第58話 チェリシア・コーラル・アイヴォリー
ペシエラが語り出した、逆行前のお話。
それは、ペシエラが障害となるロゼリア・マゼンダ侯爵令嬢とその一族を排除した後の話である。
ロゼリアが処刑された後のこと、チェリシア・コーラルは晴れてシルヴァノ・アイヴォリーの婚約者となった。その翌年には、国中に祝福されながら結婚をした。
この婚姻時に、シルヴァノとともに二十五歳を迎えた際に王位の継承を行うことも決定され、それに伴い、厳しい女王教育を受けることになった。
あまりにも厳しい教育のために、貧乏貴族に耐えられるかと心配されたものの、厳しい環境で育ってきた強い心でもって、しっかりと女王教育を乗り切ってみせていた。
しかし、厳しい勉強に向かうにあたり、チェリシアの頭の中には、ロゼリアの亡霊がちらついていた。
そう、厳しい女王教育を受けている間に、学園時代にロゼリアから言われたことを自然と思い出してしまっていたのだ。教育を受ける間にあれこれと言われたことは、学生時代にロゼリアからされていたお小言と重なっているものが多かったからだ。
あまりにも亡霊がちらつくため、それを振り払うかのように、学生時代には握ったこともない剣術にも手を出した。その時に選んだ剣が、逆行した今現在使用しているサーベルである。
そして、王位を継承する二十五歳を迎える。
この頃には、チェリシアの剣の腕前も、王国の騎士ですらも敵わないほどに上達していた。
シルヴァノとの間にも二人の子どもを儲けたこともあり、チェリシアの性格も歴代の女王と遜色ないほどまでに成長をしていた。
夫であるシルヴァノも同様に、これまでの国王と比べてみても決して見劣りするような状態ではなかった。
誰もが、この二人ならばアイヴォリー王国は安泰だと思っていたのだが、そんなアイヴォリー王国も滅亡の憂き目に遭ってしまう。
それは、王位継承を済ませた直後のことだった。
隣国であり友好国であるはずのモスグリネ王国が、アイヴォリー王国へと突然の宣戦布告を行い、攻め込んできたのだ。
新国王と新女王が誕生して祝賀ムードの浮足立っていたところへの侵攻である。アイヴォリー王国はすっかり虚を突かれてしまったのだ。
アイヴォリー王国とて兵力は決して弱くはないのだが、状況が状況ゆえに迎撃に失敗してしまう。
友好国の突如の侵攻。なぜか統制の取れない王国軍。アイヴォリー王国は、じわじわとモスグリネ王国軍に侵略されていってしまう。
このままではいけないと、前国王クリアテスと前女王ブランシェードも前線へと飛び出していく。国を担う二人を守るためだ。
ところが、しばらくしてシルヴァノとチェリシアの元に伝えられたのは、前国王と前女王の戦士の知らせだった。
勢いづくモスグリネ王国軍は、いよいよ王都にまで到達してしまう。
その時、城への伝達が遅れたことから、二人の間には裏切り者がいるのではないかという疑いが生まれていた。
だが、王都まで攻め込まれてしまえば、そんなことを気にしている場合ではなかった。王都が戦場となれば、多くの国民が犠牲になってしまう。いよいよシルヴァノとチェリシアも戦場に立つこととなった。
王都攻防戦において、シルヴァノが戦死してしまう。その時、シルヴァノにとどめを刺したのは、他でもないモスグリネ王国国王となったペイル・モスグリネであった。シルヴァノを見下ろすペイルの目は、蔑むような冷たい視線で、かつての学友の姿などどこにもなかった。
そして、顔を上げたペイルは、チェリシアへと顔を向け、見たかというように笑っていた。
その瞬間、チェリシアが怒りがを爆発させる。
膨大な魔力から放たれる魔法により、モスグリネ王国軍は半壊。ところが、それまでの犠牲が大きすぎた。半壊させても、兵力は向こうが上。チェリシアに残る兵力は、身辺警護に必要な最低人数程度であり、この状況でも多勢に無勢である。
さらには、マゼンダ侯爵家の残党まで刃を向けてくる。ペイルの追撃もある中では、チェリシアにもはや戦う余力はなかった。
王都を捨てて敗走するしかなく、護衛の騎士たちが自らを盾になってくれたおかげもあり、チェリシアは命からがら逃げることに成功したのだった。
モスグリネ王国の手に落ちた王都では、すぐさま残った王族と側近たちの処刑が行われ、アイヴォリー王国は滅亡してしまったのだ。
逃げ伸びたチェリシアは、故郷のコーラル伯爵領で細々と暮らしていた。
そもそもあまり蓄えないコーラル伯爵領。数年後に起きた飢饉の際には食糧があっさりと尽きてしまい、多くの餓死者を出す結果となった。チェリシアもその中の一人となり、短い人生に幕を閉じた。
……はずだった。
なぜだろうか。再び目を覚ますことができたチェリシアは、懐かしい天井を見上げていた。
一体どういうことなのだろうかと、目をきょろきょろと動かしていると、信じられないものが目に飛び込んできた。
幼い頃の自分だった。
女王となった時にすっかり敏くなったチェリシアは、瞬時に理解した。自分が過去の自分の妹として生まれ直したのだと。そして、ペシエラという名前を新たに付けられたチェリシアは、しばらくおとなしく様子を見ることとした。
五歳となったペシエラは、信じられない人物と再会することになる。
因縁の相手であるロゼリア・マゼンダだ。
再び見たロゼリアの姿に、ペシエラは複雑な感情を抱いてしまう。それが、しばらく素直な態度を取れなかった原因となった。そのため、ロゼリアやチェリシアを睨みつけるという結果につながっていたのである。
そんな日々は、すぐに終わりを告げる。仲良くしたかったというロゼリアの言葉と抱擁だ。
最初は疑ったペシエラではあったものの、しばらく付き合っている間に、その気持ちが本物だと知る。せっかく戻ってきたのだから、今度こそ幸せになる。ロゼリアやチェリシアとともに、その気持ちを確かめ合い、ようやくペシエラは素直になる。
このことにより、時空を超えた和解が成立したのであった。




