第94話 一年次の学園祭
時は流れて、秋の二の月。
この時期、学園では大きなイベントが待ち構えている。
それは、ゲームや小説などではおなじみとなる学園祭である。学園祭では科やクラス単位での出し物が用意されていたり、入場の許可された商会などが店を構えたりなど、様々な催しが開催される。
だが、一番盛り上がるのはやはり武術大会であろう。
武術大会というのは、剣術や魔法などが飛び交うかなり目立つイベントなのだが、チェリシアのいう乙女ゲームの中では、ただの好感度イベントの一つでしかなく、特に一年次では選ばなくても済むイベントだったとか。
この学園祭中には、キャラによっては複数枚のスチルが用意されているらしく、周回が必須だったとのこと。
一年次で迎える学園祭は、チェリシアは少々浮かれている感じではあるものの、ロゼリアとペシエラの様子を見ていたらそうもいかない。
二人はあんまり逆行前の学園祭は覚えていないのだ。それに加え、パープリア男爵という敵が分かった以上、気が抜けない。対策を立てるべく、せわしく動いている。
そこで、カギとなるのがアイリスだ。
夏の合宿で死亡したことにはなっているのだが、姿と名前を変えて学園に通い続けている。ただ、あくまでもコーラル姉妹の侍女として付き従っているという体で、である。
ただ、名前のアイリスはそのままで、家名をフラウアードに変更しただけである。フラウアードの名は既に失われており、アイリスはその偉大な先祖の名前を拝借したのである。
そのアイリスの契約幻獣となったニーズヘッグも、学園に足を踏み入れている。彼は少々アイリスに執着しているところがあるので、やむを得ず特別に許可をもらった。下手にアイリスと引き離して暴れられたらたまったものではない。これでも元厄災の暗龍なのだから。
とはいえ、学生でないものを教室に入れるわけにもいかず、ニーズヘッグには学園内の仕事を手伝いながらの監視をお願いしてある。最初は嫌がっていたが、アイリスから頼んでもらうと、あっさり了承していた。
ちなみに、学園外のことはロゼリアの侍女であるシアンが担当している。
こうして、学園の内外で監視の目を光らせているのだ。
さて、肝心の学園の出し物だが、ロゼリアのクラスは喫茶店となった。
だいたいわかると思うが、発起人はチェリシアだ。メイド服に憧れを持っているのだとかなんだとかで、気兼ねなく着られるとこれを選んだらしい。
貴族が大部分を占める学園内でこんな案が受け入れられるかと思いきや、意外と学生たちはやる気を見せている。
だが、ここにはひとつ大きな問題があった。
「わたくしは、武術大会に出ますわよ!」
そう、ペシエラだった。
みんなが問題と見ている理由は、ペシエラの見た目と年齢だった。
まだ十歳ということで、みんなと比べてもひと回り以上小さいペシエラは、喫茶店という出し物において目玉になると考えていた。それに、ペシエラは特別入学の学生であり、ロゼリアや姉のチェリシアとともに王子の婚約者候補となっている。もし何かあっては大変ということで、ハラハラしているのだ。
「逆行前と比べると、かなり豪快な性格になったわよね」
「あれでも、ゲームのヒロインなのに……」
ロゼリアとチェリシアは、武術大会への参加に意気込むペシエラの姿を呆れた様子で見守っている。とはいえ、止める気はまったくないようだ。
ちなみに、逆行前のペシエラは今とは真逆ともいえる、かなり鬱屈した性格だった。あの時は膨大な魔法の才能を開花させていたとはいえ、貧乏なコーラル子爵家の娘ということで、強い劣等感を持っていた。
ところが、ロゼリアを蹴落とした後に女王の座に就き、責任者としての自覚を得たことと、逆行後にロゼリアとの確執が消えたことという条件がそろい、どこか吹っ切れたらしい。今では完全に戦闘狂の道を歩んでしまっている。
武術大会に出ると意気込むペシエラ。それを止めようとするクラスメイト。その戦いは、とある人物の登場によって終止符が打たれた。
「ペシエラ嬢」
「あら、ペイル殿下ではありませんの」
そう、隣国モスグリネの王子であるペイルの登場だ。
「まさか、ペシエラ嬢との再戦が叶う日が来ようとはな。君の出場の件、俺からも教官たちに進言しておこう。逃げるなよ?」
「あら、それは助かりますけれど、その後の言葉、一体誰に向かって仰られているのかしら。わたくしは、逃げも隠れも致しませんわよ?」
ペシエラとペイルの間に、激しい火花が散っている。
この激しいメンチの切り合いに、ロゼリアとチェリシアは顔を引きつらせている。
しかし、こうなってしまえばもはや脳筋たちは止められない。クラスメイトたちも結局諦めるしかなさそうだ。
ところが、ペシエラはクラスメイトたちに振り返り、右手を広げ、左手を胸の前に添えて、しっかりと宣言する。
「心配なさらないでくださいませ。武術大会のない時間は、きちんと手伝いに参りますわ」
あまりにも堂々とした態度に、クラスメイトたちは一瞬固ってしまう。そして、誰からともなく笑い始め、クラス中に広がっていった。
学生たちそれぞれの様々な感情が入り乱れる中、ロゼリアたちの一年次における学園祭が行われる時期を迎えようとしていた。




