子者だ。
「気にかけているのは魚の在庫かしらね。すでに半分近くが消えているわよ。四日分を持ってきたはずよね、確か」
「うそでしょ? あんまりシェリアに迷惑はかけられないからって数は抑えたのはあるけれど、二百尾、八百食分を用意したのよ? もう半分近くが消えたっていうの?!」
ロゼリアからの証言を聞いて、チェリシアはショックを隠せなかった。営業時間に料理の手間、その他を考慮した上で割り出した数字である。
魚料理が珍しいとしても、想定を上回る消費量なのだから、これだけ驚くは当然というわけである。
ちなみに、単純四倍の計算なのは、半分に開いた魚の身をさらに頭側としっぽ側で切り分けているからだ。半身の二分割で四枚というわけだ。
「まあ、大体は想像つくと思うけれど、原因はペシエラね」
「あら、わたくしですの?」
ロゼリアの推測に、ペシエラは渋い表情を浮かべている。自分が原因というのは、いささか認められたことではないというわけだ。
しかし、クラスメイトたちの証言によって、それは事実であることを認めざるを得なかった。実際、多くの来客がペシエラを目当てでやってきた。ところが、ペシエラは武術大会に出場しており不在だった。そこで、ペシエラを目当てにしていた客たちは、代わりに珍しいものをということ頼んでいったのが、魚のフライというわけだった。
その味は瞬く間に口コミで広がっていき、ロゼリアが悲鳴を上げるほどの事態となったというわけなのだ。つまり、すべてはペシエラが原因で間違いないというわけだ。
「なんですの、そのこじつけみたいな理由は……」
ペシエラが呆れるのも無理はない。
だが、このままでは必要数が大きく不足してしまう。二日目以降は多少が勢いが落ちるとしても。最低、初日の半分くらいは仕入れてこないと足りない可能性がある。
「それだったら、私がどうにかするわ。転移魔法があるわけだし、馬車で片道十日の距離もどうにかできるわ」
さすがに不足は避けたいところなので、チェリシアがやる気を出しているようだった。
それというのも原因がペシエラであるのなら、姉である自分が頑張るべきだと考えたからだ。どこまでいっても姉バカである。
とまぁ、そんなこんなで魚の対処の方法が決まった。
それ以外にも、ロゼリアには今日の労いも込めてしっかりとやんでもらう。
こうして、しっかりとクラスとの間できちんと打ち合わせをしたロゼリアたちの学園祭初日は終わりを告げたのだった。
その日、屋敷に戻ったチェリシアとべシエラは、同じく帰宅したアイリスとニーズヘッグの見回りの報告を受ける。それによれば、特に変わった様子はなかったということで、ペシエラたちはホッと胸を撫で下ろしていた。
だが、こういう多くの人が出入りできる時こそ油断はできない。二人は翌日もしっかりと見回りを行うように言いつけていた。
逆行後の一年次の学園祭は、予想もしていないことがたくさん起きていた。
初日からこのような状態で、最終日である四日目まで無事に済むのであろうか。
それなりの大きさの不安を抱えながら、初日の疲れを取るべくチェリシアたちは眠りについたのである。




