第73話 襲撃の後
突如として現れたガレンだったが、姿を見せると同時にドサドサッという音が響き渡る。ガレンの足元を見てみると、学園の教師が二人転がっていた。
ガレンの話によれば、この二人はオリエンテーリングの準備に関わった教師らしいが、怪しい動きを見せていたので捕まえてきたらしい。最後尾についていた護衛たちに協力を要請したため、シルヴァノたちの後ろからは誰も来なかったというわけだった。
「それにしても、男爵風情が国家転覆とは、大胆不敵で穏やかではないですね。ねえ、アイリス嬢?」
ガレンがアイリスに視線を向けると、アイリスは体をがくがくと震わせている。
その姿を確認したガレンは、ロゼリアたちの方へと視線を向ける。
「さて、この女子学生の処分は、どうするおつもりですか?」
「ガレン先生。このアイリス様ですけれど、わたくしの方で預からせてもらえませんでしょうか」
質問に答えたのは、ペシエラだった。
意外なことに、処刑という判断は下さなかった。
「私たちの命を狙ったというのに、なぜ許そうとするのですか」
「誰も許すとは申しておりませんわ」
シルヴァノの反応に、ペシエラはしっかりと答えている。
ペシエラがこう考えたのは、逆行前にヴィオレス・パープリアから聞かされた言葉が強く残っているからだ。
ヴィオレスが男爵家を抜けた理由が、アイリスの死だ。
そう、逆行前に最後まで自分のために尽くしてくれた彼のためにも、妹であるアイリスを生かして起きたのだ。とはいえ、彼にパープリア男爵家を抜けてもらわないといけないのは変わらないのだが。
(ヴィオレス様の忠義に応えるのであるのなら、アイリスの生存は必須。さて、どのように生き延びてもらいましょうか)
ペシエラはそう考えながら、シルヴァノの質問への答えを続ける。
「まだお若いのです。今回の状況を考えれば、アイリスはどのような結果であったとしても、命を落としたでしょう」
「どうしてそう言える?」
今度はペイルが突っかかってきた。
「だって、わたくしのところに出てきたのはケルピーですもの。わたくしがいなければ、他の学生ともどもケルピーによって惨たらしく死んでいたでしょうし、計画が失敗したのなら親の手によって殺された可能性だって考えられますもの」
「なっ……!」
ペシエラの話を聞いて、アイリスはその表情をさらに青ざめさせている。体の震えを大きくし、ついには立てなくなってしまう。
「そ、そんな……。お父様は私は大丈夫だからって、そう仰られていましたのに」
そのまま地面に手をついて、アイリスはとうとう泣き出してしまった。
アイリスが泣き叫ぶ姿を見たロゼリアは、シルヴァノとガレンの二人に声をかける。
「そういえば、合宿にはアイリス様のお兄様であるヴィオレス・パープリア様もご参加でしたね」
「ああ、確かにいますね」
ロゼリアの質問に、ガレンがしっかりと答えている。一応学生の名前は把握しているようだ。
アイリスの兄であるヴィオレスは、年齢はひとつ上。今回もしっかり参加しているようである。
ガレンの返答を聞いて、ロゼリアは一度ペシエラに視線を送ると、さらに言葉を続ける。
「では、合宿後に、彼とアイリス様を交えてお話する場を設けていただきたいと存じます。もちろん、パープリア男爵家の者を一切排除した状態でです」
「ふむ。それなら、学園の権限を使えば可能ですね。そこは、私に任せて下さい」
「では、私の方は父上に掛け合ってパープリア男爵家に探りを入れてみましょうか。モスグリネ王国のペイル殿下にまで危害を加えようとしたのですからね」
ロゼリアの提案は受け入れられ、王家も学園もそのために動いてくれるようだ。
だが、なぜ処刑されるようなことをしたアイリスをかばうのか。ペシエラたちの考えを一部の者は理解できないでいた。
そんな中、チェリシアが突然手を叩く。
「そっか。二人の力を国のために役立つようにしようというわけね」
「そういうことですわよ、お姉様。どんな能力だって、使い方で善にも悪にもなりますもの。それに、アイリスはまだ力の使い方が分かっていないみたいですし、わたくしの手元に置いて、しっかりと教育を施してあげますわ」
ペシエラはチェリシアの言葉を肯定しながら、アイリスへと近付いていく。相変わらずの堂々とした態度に、なんとか泣き止んだアイリスは怯えたまま顔を向けている。
「せっかく助かった命ですわ。無駄にしないようにしてちょうだい」
「あなたの処遇については、後で言い渡すことにします。それまでしっかりと反省して下さい」
ペシエラに続いて、ロゼリアもアイリスに声をかける。
二人の言葉を聞いたアイリスは、ぐっと唇をかみしめて、下を向いて小さく頷いていた。
こうして、夏の合宿におけるオリエンテーリングは、魔物の襲撃という予想外の事態に見舞われたものの、多少の負傷は出しながらも死者を出すことなく終わることとなった。
合宿が終われば、あとは王都に戻ることとなる。実行犯の詳しい処遇については、精査の上、追って言い渡されることになり、処遇がはっきりするまで軟禁状態が続くこととなる。
合宿ももう最終日を残すのみ。王都に向けて出発するまでの間、合宿所近辺は厳戒態勢が敷かれ、学生たちは不安な夜を過ごすこととなったのだった。




