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逆行令嬢と転生ヒロイン~緋色の令嬢  作者: 未羊
第三章 学園一年目

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第66話 襲撃の後で

 ペシエラが野営地に戻ってくると、寝静まっていて誰もいないはずの天幕の前で待ち構えている人物がいた。


「あら、ガレン先生ではありませんの。どうなさいましたか?」


 そう、引率の教師であるガレンである。


「警戒のために交代して起きていたのだけれど、強力な魔力を感じて様子を見に来たんですよ。どこに行っていたのですか、ペシエラ・コーラル」


 ペシエラの質問に、ガレンはこのように正直に答えている。その上で、ペシエラに逆に質問をしている。

 普通ならここで適当にごまかそうとするところだが、以前に魔力の層のことでいろいろとあった相手だ。下手なごまかしは通じないだろうと、ペシエラは詳しい話をすることにした。


「周囲にそんなに魔物がいたのですか。私ですら気配を感じなかったのに、あなたはそれを察知したというわけですか」


「ええ。これでも命を狙われて経験を持っていますからね。どんな小さな殺気だろうと、このわたくしが逃すと思っているのですか」


 ガレンの反応を見た上で、ペシエラは険しい表情で、先程さらなる気配を感じた方向を睨みつけている。

 どうやら、魔物を操っていた人物がいたことに気が付いていたようだった。


「それにしても、よくもまぁ気づかれずに魔物を全滅させたものですね」


「暗殺には暗殺を、ですわよ。闇夜に紛れるように闇魔法を降らせて、あとはお姉様から聞いた、物体を地面に引きつけるという重力というものを利用して魔物を押し潰しましたの。倒した魔物は、全部この中ですわ」


 ガレンに聞かれたので、ペシエラは詳細を話した上に、収納空間に倒した魔物をしまい込んでいることを告げている。

 ガレンは信じられないという反応を見せるものだから、ペシエラは試しに魔物を一体収納空間から引っ張り出した。確かに魔物が出てきたので、ガレンは驚きを隠せなかった。


「はあ、君は敵に回してはいけない人物ということはよく分かりましたよ」


「国の頂点に立つ女王を再び目指すのです。これくらいできて当然というものですわ」


 ガレンの態度が気に入らないのか、ペシエラは胸を張りながら堂々と言ってのけていた。


「ははっ、頼もしいものですね。ですが、今の君はまだ十歳という幼い子どもです。ひとまず今日のところはもう寝なさい」


「ええ、そうさせていただきますわ。あまりに遅くなりますと、鈍感なお姉様にも気づかれてしまいますもの」


 話を打ち切って、ガレンはペシエラに早く寝るように促している。それに沿ってペシエラが天幕に戻ろうとするのだが、ガレンは何かを思い出したかのようにペシエラを呼び止める。


「なんですのよ」


「いや。今夜のような魔物の襲撃はまだあると思いますか?」


「……それを知っていても、わたくしが軽々に話すとでもお思いですの?」


 呼び止められたペシエラは、ガレンの質問に不機嫌な表情を浮かべて言い返している。寝ろといったくせに呼び止めたこともあって、少々いら立っているのだ。


「いろいろとお話はしましたけれど、わたくしはあなたのことを完全に信用したわけではありませんわ」


 くるりとガレンへと振り返ったペシエラは、はっきりと思っていることを口に出した。

 逆行前の経験から、現状信じられるのは自分たち三人だけ。それ以外の人物においそれと話ができるかというわけだ。


「ですけれど、この合宿が無事に終わることを考えておりますから、助言くらいはできますわね」


「それはなんですかね」


 険しい表情のまま話を続けるペシエラの言葉に、ガレンはしっかりと耳を傾けている。


「終わるまで警戒を怠るな、ですわ」


「ははっ、それはそうですね。学生たち全員を無事に親元まで帰らせる。それが私たち同伴する教師陣の役目ですからね」


「そういうことですわ。ですので、しっかりと警戒を頼みますわよ」


 あまりにも当たり前のことではあるものの、それができなければ教師たちの、ひいては学園全体の信用にかかわることである。ましてや今年からは隣国モスグリネの王子も参加しているのだ。最悪、国家間の問題に発展する。

 逆行前に女王の経験があるペシエラだからこそ、これだけ言葉に重みが出るのだ。ゆえに、ガレンもしっかりと返事をしている。


「あの魔物の数を考えれば、敵はここでわたくしたちを皆殺しにするつもりだったのでしょうね。そんな考えを持つ敵がいるのです。まったく気は抜けませんわよ」


 最後にしっかりとガレンに言い聞かせるペシエラだったが、さすがに十歳の体は限界を迎えつつあった。

 大きなあくびをしてしまい、目を擦ってしまう。


「うう……。体は正直ですわね……。わたくしは休みますので、ガレン先生、頼みますわよ」


「ええ、任せて下さい」


 ゆっくりと天幕に戻るペシエラだったが、その心中は実に穏やかではなかった。

 アイヴォリー王国を混乱に陥れる謎の勢力が、もうこの時からすでに行動を始めているのではないかと。

 もしかしたら、逆行前に起きた出来事の数々も、そいつらの思惑通りだとしたら……。


(もしそうだとしましたら、今回はそいつらの思い通りにはさせませんわよ。あのようなみじめな最期は嫌ですし、わたくしが愛したアイヴォリーをなくさせるわけにはいきませんもの。必ずその野望を打ち砕き、首根っこをつかんでやりますわよ)


 強く誓ったペシエラは、眠っているみんなを起こさないように注意しながら、自身も疲れた体を横にして休んだのだった。

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