第8話 マゼンダ親子の会話
チェリシアを帰らせた後、部屋に戻ってきたシアンに対し、ロゼリアは父親であるヴァミリオと話ができるように申し入れをするように命じる。その理由は、チェリシアから聞いたことで、父親と相談をするためだ。
海が近くにあるというのに、この世界の塩は岩塩がメインだ。現在、岩塩が取れるところは場所が限られているため、塩ですらも高価なものである。
チェリシアの話していた通り、海水から塩を取り出せるようになれば、かなりの量産化も見込まれる。一気に塩が普及する可能性があるというわけだった。
ところが、すぐにでも話をできるようにと持ち掛けたのに、忙しいということで断られてしまった。重要な話だというの困ったものである。
仕方がないため、夕食で家族が揃った時に、ロゼリアは改めてヴァミリオに二人で話がしたいと申し入れた。さすがに直に真剣な表情で訴えられては、父親も応じずにはいられなかったようである。結果、夕食後に父親と話をする機会を設けることができたのだった。
「失礼致します、お父様」
「うむ。大事な話とは何なのかな、ロゼリア」
夕食後、ヴァミリオと一緒に父親の部屋に移動したロゼリアは、父親と向かい合っている。
真剣な表情を向けるロゼリアに対して、ヴァミリオは話が何なのか、確認をしている。
「はい。実は本日コーラル子爵令嬢であるチェリシア様からお話を聞かされたのですが、それがとても興味深いことでしたので、お父様のお耳にも入れておこうと思いました」
「興味深いこと?」
ロゼリアの話を聞いて、ヴァミリオは顔をしかめてしまう。
「チェリシア様のお話では、自分の領地で海水をなめたことがあるとのことなのですが、その味が岩塩をなめた時と似通っているとのことなんです」
「ほう、それは興味深いね。海はコーラル子爵領しかないから、他の者はなかなか知ることはないから、初耳だよ」
興味深いとは言っているものの、ヴァミリオの顔はそんな大したこととは思っていないようである。このままではいけないと、ロゼリアはさらに話を続ける。
「チェリシア様のお話では、海水から塩を採ることができるではないかとのことでございます。そのために、国の魔法使いをお貸し願えませんでしょうか」
「うん、どういうことだ?」
ロゼリアは、チェリシアが転生者で、そのことを前世の記憶で知っていることをしっかり伏せてヴァミリオに話をしている。
ところが、ヴァミリオはかなり不審がっているようで、眉間にしわが寄りっぱなしである。
その顔を見たロゼリアは、このまま引き下がれないと、どうにか食い下がろうとする。未来を変えるためには、コーラル子爵領の改善は不可欠なのだと確信しているのだから。
「海水から塩を採るのはいい。だが、それでなぜ国の魔法使いが必要になる。魔法であれば私やカーマイルたちだって使えるのだからな」
「それは……。ちょっと特殊な方法ですので、魔法のエキスパートに頼むのがよろしいかと考えたからでございます」
「特殊な方法?」
ヴァミリオは露骨に怪訝な表情を向けてくる。
それに対して、チェリシアの話に興味があって、家の書庫を調べていて見つけたとごまかした。
ところが、父親からの疑う視線は変わらなかった。
実際、逆行前のロゼリアが魔法について学んだのは、魔法の使用が可能になる十歳になってから。この時点で魔法のことに興味を持つというのは、父親目線からして疑わしいと思われたようである。
「まあ、いい。その特殊な方法というのを話してみろ」
目が泳いでいることに信用ならなかった父親だが、わざわざ自分に大事な用があると持ち掛けてきたのだから、せめてそのくらいは聞いてやろうと思ったようだった。
話を聞いてもらえるということで、ロゼリアは少し安心する。ふうっと一度呼吸を整えて、ロゼリアはその方法を話す。
「水魔法か土魔法を使い、水とそれ以外のものを分けるという方法です」
「驚いたな、その方法を知っているとはな。水は水属性を使える者がいれば生み出せるが、必ずいるとは限らない。そういう時に土魔法を使える者が水と泥を分けて飲み水を確保するという、非常時にのみ推奨される方法だな。なるほど、それを応用しようというわけか」
驚く父親の顔を見ながら、ロゼリアは何度もこくこくと頷いている。
「分かった。どこでその知識を手に入れたか知らんが、試してみる価値はありそうだな。今度、コーラル子爵と話をすることにするが、その場にはお前も同席しなさい」
「はい!」
ロゼリアは素直に喜んだ。が、次に出てきた言葉にロゼリアは青ざめてしまう。
「その席には、宰相殿はもちろんだが、シルヴァノ殿下にもご同席いただこう」
「え、なんで……」
宰相はまだ分かるのだが、なぜシルヴァノを呼ぶのか。ロゼリアにはまったく理解できなかった。
それだけではない。シルヴァノといったら、逆行前に自分を断罪した人間だ。その時のことが頭によぎってしまうくらいに、ロゼリアはシルヴァノに対して苦手意識がこびりついてしまったのだ。
とはいえ、八歳の自分ではとても父親のいうことには逆らえない。やむなくロゼリアは受け入れるしかなかった。
部屋に戻ったロゼリアは、力なくベッドへと倒れ込んでしまう。話が予想もしていない方向に動いてしまったからだ。
しばらく動けなかったロゼリアは、不意に自分の机の方へと視線を向ける。そこには食事前まで確認していた、逆行前のことを記したメモが置かれている。そのメモの紙が目に入ったロゼリアは、ベッドから起き上がる。
「断罪される未来を変えるためにも、なんとしてもこの話は成功させなくちゃ……」
メモに目を通しながら、改めてロゼリアは決意を固めたのだった。




