第67話 サファイア湖に到着
真夜中の襲撃を無事にやり過ごした後は、特に問題が起きることなく無事にサファイア湖のほとりに到着する。
サンフレア学園の夏合宿で寝泊まりをするのは、アクアマリン子爵の別荘だ。サファイア湖からほど近い場所に建っていて、合宿で使われることが分かっているために、かなり質素な内装になっている。学生に壊されたらたまったものではないのでしょうがない。
そして、ここはアクアマリン子爵領である。なので、シアンがこの合宿ついてきていた。食事などの世話の補助を手伝うという名目で里帰りをしに来たのだ。
サファイア湖に着いた時、シアンはロゼリアの乗る馬車へと近付く。
「ロゼリアお嬢様、私は実家へと戻ります。ご研鑽くださいませ」
「ええ、シアン。アクアマリン子爵にはよろしくお伝えください」
「承知致しました」
挨拶を済ませたシアンは、ロゼリアと別れる。
今回の合宿で里帰りが実現できて、ロゼリアは満足そうだ。なにせ、マゼンダ侯爵家に侍女として出向いてからというもの約二十年にもわたって子爵領に戻っていないのだ。この時ぐらいは、ゆっくり家族と過ごしてもらいたいというわけである。
シアンを見送ると、ロゼリアは荷物を別荘へと運び込む。とはいえ、チェリシアが収納空間を使うといったので、ロゼリアの荷物はほとんどない。ものすごく簡単に片付いてしまった。
サンフレア学園の合宿がアクアマリン子爵領で行われる理由。それは、サファイア湖という自然豊かな場所があり、王都から近いことが挙げられる。あと、魔法に長けた一族であるために、防護面に優れているということも理由だろう。
ちなみに合宿で行われる内容は、学園での授業とはそう大差はない。ただ、学園の時よりも実技と体力づくりに重きが置かれている。
早朝の涼しい時間には、別荘とサファイア湖の間を往復するランニングが行われる。全員参加ということを聞いて、一部の学生が崩れ落ちていた。よほど運動が苦手なのだろう。その様子を見ていたペシエラが、軟弱者とつぶやいたのは内緒だ。
初日の今日は長旅の疲れがあるということで、調理を担当する学生以外は自由。
というわけで、担当を外れていたロゼリアは、別荘の周りの散策へと出ることにした。
「エアリアルソーサー」
チェリシアに教えてもらってマスターした魔法を、こっそりと使用する。
ロゼリアがこれ以外にもチェリシアから教えてもらった魔法があり、エアリアルソーサーで上空を移動しながら、その魔法も発動する。
それは、自身を中心として魔力を放つ探知魔法。土、風、水という三属性を使えるならばと、教えられた魔法である。なにせ周囲の物体はほぼこの三つで構成されているからだ。
(特に危険そうな魔物の気配はなさそうね。さすがはアクアマリン子爵領だわ)
周囲の安全を確認したロゼリアはほっとしている。
安全と分かると、ロゼリアはサファイア湖などをじっくりと観察して回っている。
周囲にもたくさんの木々が生えた森が広がっており、普段に見ている王都の景色とはまったく違う。
眼下のサファイア湖は青く澄んでいて、その湖面の下もよく見える。なんとも神秘的な光景である。
「本当にきれいな景色……。逆行前はそんなに余裕がなかったから、ここまで景色は楽しめなかったわ。チェリシアのおかげでこんな景色まで見られるなんてね」
エアリアルソーサーを湖の上で浮遊させて、改めてその美しい光景に見入っている。
だが、いつまでもこの景色を堪能しているわけにはいかない。もうそろそろ日が暮れる。
ほどほどにして、ロゼリアは別荘へと戻ろうとする。
ぞわ……。
その瞬間、ロゼリアは何か嫌な気配を感じた。
慌てて周囲を見回してみるも、特に何もいるような感じではなかった。感知魔法にも反応はない。
気のせいだったのかなと、ロゼリアは首を捻りつつ、別荘へと戻っていった。
別荘へと戻ってきたロゼリアが出くわした光景は、厨房で調理にいそしむチェリシアとペシエラの姿だった。
そういえば、二人とも貧乏だった頃のコーラル子爵時代を経験している。そのため、使用人の数が足りずに自分たちで調理をすることもあったらしい。
ただ、裕福なコーラル伯爵時代を迎えても、二人はまったく変わらなかった。
使用人たちから詳細な状況を聞き出すと、厨房へとやってきた二人は使用人たちの動きを見てダメ出しをした挙句、自分たちで手本を見せるといって今に至ったのだという。
「チェリシア、ペシエラ、何をしているのよ」
「ああ、ロゼリア、おかえり」
「ふふっ、わたくしたちの手料理に恐れおののくといいですわよ」
「え、ええ。楽しみにしているわね」
呆れたロゼリアが声をかけるも、二人とも一瞬顔を向けて反応したものの、ずっと調理の手を止めることはなかった。
そんなこんなで二人が作った料理だが、合宿参加者やアクアマリン子爵の使用人たちが驚くほどのものだった。もちろん、いい意味で。
食材や調味料はその場にあったものしか使っていないのに、どうしてここまで違いが出るのか。二人から詳しく聞き出そうと、アクアマリン子爵の使用人たちが詰め寄る光景も見られた。
これにはロゼリアも、初日から何をしているんだかと頭を抱えたらしい。
そんなこんなとありながらも、サファイア湖での最初の夜は無事に更けていったのであった。




