第79話 宝珠を求めて
王都を出発して三日目のこと。ペシエラたちはアクアマリン子爵に挨拶をしてから、サファイア湖の調査に向かうことにした。
前日までは来ていることを悟られないようにしていたが、やはり領内で行動をするには知らせておいた方が無難なのだ。
「ところで、なんで水着なんですかぁっ!」
調査に向かったペシエラは、服を着替えていた。
今三人が着ているのは、前期末までに作らせていた水着である。
「水中といったら水着よね」
このチェリシアの発言で、三人はそろって水着に着替えたのである。
ドレスのような服はそもそもが重い。だというのに、万一水に濡れてしまえばさらに重くなってしまう。そんなわけで、全員水着に着替えているのだ。せっかく作ったのだから着なければもったいないというのも理由である。なにぶん成長期なのだから、一年で合わなくなることは十分あり得る。
チェリシアとペシエラはセパレート、アイリスはワンピースの水着だ。色は髪色に合わせたので、アイリスは薄紫となっている。
「あら、それは着けますのね」
「ええ。これがないと落ち着かないのでね。お二人のように便利な魔法があるわけではないですから」
ペシエラが指摘しているのは、アイリスの両足の太ももに巻かれたベルトのことだ。
パープリア男爵家ではアイリスも家の仕事を手伝ったことがあるので、スカートの下にこのように短剣や薬瓶などを装着していたのである。そういったこともあり、そもそもスタイルがよいこともあってなかなかな色香を醸し出している。
準備が整うと、三人は湖の調査に向かう。
ちなみに荷物は天幕の中にしまい、そこには防護の魔法がしっかりとかけてある。これで盗られる心配はない。
湖畔に立つと、チェリシアは空気の膜を発生させて自分たちを包み込む。そのまま歩いていくと、無事に湖の中へと入っていけた。
湖の中はかなり澄んでおり、かなり遠くまで見渡せる。その水中のきれいさには、思わず息をのんでしまうくらいだ。
「教官たちが沈めた宝珠、アイリスは知っているの?」
「会ったこともないから見たこともない……です。おそらくは、大きさと形状は私のものと同じはずですけど、色までは……」
「教官の供述では青色よ。サファイア湖に沈めることを考慮して、色を選んだ感じだわね。アイリスの宝珠も緑色でしたから、適当に捨てればわからなくなるようにしていたのですわ」
なんとも、後々のことまで考えられていたようだ。相当入念に考えられていた作戦だということが考えられる。
自分の娘を犠牲にしようとした外道さに、ペシエラが怒りのあまりに歯を食いしばっている。
険しい表情のペシエラを見ながらも、チェリシアは自分たちの入っている空気の膜を、光魔法と水魔法でしっかりと操っている。
「サファイア湖の中はこのようになっていましたのね。水の中を移動できるだなんて感動ですわ」
怒りに満ちあふれていたはずのペシエラが、初めての水中散歩に感激している。普段がしっかりしているがために、なかなか見られない緩んだ笑顔である。
喜ぶペシエラの姿をしばらく見ていたチェリシアだったが、今は宝珠の捜索中ということでペシエラに注意をする。
「申し訳ございませんわ、お姉様。では、探知魔法を展開いたしましょうか」
「ええ、お願い」
我に返ったペシエラは、探知魔法を展開する。自分の魔力を周囲へと放ち、その反応で様々なものを発見する魔法だ。
三人が水中へと潜った場所は、教官たちの証言にあった宝珠の投棄場所の近くである。サファイア湖が広いとはいえど、人力で投げられる範囲は限られている。
投げ捨てた場所を中心にして探せばすぐに見つかるはずだ。そう、見つかるはずだった。
「……おかしいですわね」
探知魔法と目視で探し続けているというのに、投棄場所から一キロ圏内を探してみたものの、まったく見つからなかった。
「ダメね。一度地上に戻って休憩にしましょうか」
「そうですわね。焦っては見落としかねませんわ。アイリスもよろしいですわね」
「はい、従います」
やむなく、一度休憩を入れることにした。
地上に出ると、魔法の消耗が激しくないチェリシアが収納空間から折り畳みのテーブルと椅子を取り出し、アイリスに広げてもらう。その間、同じ収納空間からでき上がっている料理を取り出して、広げたテーブルに並べていく。
何度見ても、収納空間という魔法には驚かされるアイリスである。
「ペシエラー? 何をしているの?」
「悔しいですので、湖全体に探知魔法を展開しておりますの」
「まったく。消耗しすぎるとこの後に影響するわよ?」
どうやらペシエラは発見できなかったことを悔やんでいるらしく、かなり意地になっているようだった。限定的に使っていた探知魔法を、サファイア湖全体に広げていたのだ。
「……反応があったわ!」
「本当?!」
ペシエラの意地が、ようやく怪しい反応を見つけ出していた。ただその反応は確かにふたつあるものの、湖の中をやたらと動き回っている。
「まさか、魚に食べられたってこと?」
「その可能性が高いですわね。反応は別々の場所から感じますわ」
「そっかぁ……。でも、その前に腹ごしらえをしましょう。それだけ魔法を使っているわけだし、休まないと倒れかねないわ」
「ええ、そうですわね」
チェリシアとペシエラは話をすると、アイリスの待っているテーブルへと向かう。
気になる反応ではあるものの、ペシエラたちの年齢で無茶をするわけにはいかない。休める時にはきっちり休み、午後の探索に備えたのであった。




