第7話 コーラル子爵領改造計画
マゼンダ侯爵邸から戻ったチェリシアは、コーラル子爵領の改革に向けて早速動くことにした。
侯爵邸からの帰り道で、早速市場で芋とトマトを購入して屋敷に戻る。
チェリシアはどことなく焦っている。
(お父様だって、領地のことで手をこまねいているわけではないわ。なんとしてでも領地の経営がたちゆくようにと努力をしている。でも、限界はあるわ。なんとしても、私の前世知識を領地改革に活かせられないかしら)
せっせと芋とトマトを植える鉢植えを用意しながら、チェリシアはいろいろと考えを巡らせている。
チェリシア自身は、自分の親の領地を見たことがある。
それは前世の記憶を取り戻す二年前の六歳の時。その時のチェリシアが目にしたのは、塩害により全滅した海岸の畑だった。
実はコーラル子爵領は。海からは海水を含んだ風が、山からはフェーン現象によって熱を帯びた風が吹きつけ、そのコンボによって作物が大打撃を受けていたのだ。
普通に考えればそこまで大事に至る現象ではないだろうが、コーラル子爵領ではまるで何かの力が働いたかのように、作物の育たない環境を生み出していたのだ。
(作物を育てるには、この異常気象をどうにかしないといけない。この世界には魔法があるけれど、話によればコーラル子爵領には魔法使いがいないとか。私が十歳で覚醒をするとはいっても、それまでもつかどうか疑問だわ)
チェリシアはプランターに芋とトマトを植えながら、うーんと唸っていた。
ゲーム内のチェリシアは、十歳の時に能力を開花させて、そのチートで無双するヒロインだった。
しかし、今のチェリシアがいる場所はゲームではなく現実の世界。何が起こるか分からないので、チェリシアはいろいろと不安になっている。
(私一人で悩んでいても仕方ないわ。ロゼリアに相談をしてみましょう)
プランターを完成させたチェリシアは、部屋に戻ると早速ロゼリア宛に手紙を書くのだった。
翌日になると、チェリシアはマゼンダ侯爵邸を訪れる。
「おはようございます、ロゼリア様」
出迎えを受けたチェリシアは、きれいな挨拶をしている。ロゼリアと一緒に受けた淑女教育がしっかり身についているようだ。
しっかりと所作ができていることに感心をしたロゼリアは、すぐにチェリシアを連れて自分の部屋へと移動する。
「どうしたの。会ったのは昨日の今日、まだ交流の日ではないわよ」
部屋に入って落ち着くなり、人払いをしたロゼリアはチェリシアに事情を尋ねている。
「申し訳ないです。ただ、考えている間にいてもたってもいられなくなってしまって……」
「分かったわ。とにかく話を聞きましょう」
申し訳なさそうに下を向きながら、上目遣いで話をしてくるチェリシアに、ロゼリアは可愛さを感じて思わず咳払いをしてしまう。
改めてロゼリアからの視線が向けられると、チェリシアはコーラル子爵領の改善計画を話し始める。
「私が思ったのは、領内にある港町シェリアをまずは活用しようという案です」
「……詳しく聞かせてちょうだい」
ロゼリアが興味を示したので、チェリシアは考えたことを話し始める。
塩害が発生しているというのに、塩のことを放置していることがまずは気になったようなのだ。
なので、海水から塩を作るということを話している。
「海水から塩? それはどうやって作るのかしら」
「水分を蒸発させるんです。お湯を沸かすように火にかけたり、天日で自然蒸発させたりと、方法はいくつかあります。魔法があるので、海水から塩の成分と水を分離させるという方法だって使えると思います」
「魔法で……。それは面白いわね」
興味を示していたロゼリアだが、方法を聞いて渋い顔をしている。
「魔法で取り出すにしては、海は大きすぎるわ。さすがに無理でしょ」
「はい。ですから、桶に汲み取ってから魔法を使うんですよ」
ロゼリアの反応は予想していたので、チェリシアはすぐさまその方法を提案していた。
「塩と水を分離させれば、残った水は真水になります。そのまま生活用水として使うことだってできるんですよ」
「なるほどね」
チェリシアの話を聞いて、ロゼリアはとても感心していた。前世というものを持っているとはいっても、まさかここまでとは思ってもみなかったからだ。
「塩だけ分離することができれば、塩害に悩む海岸沿いの土地も解決できるでしょうし、やってみる価値はあると思います。ただ、子爵領内に魔法使いがいない、それだけが問題なんです」
チェリシアの訴えを聞いたロゼリアは、ものすごく考え込んでいる。
理由の一つは魔法の使い方だ。現在の魔法の使い方は、ほとんどが戦いに特化したものである。それ以外だとせいぜい火起こしと明かり取りくらいにしか魔法を使うことはない。そんな使い方は一度も考えたことがなかったのだ。
もうひとつは、魔法を使える人物を探すことだ。ロゼリアたちだって魔法が使えるだろうが、この世界では基本的に十歳になるまで魔法が使えないとされている。未来から戻ってきたことを考慮しても、自分が魔法を使えるかどうかは未知数だ。
しばらく考え込んでいたロゼリアは、一度結論を出す。
「言いたいことは分かりました。ですが、これは私たちだけでは決められません。まずは私のお父様にお話してみましょう。それからコーラル子爵に話を持ち掛ける。それでいいかしら」
チェリシアに話しかけると、チェリシアはこくりと頷いている。
「お父様から話がいけば子爵は応じずにはいられないでしょうけれど、スムーズに進められるようにあなたからもコーラル子爵に話しておいて下さい」
「分かりました。やはり、ロゼリアは頼りになりますね」
うまく話がまとまったことで、チェリシアはほっとした表情を浮かべている。
早速行動に移すべく、チェリシアはシアンに送られて侯爵邸を後にしていった。
部屋に残ったロゼリアは、帰るチェリシアの姿を見つめながらぽつりとつぶやく。
逆行前でも、早くから行動を起こしていればあの未来は防げたかも、と。




