第84話 披露と懇願
ヴィオレス・パープリアと話を終えたロゼリアたちは、国王たちと合流する。
なぜ合流したかというと、エアリアルソーサーを実演するためだ。これは簡単に真似できるような魔法ではないので、他人に見せても問題ないという判断からである。
「場所は確保しておる。さあ、見せてもらえるかな、チェリシア嬢」
「承知致しました」
国王に言われたチェリシアは、エアリアルソーサーをすぐさま発動させる。
チェリシアの目の前には、風というか空気の塊というか、なんとも形容しがたい物質が出現する。先程、執務室で見せたとおりの魔法である。
「やはり、すごい魔法だな」
国王は、なんとも簡単な感想を口にしている。
「チェリシアよ。この魔法には何人が乗れる。そなたの魔力でいかほど維持できる」
「人数に関しては試したことがありませんが、三人は余裕です。私の魔力では、朝から夜まで出しっぱなしでもまったく問題ありません」
「ふむ……。それほどまでに維持できるとは、恐ろしい娘よな。人数に関してならば、ちょうどよいではないか」
女王の方は性能が気になったようで、訓練場にいる騎士や兵士たちに声をかける。
何かと思えば、騎士や兵士たちを使って、何人乗れるのかを試そうというわけだった。確かに、人数がいる場所なので、試すには都合がよいというわけだ。
そうして呼ばれた騎士や兵士たちが、チェリシアのエアリアルソーサーへと順番に乗り込んでいく。
一人、二人、三人……。
騎士たちが乗り込んでいく様子を、チェリシアたちはじっと見つめている。
やがて十三人が乗り込むが、なんと無事に乗り込めてしまった。鎧をガッチガチに着込んだ騎士たちがである。ただ、絵面的にはかなりの地獄だ。実に暑苦しそう。
十四人目が乗り込もうとした時、踏み入れようとした足が見えない壁に阻まれて、兵士はバランスを崩して倒れてしまう。どうやら、魔法の方が拒否をしたようだ。
「ふむ、十三人も乗れるのか。ずいぶんと乗れるが……。快適に乗るには半分くらいまでが精一杯といったところのようね」
「じょ、女王陛下。降りても、よろしいでしょうか……」
女王は冷静に状況を見守っているが、さすがに訓練中の騎士や兵士たちが集まっているので、汗臭くてかなわないらしい。嫌そうな顔をしながら必死に訴えていた。
だが、女王はこれで終わりにしなかった。エアリアルソーサーの性能をさらにチェリシアに確認しているのである。
チェリシアの方はさすがに女王相手では嘘は言えない。すべて正直に答えていた。周囲には防護魔法がかかっていて、外からの飛来物などを防げることや、この城のてっぺんよりも高く飛べることなどすべてである。
「なるほどな。よし降りてよいぞ」
「助かった……」
騎士たちはほっとした様子でエアリアルソーサーから降りて、訓練へと戻っていった。
「さて、後はそちらのアイリスの件だな」
「さすがにここでは場所が悪い。広さが必要であるなら、謁見の間を使うとしようか。むろん、人払いもする」
国王と王妃がアイリスへと視線を向けている。もちろん理由は神獣使いのことだ。
これもさすがに断われないために、ロゼリアたちは了承するしかなかった。
謁見の間へと移動すると、護衛騎士たちは全員退去させられる。なにぶん機密情報なのだから、しょうがない。
謁見の間の中にはロゼリアたち五人と、国王、女王、宰相の全部で八人だけとなった。
「召喚、蒼鱗魚」
アイリスが言葉を唱えれば、その場に一対の蒼鱗魚が出現する。
蒼鱗魚は水中でないというのに、空中を優雅に泳いでいる。
「おやおや、ここはどこだい?」
「お呼びですかな、神獣使いの子よ」
「しゃ、しゃべっておるぞ」
アイリスの近くに来て話しかけている蒼鱗魚を見て、国王たちは怯んでしまっている。
「こちらが、アイリスが契約した幻獣『蒼鱗魚』でございますわ。どうやら番のようでございますわ」
「ふ、ふむ……。一応、王家の間では神獣や幻獣なるものは伝えられてはおるが、まさかこの目で見られる日が来ようとは……」
「魚が空を泳いでいるなど、なんとも不思議な光景なことよなぁ」
王家の間には伝承として伝わっているらしい。その伝承が、目の前に現れた。国王も女王も不思議な気持ちになる。
だが、その伝承の存在を呼び出したのは、自分たちの息子や隣国の王子を殺そうとした人物だ。国王も女王も、その心持はなんとも複雑なものであろう。
国王たちの話を耳にしたアイリスは、おそるおそる口を開く。
「国王陛下、女王陛下、無理を承知でお願いがあります」
「うむ、何かな?」
「私、神獣使いについてもっと知りたいと思います。王家の書庫を、使わせていただけないでしょうか」
王家の伝承として存在するのなら、記録があるかもしれない。アイリスのどちらから神獣使いの血筋がつながっているか分からない。そして、その情報があるだろうパープリア男爵家には近付けない。となれば、王家の文献に頼らなければならないのは明白。アイリスはそう考えたというわけだ。
国王たちは少しの間考えたのだが、アイリスの真剣な表情を見て結論を出す。
「分かった。ロゼリア、チェリシア、ペシエラの誰かと一緒であるのならば許可をしよう。だが、己が立場をゆめゆめ忘れぬようにな」
「もちろんでございます。許可を下さり、感謝致します」
宰相が許可を伝えると、アイリスは元令嬢らしく淑女の所作をしっかりと行い、感謝の気持ちを述べている。
許可が下りたことで、その真実に迫れる可能性が生まれたのだから、当然の気持ちである。
無事に城の書庫の使用許可証を得たロゼリアたちは、国王たちへと感謝を示して退城するのであった。
この世界にはまだまだ誰も知らないようなことがあふれている。
自分たちの持つ記憶が役に立たない可能性が高まった今、ロゼリアたちは新たな知識を得る重要性を感じている。




