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逆行令嬢と転生ヒロイン~緋色の令嬢  作者: 未羊
第三章 学園一年目

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第64話 入念に備えて

 夏の合宿で犠牲者が出るという話は、三人にとって衝撃的な話である。とはいえ、夏の合宿は学園の伝統行事であるので、理由もなく中止にはできない。なので、とにかく犠牲者が出ないようにしっかりと対処するしかない。

 そこで思いついたのが、光魔法の中にある防護魔法だ。それを装飾品に仕込むことによって、身の安全を確保しようというものである。

 このような方法になるのは、いくら一度経験しているとはいえど、前回とまったく同じ展開になるとは限らないからだ。

 そこでチェリシアとペシエラの二人で防護魔法のかかった装飾品を作ることになった。ロゼリアはそもそも防護魔法が使えないし、道具を作るほどに器用でもないからだ。その代わり、合宿の行われるサファイア湖の辺りのことを、シアンからそれとなく聞き出すことにした。

 夏の合宿に向けた準備が、コツコツと始まることになった。

 特にこの準備にはペシエラが力を入れていた。逆行前の一度目の人生の中、自分のために命を散らした女王親衛隊に所属していたヴィオレス・パープリアの忠義に報いるためだ。あの時の彼の悲しそうな表情は、今思い出しても胸を締め付けられる。

 悲しい未来を繰り返させるものか。その思いがペシエラを突き動かしていた。


 同時並行で、チェリシアは計画を進めていた。

 それがシェリアへの旅行である。

 サファイア湖の話を聞いてからというもの、チェリシアはとにかく水着というものを熱心に作っていた。

 ドール商会に頼んで布を手に入れて、さらにはデザイン画を渡して水着を作ってもらっていた。

 その試作品が、ペシエラが学園に復帰した数日後にでき上がったのである。


「じゃーんっ!」


 その日もマゼンダ商会の商会長室に集まっていたロゼリアたちの前で、チェリシアはでき上がった水着を披露している。

 白をベースとした生地にチェリーピンクの縁取りをしたセパレートの水着である。

 だが、その水着を見せつけられたロゼリアとペシエラは固まっている。


「……なんですの、お姉様」


「なにって、水着よ。先日話していたでしょう?」


 顔を引きつらせているペシエラに、チェリシアは笑顔のまま話している。


「まるで下着ですわね」


「否定はできないわね。これでも布面積は増やしたんだけどね」


 真顔でペシエラに言われると、まったく反論できないチェリシアである。実際、水着はものによっては下着だし、なんなら下着よりもひどいものだってあるのだから。


「まあ、こうやって腰に巻くパレオだって作ったし、別にこれで人前を歩き回るわけじゃないからいいと思うのよね」


 必死に言い訳をするチェリシアの姿を見て、ペシエラは呆れた表情をしながらも、それなら構わないかと水着自体は受け入れたようだった。

 ロゼリアの方はどう反応していいのか分からないのか、好きにしてと諦めたようである。


「よーし、だったら、親睦を深めるためにも身近な人たちを集めて旅行しなくっちゃね。夏合宿を無事に乗り切ったら、みんなを誘うわよ」


「それはいいかもしれませんわね。コーラル領も、子爵時代から比べるとものすごく豊かになりましたもの。みんなに見せつけるいい機会ですわ」


「でしょ?」


 気が付いたら、ペシエラも乗り気のようである。その様子を見たチェリシアは、とても満足げに笑っていた。

 だが、そこにロゼリアが指摘を入れる。


「夏休みの計画を立てるのはいいけれど、前期末の試験を無事に乗り越えてからにしましょうね。一応女王教育で教えられていることばかりとはいっても、本番で失敗したらシャレにならないわよ」


「それはそうですわね。特に、お姉様はやらかしそうで怖いですわ」


「失礼ね。私はやる時はちゃんとやるんだから。見てなさいよね」


 二人から懸念を聞かされて、チェリシアはものすごく不機嫌そうに答えている。甘く見るなといった感じで胸を張っている。


「よーし。それじゃ、みんなの分の水着をデザインして、ドール商会に発注しなくちゃね。私の水着を作れたんだから、もうこうなれば完成までは早いでしょうからね」


「……もう、好きにしてちょうだいよ」


 水着に対して並々ならぬ熱意を見せるチェリシアを見て、ロゼリアは痛そうな顔をしながら頭を押さえている。

 張り切るチェリシアを見て、今年の夏は経験したことのない夏になりそうだと、不安と期待の入り混じった気持ちを抱くのだった。


 そうして、無事に一年次の前期末の試験が終わり、いよいよ学園は夏休みへと入る。

 夏の二の月を迎えると、学生たちは学園へと集まり、複数人のグループに分かれて馬車へと乗り込んでいく。

 その際、マゼンダ商会とドール商会の共同で作られたアクセサリーが配布されていた。これは、チェリシアとペシエラが防護魔法を込めた魔石を用意し、ドール商会の職人がそれをアクセサリーへと加工したものである。その効果はどんな攻撃でも一度だけ防ぐというものだ。

 一般学生たちに渡したものはそのようなものだが、攻略対象五人とその婚約者や身内に対してはもうちょっと強力な防護魔法のこもったものを、ロゼリアたちから直に渡していた。


(さぁ、魔物でもなんでも来なさいっていうのよ。私たちは絶対、全員を無事に戻らせるんだから)


 ロゼリア、チェリシア、ペシエラの三人は、互いに顔を見合わせてそろいの馬車へと乗り込む。

 こうして、問題となる一年次の夏合宿が始まったのだった。

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