第77話 襲撃事件の結末
すっかり様子の変わってしまったアイリスだが、どこからパープリア男爵に漏れるか分からないので、移動中は極力学生たちの目に触れないようにしておいた。
そうして、どうにか一週間をかけて王都へと戻ってこれた。
だが、ロゼリアたちは学園ではなく、そのままシルヴァノとペイルたちと一緒にお城へと向かっていく。アクアマリン子爵領で起きた事件の報告を行うためである。ロゼリアたちには、まだ気の休まるような状況は訪れないようだ。
お城へと入り、謁見の間にてクリアテス国王とブランシェード女王の二人と謁見をする。
現在の王夫婦を目の前にしたアイリスは、変装している状態とはいえど生きた心地がまったくしなかった。
情報自体は早馬で伝わっているらしく、謁見の間での話はとてもスムーズに進んでいる。
「合宿で起きた魔物の襲撃は、パープリア男爵が黒幕と聞いておる。それに相違ないか?」
「はい。こちらのアイリスの証言から、間違いないと思われます」
「ふむ。見た感じはメイドのようだが、そやつがパープリアの娘で、我が息子たちの命を狙ったというわけか」
国王と女王が、そろってアイリスへと視線を向けている。さすがに命の危機を感じたのか、アイリスは更なる恐怖に体を震わせている。その顔色はとても悪い。
「その通りでございますわ、陛下。アイリスにはおとなしく協力するように申し付けございます。もし、うそをつけばどうなるかということも含めて」
ペシエラはそう言いながら、アイリスを見て首に手をちょんちょんと当てている。その時の表情が笑顔だったので、ますますアイリスに恐怖を与えている。
アイリスの処遇のことを伝えたペシエラは、表情を引き締めて再び国王たちを見る。
「では、時系列を追って報告をさせていただきますわ」
「うむ。しかし、なにゆえペシエラが説明を行う」
「それは、わたくしが一番襲撃について詳しいからですわ。では、始めさせていただいてもよろしいでしょうか」
「分かった。報告を始めてくれ」
国王からの許可を得たペシエラは、まずは自分だけが対応にあたった深夜の魔物襲撃のことを話し出す。
シルヴァノとペイルにしか話していない事件ゆえに、ロゼリアとチェリシアは驚いている。
「地形的に挟み込むような形で配置されておりましたわね。もっとも、わたくしの敵ではございませんでしたけれど。魔物の数を考えると、あの場でわたくしたちを皆殺しにするつもりだったのでしょう」
「それは、報告にあったものと違うものだな」
「ええ。これは合宿を混乱させないために黙っておりましたの。その犯人はすぐに気配を消してしまいましたわ。その魔力は、湖の事件の実行犯とは違っておりました。あれだけの魔物を使役できるのですから、相当の能力の持ち主ですわね」
「ふむ……」
襲撃の規模のでかさから、国王たちは黙り込んでしまう。ただその沈黙は、襲撃の規模だけではなく、それを一人で鎮圧してしまったペシエラの能力の高さに対して評価も含んでいる。
ただ、分からないことが多すぎるために、このことは一度保留ということになった。
続けて、サファイア湖での襲撃の話に移る。改めて、アイリスに犯人として事件に関しての聞き取りを行う。
アイリスが父親からは言われたことは、宝珠を使って魔物を呼び出し、学生たちにケガを負わせることだった。その際、アイリスは襲われないから安心しろとも言われたらしい。
だが、結果はアクアマリン子爵領に眠るケルピーという危険種を呼び出してしまった。
驚きで固まってしまったアイリスだったが、ペシエラがケルピーを倒してしまったことで作戦が失敗したと思い、ペシエラを殺そうとしたのだということだった。
ただ、召喚陣に関しては知らなかったようで、結果的にアイリスは捨て駒だったという可能性が高まった。
この件に関しては、二人の教官も呼び出しを受けており、この場に同席している。
彼らの供述では、前日のオリエンテーリングの準備の際に召喚魔法の陣を仕掛け、湖にアイリスの持っているものと同じような宝珠を沈めたと供述している。
ただ、それらは彼らの意思ではなく、合宿に入る前に届けられた差し出し人不明の手紙を受け取ってから、何かに操られたように動いていたらしい。宝珠は、その時一緒に送られてきていたのだという。
話を総合すると、アイリスの証言以外では、パープリア男爵の関与は見出せなかった。これでは嫌疑が弱く、捕らえるには不十分とされた。
「仕方あるまい。ペシエラの申す通り、アイリス・パープリアは合宿における魔物襲撃で死んだとし、彼奴の出方を見るしかあるまい」
女王はそう告げてペシエラとアイリスをじっと見つめている。
「アイリスのことは、コーラル家に任せる。必ずや、その罪を償うようにな」
「救っていただいた身でございます。女王陛下の寛大な処置に、感謝申し上げます」
女王の言葉に、アイリスは涙ながらに答えていた。
「それと、そちらの教官二人も問題よな?」
「ひっ」
国王が視線を向けると、教官二人は震え上がっている。
ただこちらも、自分たちの意思ではなかったという証言がある上、アイリスに対する処置との差を考え、極刑にしたとしてどこかに隠れていてもらうことになった。そうすることで、パープリア男爵の誘おうという計画である。
思い通りに事が運ぶかは分からないが、ひとまずこれで合宿中に起きた事件の犯人対する処罰が決まり、この場は解散となったのだった。
サファイア湖における事件はひとまずの終結を見たのだが、これがアイヴォリー王国の古からの因縁を巡る騒動の始まりなるとは、この時、一体誰が想像したのだろうか……。




