第72話 十歳とは思えぬ威圧感
再びロゼリアたち。
シルヴァノたちの活躍によって、第二波の魔物たちも順調に数を減らしている。
ところが、もう少しで第二波の魔物を倒し終えると思われた時、第三波となる魔物たちが姿を見せる。どうやら、召喚魔法を潰さない限り、延々と魔物たちが現れるようだった。
次々と襲い来る魔物たちに、ロゼリアたちはじりじりと追い詰められてきている。
あきらめかけたその時だった。
「ギャウウンッ!」
強力な魔法が放たれて、魔物たちが悲鳴を上げながら倒されていく。同時に、どこからともなく爆発音が聞こえてくる。
ロゼリアたちは、一体何が起きたのかまったく理解できなかった。
「殿下、ロゼリア、みなさん、ご無事ですか?」
ペシエラの呼ぶ声がする。
ロゼリアが見上げれば、チェリシアを回収してきたペシエラがエアリアルソーサーに乗って駆けつけていた。
「ペシエラ。……ええ、みんな大丈夫よ。助かったわ」
「こちらも全部片づけましたわ」
ペシエラはエアリアルソーサーからちょこんと飛び降りる。
「ペシエラ嬢、助かった。あの魔物たちは何だったんだい?」
シルヴァノがペシエラに尋ねている。
「どうやら、召喚魔法を使ってどこからともなく呼び出されたようですわ。わけも分からずにしばらく戸惑っておりましたからね。ひとまず、この方に説明してもらうのがよろしいでしょうね。お姉様」
「あ、うん」
ペシエラに言われて、エアリアルソーサーに乗せていた容疑者を連れて、チェリシアも地面に降り立つ。
そこにいた人物に、ロゼリアたちは驚かされた。
「アイリス様?!」
「なんと、アイリス場が犯人だというのか?」
ロゼリアは驚き、チークウッドがペシエラに確認するように声をかけてくる。
「ええ。出現したケルピーを倒した後、心配する振りをしてわたくしに近付き、その手に持っていたナイフで刺そうとしておりましたもの。おそらく、パープリア男爵家が関わっておりますわ」
質問に答えながらペシエラはアイリスへと視線を向ける。その視線に気が付いたアイリスは、ばつが悪そうに視線を逸らしている。
「おまけにこんなものまで用意していましたわ。わたくしたちと友人関係になったのは、わたくしたちを油断させる工作だったのでしょうね」
「なんだい、それは」
ペシエラが取り出した宝珠を見つめて、チークウッドが尋ねている。
「鑑定魔法にかけた結果、召喚魔法に使うものと分かりましたわ。おそらくこれで、召喚魔法を発動させたのでしょう。ただ、その中にケルピーがいたので、本人は怯んでしまって動けなくなっておりましたわ。おそらく、何が召喚されるかのは分かっていなかったのですわね」
説明を終えたペシエラは、くるりと振り返ってアイリスにかけた拘束を解く。暗殺計画の実行犯だというのに、ペシエラのこの行動には全員が驚かされた。
「な、なんで私を自由にするの? そこまで分かっていて、頭おかしいんじゃないの? さっさと私を殺せばいいんだわ」
アイリスは悪態をつくものの、ペシエラはまったく動じない。それどころか、アイリスを鋭く睨みつけている。
「あなたを殺せば、実行犯一人の始末に終わって、事件の黒幕を取り逃がしてしまいますわ。この宝珠をあなたに渡した人物がいる以上、みすみすと煙に撒かせるわけにはいきませんわ。王族の命を狙う不逞の輩を放っておけると思いまして?」
ペシエラはずいっとアイリスに迫っていく。その気迫に、アイリスは全身を震わせている。
犯人とはいえ、あまり怖がらせるのもよろしくないと、見ていられなくなったシルヴァノがペシエラに質問をする。
「よく、自分の命を狙っていると分かったね」
「あら、意外とすぐ分かりましたわよ」
シルヴァノの質問に、ペシエラはきょとんとした表情で返している。表情の意味がよく分からないシルヴァノは、さらに質問をする。
「どうやって?」
「アイリス様は右利きです。ならば、自然と出る手は右手になるはず。ですが、わたくしに伸ばされた手は左手。それで、右手に何かを持っていると推測できましたの」
ペシエラの推理を聞いて、その場にいた全員がなるほどと感心している。もちろん、アイリスを除いてのことだ。
だが、普通なればこの情報だけではそれを確定させるのは難しいだろう。
ペシエラがこの推理に至った理由は、逆行前でヴィオレス・アパープリアから聞いていた情報が大きかった。
それは、パープリア男爵家が暗殺術に長けているという情報だった。
だからこそ、心配して近づいてくるアイリスの行動を不自然だと感じたのである。
「た、たったそれだけのことで? そ、そんな……。この計画はうまくいくって、お父様は仰っておられましたのに」
ショックのあまり、アイリスは思わぬ言葉を口走ってしまう。気が付いて慌てて口を押さえたものの、出てしまった言葉は取り消せない。
アイリスの口からそのことが聞けたペシエラはにっこりと微笑んでいる。
「ほう、今回の騒ぎはパープリア男爵の仕業ですか」
「が、ガレン先生!?」
アイリスが口を滑らせてしまったことで場が黙り込んでしまったところに、男性の声が聞こえてくる。
誰の声かと思って顔を向けてみれば、そこにいたのは魔法担当の教官であるガレンだった。




