第93話 暗龍が仲間に加わった
王都へと戻ってきたロゼリアたちは、プラティナやブラッサたちを家まで送り届けると、それぞれの家へと戻っていく。
家に戻ると、家族に対して今回の旅行のことを、食事の席で報告していた。
コーラル伯爵家の方では、アイリスも食事の席に同席させて、頭に着けている飾りに記録された映像を見せたので、ものすごく説得は簡単だった。
マゼンダ侯爵家の方は、ロゼリアからの話と、コーラル伯爵家からやってきた使いの話が合わさって、ようやく説得ができた。
そんなわけで、マゼンダ侯爵家とコーラル伯爵家は翌日に国王へと報告を行うことになった。こういう時に、婚約者という立場はとにかく便利である。
そもそも今回の旅行は、コーラル伯爵領の視察ということも兼ねている。出かける前に報告を行うという約束はしていた。ただ、そこに爆弾級の事実が判明したので、報告がちょっとばかり急ぎになってしまったのである。
翌日、登城をしたのはロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリスの旅行に行った四人と、両家の当主の全部で六人だ。
人数の関係で、謁見の間で国王と会う。
急な予定の変更だったにもかかわらず、よく国王も対応してくれたものである。ちなみに国王の側は国王、女王、宰相の三人だけ。近衛兵も含めて謁見の間には誰もいない。情報を漏らすわけにはいかないからだ。
そのような状況で、ロゼリアたちから視察の状況についての報告が始まる。
今回立ち寄ったシェリアもカイスも、以前と比べるとかなり発展をしている。特にシェリアは、現状では唯一、アイヴォリー王国内で海に面した街だ。ここを有効活用する手立てはないかと、王国でも考えているところである。
そこで、チェリシアから報告したのは、巨大な帆船と、暖かい気候を利用した保養地という案である。この報告を聞いた国王は、どうやら前向きに考えてくれるようだ。
さて、ここからが報告の本番。
「国王陛下、ちょっと見ていただきたいものがございますわ」
「うむ、何かな、ペシエラ」
手を挙げながらペシエラが話すと、国王は興味ありげに反応している。
国王の反応に対して、ペシエラが取り出したのは、アイリスのヘアバンドにつけさせていた録画魔法を施した魔石である。
その内容を見た国王たちの反応は、自分の父親のプラウスと同じ反応である。
「なんと……。三年前の報告にあった厄災の暗龍が、幻獣と呼ばれる存在だったのか」
「はい、その通りでございますわ。あの場にいたわたくしたちですら、いまだに夢のような話ですもの」
国王の言葉に、ペシエラはそう言葉をつなげている。
そうかと思えば、ペシエラはとんでもないことを言い出した。
「ここは、本人に説明して頂くのがよろしいでしょう。アイリス、お願いできますかしら」
ペシエラが話を振るも、アイリスはちょっとどころかかなり戸惑っている。
厄災の暗龍は、報告ではかなり大きなドラゴンと聞いている。国王たちが慌てるのも無理はない。だが、ペシエラの目は自信にあふれている。
「分かった……。アイリスよ、厄災の暗龍をここに呼ぶがよい」
国王に言われしまえば、平民となったアイリスには断れない。こくりと頷くと、立ち上がって前へと歩みである。
契約の証であるネックレスを握りしめながら、手を前にかざす。
「召喚、ニーズヘッグ!」
アイリスが叫んだ瞬間、どす黒い魔力の渦が現れる。その渦が晴れたかと思うと、アイリスの倍程度の大きさのドラゴンが現れた。
「ここは、アイヴォリーの城か、懐かしいものだな」
ニーズヘッグの第一声はこれだった。ということは、ニーズヘッグはアイヴォリーの城に来たことがあるということである。
そんなニーズヘッグを、国王たちはきょとんとした表情で見つめている。あまりにも小さかったので目を疑っているらしい。
「おぬしが、厄災の暗龍なのか?」
「いかにも。不完全な顕現と討伐の影響でほとんどの力を失ってはいるがな。あと、我はその名は気に食わん。ニーズヘッグと呼べ」
宰相が尋ねると、ニーズヘッグは素直に答えている。ただ、その目つきは鋭いものだから、宰相を含め国王たちも腰が引けている。
だが、さすが国王。すぐに気を取り直して質問をする。
「ニーズヘッグというのは、そなたの真名か?」
「いや、昔に勝手につけられた名前の一つだ。だが、ベルに呼ばれていたこともあって、我としては気に入っているぞ。それにしても、我が正気を失っている間に、かなり不愉快なことになったようだな」
ニーズヘッグの目つきがさらに鋭くなる。ペシエラ以外は、すっかり怯えているように見える。
「我の唯一の主であるベルの子孫をぞんざいに扱った上に、ベルの道具まで好き勝手使っているそうではないか。名は、パープリア男爵といったか? 万死に値するがゆえに、今すぐにでも引き裂いてやりたいものだな」
ここまで怒るあたり、ベル・フラウアードのことを本気で気に入っていたようである。
「だが、人間には人間のやり方があると聞く。ならば、ベルの愛したこの地のために、我は喜んで力を貸そうぞ」
ニーズヘッグは宣言をするや否や、自身をどす黒い魔力で包み込む。その魔力の渦は、どんどんと人間よりも少し大きいくらいまで縮んでいく。
魔力の渦が弾けた時、そこに立っていたのは、成人男性ほど背丈の整った容姿の執事姿の人物だった。
「これならば、人間の中に紛れていても問題はあるまい」
姿を変えたニーズヘッグは、体の調子を確認すべく、いろいろと体を動かしている。
そこへ、ペシエラが近付いていく。
「ニーズヘッグ、特に指示がない間は、アイリスとともに行動してくださいませんこと?」
「無論だ。ベルの子孫とあれば、この身を挺してでも守ってみせる」
「それと、アイリスの主人は、わたくしとお姉様ですわ。アイリスとともにということは、わたくしたちにも従う必要があるということ。お忘れなきよう」
「ぐわっはっはっはっ! やはりお前は面白いやつだ。いいだろう、お前は我の恩人でもある。その命令、従ってやろう」
まったくニーズヘッグにひるまずに意見をいうペシエラに、ニーズヘッグは強い興味を示したようである。
ニーズヘッグの高笑いが響き渡る中、ペシエラ以外はどうしたらいいものだろうかと、完全に固まってしまっていた。
こうして、厄災の暗龍改めニーズヘッグは、コーラル伯爵家に居候することに決まったのであった。




