第59話 秘密の共有
ペシエラがその過去を語り終える。それは、ペシエラの逆行前、ロゼリアを処刑した後のアイヴォリー王国の顛末だった。
自分の死後にそんなことになっていたとは、ロゼリアもかなり強い衝撃を受けている。
ロゼリアはペシエラにペイルが攻め込んできた理由を尋ねていたのだが、その答えの内容を聞いて驚きを隠せなかった。
ペシエラは、ペイルがモスグリネ王国軍を率いて攻め込んできた理由が、なんとロゼリアだったのだから。さらに聞けば、ペイルはロゼリアに惚れていたらしい。
つまり、ロゼリアに対して惚れていた状況で、その処罰の話が耳に入ったわけだ。好きな相手を殺された憎悪を募らせた結果が、二国間の戦争へと発展したのである。
私情ひとつで国ひとつを滅ぼすとは、さすがのロゼリアも言葉を失っていた。
「そんな顔をしないで下さいませ。わたくしだってそのことを知ったのは夫を失った後ですもの。あの時のペイル王は、わたくしの顔を見て、激しく非難するような目を向けながら言い放ちましたわ」
ペシエラは思い出した怒りを抑えているのか、体を激しく震わせている。
「とにかく、今後のことを考えますと、ロゼリアがカギになるのは間違いありませんわ。それに、あの時は背後で動き回る謎の勢力の存在も感じましたわ。何があるか分かりませんので、とにかく注意いたしませんと……」
ペシエラは爪をかむような仕草を見せている。それだけ、自分の最期が悔しかったということなのだろう。
ロゼリアは計略に嵌められて処刑された身でありながら、ペシエラのその姿には同情の気持ちを抱いてしまっていた。
「それにしても、ペイル王子に勝ったとは聞いていたが、そのような背景があるとはね……」
「ええ。義理の両親に夫まで殺されましたし、わたくし自身も命を狙われましたからね。これからこてんぱんにして差し上げますわよ」
ガレンがあごに手を触れながら声をかければ、ペシエラは怒りを抑えたような笑顔を浮かべてはっきりと言い放っていた。それだけ、逆行前のことが恨みとして持ち越されているというわけだ。
それと、ペシエラが持ち越したものはそれだけではない。
「ペシエラのその口調。それはその時に受けた女王教育の成果なのね」
「そうですわよ。それは徹底的に叩き込まれましたもの。ですので、今もしっかりと癖としてしみついておりますわ」
チェリシアがペシエラの普段を思い出して確認すると、ペシエラはしっかりと肯定していた。
「となると……」
その様子を見ていたガレンが、ロゼリアの方へと視線を向ける。その視線に気が付いたロゼリアは、きゅっと表情を引き締める。
「ええ、お察しの通り、私はペシエラ様の話の中に出てきた、処刑されたロゼリア・マゼンダ本人です。私とペシエラ様は、原因は分かりませんが未来より舞い戻ってきたのです」
「なるほど、それで二人分の魔力が見えるというわけか、納得したよ」
額に手を当てながら少し上を向いたガレンだが、すぐさま別の疑問に気が付いた。
「待て。となると、チェリシア嬢は一体何者なのかな?」
そう、ペシエラの話の中に出てこなった今のチェリシアの正体だ。
ガレンから視線を向けられたチェリシアは一瞬ぐっとしたものの、覚悟を決めたのか話をすることに決めたようだ。
それによれば、チェリシアの前世は日本という国に住む女性だったらしい。大学という教育機関を卒業し、いよいよ念願の田舎暮らしをしようとした矢先、購入した家に雷が落ちて家事に見舞われてしまったのだとか。家を脱出しようとして引き戸を開けて部屋を出た後、すっぱりと記憶がなくなったのだという。
再び意識を取り戻した彼女は、今の姿、チェリシア・コーラルとなっていたというわけだった。
「なるほどなぁ……。三人そろって特殊な生まれ変わりを経験していたというわけか」
ガレンは腕を組んで、苦い表情を浮かべている。
「ということは、先程の写真魔法とかいうのも、その前世の知識というわけだな」
ガレンが確かめるように尋ねれば、チェリシアはこくりと頷いている。
なんともとんでもない話に、ガレンは頭が痛くてたまらない。これでは国王たちにも報告したらその後が確実に面倒になる。三人にもそのことを話した上で、ガレンはこのことを黙っておくことにした。
「それにしても、ガレン先生ってばそういうしゃべり方をなさいますのね」
「まぁな。物腰と言葉を丁寧にしておけば、周りの印象はよくなるからな。本当の私というのは、この通り結構いい加減なのだよ」
ペシエラの質問に答えながら、ガレンはきらりと白い歯を見せて笑っていた。
「だけど、細かい作業は好きでね。外面をよくしているおかげか、いろいろと仕事が舞い込んでいて、生活はとても充実しているよ」
「まったく、とんでもない先生ですわね」
ガレンの口ぶりに、ペシエラは呆れたように笑っている。
そのペシエラに対して、ガレンはちょっと考えていることを話す。
「正直なところ、今回の試験の結果を考えた場合、君たちは別行動にした方がいいかもしれない」
「あら、どうしてですか?」
「あれだけとんでもないものを見せつけたんだ。貴族社会ってのはいろいろと面倒なものだろう? 最悪のことだって考えられるから、学園の仕組みを無視してでも保護した方がいいかもしれないと思ってね」
「なるほどね。それは私たちの方でも考えておきます」
「ええ、こんな可愛いペシエラが危険な目に遭うなんてのは許せませんからね」
「自分の心配もしなさいよ……」
ペシエラをかばうように立つチェリシアの姿に、ロゼリアは呆れている。なんで自分の方にはそう考えが及ばないのだろうか。姉バカも考えものである。
「まっ、困ったことがあれば私に相談しなさい。できる限りの協力をさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
学園の教師の協力を取り付けられたことに、ロゼリアたちは満足そうにしている。
だが、これがロゼリアたちの波乱万丈な学園生活のスタートになるとは、この時は考えてもいなかったようだった。




