第98話 初日の試合を終えて
学園祭の初日、ペシエラの予選はすべてが終わった。
行われた残り三試合、ここでもペシエラは圧倒的な強さを見せつけていた。
どのくらいすごいかというと、魔法を一切使っていない。ひらひらとした制服にかかとの高いブーツという恰好でありながら、対戦相手となる男子学生たちをまったく寄せ付けなかった。
小さな少女が可憐に舞いながら相手を圧倒する姿は、それは美しかったという。
「あれで十歳とか信じられねえな」
「まるで踊っているように感じられましたわ」
「なんという将来有望な方なんだ」
「はぁはぁ、幼女最高……」
ペシエラの戦いを観客席から見守っていた貴族たちは、完全にその姿に魅了されたようだった。
戦いを終えたペシエラの元に、観戦をしていたチェリシアがやって来る。
「ペシエラ、最高だったわ」
出くわすなり、笑顔でペシエラを抱擁している。さすがのペシエラもちょっとだけ迷惑そうである。
チェリシアに抱きしめられながらペシエラはちょっと不穏な空気を感じ、チェリシアに話しかける。
「お姉様。わたくし、少々今日の対戦相手の方々にご挨拶をしてきますわ」
「えっ、どうしたの」
「わたくしのような子どもに完敗したとあっては、ちょっと不名誉なことだと思いましてね。ちょっと声をかけてきますわ」
そういって、ペシエラはチェリシアのところから移動していく。
しばらくすると、今日の対戦相手を全員連れて戻ってきた。
「お待たせしましたわ。それでは、クラスの方へと参りましょうか」
「え、ええ。大丈夫なの?」
「問題はございませんわ。みなさま、本日の試合は終わられおりますもの。ですので、労いも兼ねて一緒にお食事でもとお誘いしましたのよ」
ペシエラの肝は据わりすぎていた。さすがは逆行前に波乱万丈な人生を送ってきたこともある。
チェリシアが戸惑う中、ペシエラは今日の対戦相手を連れてクラスへと向かっていった。
「あっ、チェリシア様、ペシエラ様」
クラスに戻ってきた二人が、教室の中に入ろうとすると、その姿を見つけたクラスメイトが声を上げている。その声に、教室の中にいた全員が一斉に視線を向けている。あまりにもそろった動きに、ペシエラはちょっとだけぎょっとしていた。
そうかと思うと、今話題の人物が姿を見せたとあって、教室内から一斉歓声が沸き上がっている。
「ちび、すごい人気だな」
「この人気っぷりには、ちょっと嫉妬しますね」
「これが特待生というものか」
「くっ、殿下の婚約者候補というのも納得だ」
対戦相手だった四人は、それぞれに反応をしている。
「みなさま、本日は申し訳ございませんでしたね。まさか本日にすべての試合が集中してしまって、まったく手伝えませんでしたわ」
ペシエラはクラスのみんなに謝罪しながら席に着く。
こんな風に素直に謝罪をするというのは、逆行前のことを考えるとなかなかに成長したものである。
ペシエラは、対戦相手だった学生たちにも適当に席に座ってもらい、注文を出している。
「あの、そちらの方々は?」
「本日の対戦相手の方々ですわ。さすがに武術大会に出られる方々です。なかなかにいい感じの戦いっぷりでしたわ」
相手の名誉のために、ペシエラは一方的だったということは黙っている。もちろん、チェリシアもである。
「ペシエラのことだわ。きっと一方的に勝ってしまったのでしょうね」
だが、奥から出てきたロゼリアはそうはいかなかった。とんでもない忙しさに気遣う余裕などないらしい。
注文のあった料理を持ってきながら、チェリシアを睨みつつ、まるで見てきたかのように声をかけている。
「ロゼリア様。殿方を立てるように口酸っぱく仰られておりませんでしたかしら」
「ぐぬ……」
それでもペシエラは落ち着いており、逆行前に散々言われてきた言葉を、あえてここで持ち出して言い返している。さすがのロゼリアも、思わぬ反撃にちょっと言葉を詰まらせてしまう。
「そ、それはそうだけど、ペシエラの実力からすれば、魔法もなしに圧倒する姿が容易に思い浮かぶものだわ」
「た、確かに。私たちとの体格差がありながらも、魔法は一切使っていませんでしたね」
「うん、そうだったな」
ペシエラとの戦いを冷静に思い出した四人は、顔を青ざめさせている。体格的に不利、それでありながら動きづらい恰好で魔法もなしに自分たちを圧倒したのだ。当然というものだろう。
「まあ、ペシエラ様ですものね」
「武術試験でペイル殿下を圧倒されていましたものね」
「このような天才と同じ時間を同じ空間で過ごせるなんて、至極幸せだ!」
クラスメイトたちにいたっては当然よねと言わんばかりに、ペシエラを口々に讃え始める。こんなことを言われ始めては、普段から落ち着いているペシエラも慌て始めてしまう。
あたふたとするペシエラの姿を見たみんなは、思わず笑ってしまっている。ただ一人を除いて。
「さて、チェリシア?」
「な、なにかな、ロゼリア」
「今日は私、とんでもない地獄を見たの。明日は、私の代わりに地獄を見てくれないかしら」
チェリシアの肩に手を置きながら、ロゼリアは顔を引きつらせながらチェリシアに声をかけている。
あまりにも静かな怒りを湛えているロゼリアの表情に、チェリシアは恐怖を覚えるのであった。




