第83話 調査報告
サファイア湖の調査を終えてチェリシアたちが王都に戻ってきた翌日、王族にその内容を報告するためにお城へと出向いた。
前日にシアンを通じて謁見の許可を申し出ていたのだが、さすがは王子の婚約者という立場が響いてか、意外とあっさりと許可が下りていた。なので、こうして出向いているのである。
登城したのはロゼリアとその侍女シアン、チェリシアとペシエラの姉妹と重要参考人のアイリスの五人である。だが、通された部屋は謁見の間ではなく、国王の執務室である。
謁見の間ではなく執務室になった理由は、極力外部へと情報が漏れるのを防ぐためだ。サファイア湖に調査に行くことはシルヴァノを通じて伝えてあったがゆえだろう。部屋にいるのもクリアテス国王、ブランシェード女王、宰相ブラウニルの三人であり、王子たちすらいない。
「国王陛下、女王陛下、宰相閣下。此度は急な申し出に対応下さり、感謝申し上げます」
謁見する中で一番目上であるロゼリアが、感謝の弁を述べている。
「そのことはよい。それよりも、サファイア湖の調査はどうだったのだ?」
どうやら国王は、調査結果の方が気になって仕方がないようである。
そこで、チェリシアは持ち帰った宝珠を取り出してテーブルの上に置く。収納空間のことを知られるわけにはいかないので、事前に取り出して箱に入れて持ってきた。
そして、鑑定結果によって判明したことを説明していく。魔物の召喚が行えるものの種類は特定できないこと、材質や製法は判明しなかったことなどである。
「ふむ、ご苦労。して、チェリシアよ」
「なんでございましょうか、女王陛下」
報告が終わると、今度は女王から質問が飛んでくる。
それは、王都とサファイア湖の往復手段である。
王都とサファイア湖の間は馬車で七日間かかる。ところが、チェリシアたちはたったの五日で戻ってきた。
さすがにこれはごまかしようがない。
チェリシアはロゼリアとペシエラの間で目配せをすると、種明かしをすることにした。
「移動に使用したのはこちらでございます。エアリアルソーサー!」
許可をもらった上で、テーブルから離れた位置で魔法を披露するチェリシア。チェリシアの目の前には、空気の受け皿がふんわりと浮いている。
「なんだそれ!」
「エアリアルソーサーと申しまして、こちらに乗ってサファイア湖のとの間を往復してきたんです」
「なるほどのう。だが、説明を聞くにしてはここでは狭い。場を改めて聞くとして、サファイア湖の報告の続きをしてもらおうか。どうせそなたらのことだ。他にもあるであろう?」
国王や宰相が驚く横で、女王は冷静だった。確かにエアリアルソーサーを執務室で出し続けるには狭い。そんなわけで、サファイア湖の話に戻る。
そこで、アイリスが蒼鱗魚という幻獣と契約し、過去に存在した神獣使いという存在であることを報告する。だが、幻獣という言葉には強く反応を示したものの、蒼鱗魚も知らない様子だった。
実際に召喚してもらおうと思ったが、こちらも執務室では狭すぎる。エアリアルソーサー同様、場所を改めることとなった。
さて、報告が終わると、ロゼリアたちは国王たちに頼み込み、訓練場へと移動することになった。エアリアルソーサーなどの確認を行わせてもらえるのならという条件付きである。
了承したロゼリアたち。なぜ訓練場へと向かうかというと、ペシエラの逆行前の記憶通りであるならば、城の訓練場にとある人物が来ているはずだからだ
訓練場に到着すると、ペシエラが思わず声を上げそうになる。
「ペシエラ、ヴィオレス・パープリアがいたのね?」
「ええ。あの奥の辺りで剣を振るっている人ですわよ」
そう、ロゼリアたちの目的は、アイリスの兄であるヴィオレス・パープリアに会うことだった。
逆行前の話では、ヴィオレスがパープリア男爵家を飛び出したのは、帰還したその日のこと。アイリスの死をめぐって父親と口論となって家出をしたのだ。
「おう、ロゼリア嬢、チェリシア嬢、ペシエラ嬢。どうしたんだ、城の訓練場……って、国王陛下、女王陛下申し訳ございません」
ロゼリアたちの姿を見つけて寄ってきたのはオフライト・ノワール。だが、すぐに国王陛下たちの姿を見つけて跪いていた。
すると、国王たちは空気を呼んでか、自分たちはすぐに席を外していた。学生たちだけで話をするように仕向けてくれたのである。
「あー、驚いた。で、何の用なんだ?」
「あちらの紫髪の男性のことでちょっとですね」
「ああ、ヴィオレス・パープリアのことか。なんでも親とけんかをして飛び出してきたらしくてな。騎士を目指したいっていうから、俺のところで預かってるんだよ」
「でしたら、ちょっとお呼びいただけないでしょうか」
「分かった。ちょっと待っていてくれ。おーい、ヴィオレス!」
オフライトはロゼリアの頼みを聞き入れて、ヴィオレスを呼ぶ。鍛練に打ち込んでいたのに呼ばれてしまって、ヴィオレスは不機嫌そうにしながらもオフライトのところに駆け寄ってきた。
「お兄様」
「君は、アイリスですか?」
ヴィオレスを見たアイリスが、我慢できずに呼んでしまう。そうしたら、変装しているにもかかわらず、ヴィオレスはアイリスを一発で見抜いていた。さすが兄妹だ。
「ええ、このお三方にかばわれて、今はコーラル伯爵令嬢つきのメイドをしています。表向きは死んだことになっているけれど」
「ということは、死んだ証拠として見せられた血染めのドレスは偽装だったのですか。なぜ、このようなことを?」
アイリスが事情を説明すると、ヴィオレスはさらに詳しく聞いてこようとする。しかし、アイリスは首を横に振って答えなかった。
しかし、その様子を見たヴィオレスは何かを察したようである。
「分かりました。では、俺は鍛練に戻りますので、これで失礼します」
空気を呼んだヴィオレスは、一礼をして鍛練へと戻っていった。
王家への反逆を企んでいるパープリア男爵の息子とは思えない、実に礼儀正しい姿だった。
しかし、パープリア男爵家の人間である以上、警戒は簡単に解けない。
ロゼリアたちは、オフライトによく見ておくように頼み、国王たちと合流することにしたのだった。




