第87話 お船に揺られて
シェリア視察の二日目、チェリシアはペシエラとともにみんなを連れて港までやってきた。
昨日の観光の時点でも目に入っていたのだが、それを目の前で見せるべく移動をしていく。
「じゃーんっ!」
よく分からない単語を言いながら、チェリシアは港にある巨大なものを指差している。そう、船である。
海に面していて船がないというのは残念だなということで、チェリシアが前世の記憶を元に作らせた大型の船である。元々手漕ぎボートくらいの大きさの船はあったのだが、そんなものとは比べ物にならない大型の帆船である。
これも学園に入るまでの間にチェリシアが用意させていたもののひとつである。
「これが仰られていた船ですのね、お姉様」
「ええそうよ」
ペシエラがチェリシアに確認をしている。
「こんな大きな船は見たことはないわ。ちゃんと海に浮かぶのかしら」
ロゼリアにも不安がられるくらいである。そのくらい大きいし、アンバランスに見えるのだ。
知り合いにまでこう言われるのであれば、まったく知らないプラティナたちにはもっと心配されるというもの。チェリシアは質問攻めである。
「ふふん。建造期間二年、学園に入る半年前に完成して、私がわざわざ確認している船よ。大丈夫に決まっているじゃないの」
控えめな胸を張って答えるチェリシアだが、誰しもが不安である。なにせペシエラですら知らないのだから。
さすがに全員から疑いを向けられては、反応に困るというものだ。
「な、なによ。私が建造に関わっているのに!」
こう叫んだチェリシアは、論より証拠と実際に船に乗ってもらうことにした。
ただし、その前にいろいろと注意事項を話しておく。
海は波が立っているので、時折思ったよりも揺れることがあること。気分が悪くなったら早めに申し出ること。などなどである。
説明を終えて船へと乗り込むと、いよいよ出航だ。
錨を引き上げ、係留してあるロープを外して回収。こうなると水に浮かんでいるだけの状態になるので、ちょっと力を入れて押してやれば、ゆっくりと進んで陸地から離れていく。
今回乗っている船は、チェリシアの前世の記憶を元に造られた中型の帆船。人の手で造れるほどの大きさとなると、そんなに大きなものは難しい。建造に二年はかかったらしいが、初めて造るちょっと大きめの乗り物ゆえに、試行錯誤があったためだ。
全長は二十五メートル、高さは三十五メートルで、帆を張る柱は二本。ようやくでき上がった船はこんな感じだった。それでも、湖での遊覧、川での渡し船などの小型の船舶しかなかったアイヴォリー王国においては、非常に大型になってしまう。文化の違い、技術の違いというのは明らかである。
そんな船は、波と風によって進んでいく。普段は塩作りのために来てもらっている魔法使いに念のために乗り込んでもらっているが、今日はチェリシアがいるので乗り込んでいない。なぜ魔法使いが乗り込むかというと、風と波があさっての方向に船を流してしまわないようにするためだ。シェリアに戻ってこれなければ意味はない。
ロゼリアたちの乗った船は、無事に沖合へと向けて進んでいっている。
「へえ、日差しは少し厳しいですけれど、風が意外と心地よいですね」
プラティナは意外と船というものを楽しんでいるようだ。
「この船というものを使えば、陸路で移動しづらい場所へも向かうことができますね。そうなれば、今までよりも交易の幅を広げられそうです。これはお父様たちに報告しませんと」
ブラッサはこんなことを言う始末。さすがはドール商会のお嬢様である。いかなる時でも自分たちの商売につなげてしまう、根っからの商人気質のようだ。
ただ、弟であるロイエールを連れてきたかったと、ちょっと残念がっているようだった。
そのつぶやきが聞こえたチェリシアは、すかさず声をかけに近付く。
「ええ、見学でしたらいつでも歓迎いたしますよ。ぜひともドール商会の商会長様とロイエール様にもよろしくお伝えください。コーラル伯爵家として歓迎しますから」
ウィンクをしながら親指を立てるチェリシアの姿にちょっとびっくりしながらも、ブラッサは首を縦に振っていた。
ちなみに、シェリアから最も遠くなった位置で一度停船して、釣りも楽しんでもらった。さすがに良家のお嬢様たちには難しかったようだが、ロゼリアたちは慣れたものである。
ただ、意外だったのはグレイアで、これでもかというくらいに釣り上げて周りを驚かせていた。
そして、午前中を丸々使った航海が終わると、少し名残惜しそうに港へと戻っていった。
もちろん、この時の様子はカメラとコーラル姉妹の写真魔法によって記録されており、その日の夜のうちに本人たちに手渡されることとなった。
その日の夜の食卓に並んだのは、その日に自分たちで釣り上げた魚を使った料理。たった二日間とはいえど、今回同行してくれたプラティナたちにとって、よい思い出となってくれたことだろう。
これでシェリアでの滞在の二日間が終わる。翌日には次の目的地である高台にある村カイスへと移動するために、シェリアを出発するのだ。
三年前の魔物氾濫が起きるまでは、枯れた土地だったカイス。この三年間で一体どこまで変わったというのだろうか。
久しぶりに訪れることになるロゼリアにとっては、とても気にかかることなのであった。




