第56話 試験 その4
武術試験の会場で、ペシエラがペイルに勝負を申し込まれるという事態が発生した。
ただ、先に武術試験を終えるという条件での受け入れとなったため、ひとまずは武術試験が順当に消化される。
武術試験において、ロゼリアはグレイアとの対決となったのだが、さすがは逆行前は魔法科だったロゼエリアでは、鍛冶師の娘であるグレイアには勝てなかった。
チェリシアも武術試験に参加。武器を持たずに、前世で学んだという格闘術を使用。対戦相手の男子学生を、見事一本背負いで撃退していた。
こんな感じで武術試験も無事にすべての予定が消化されていった。
そして、迎えた本日の大一番。モスグリネ王国の王子であるペイルと、コーラル伯爵家の次女ペシエラの対決である。
隣国の王子と、十歳という特例で入ってきた少女の対決とあってか、その場からは誰一人として去ろうとしなかった。
「どうやら、お互いに武器は剣のようだな」
「そうですわね。ただ、形状はだいぶ違いますけれどね」
戦いを前に、二人は声をかけあっている。
ペイルの指摘している通り、二人の剣はまったく違う。ペイルの持っているのは幅広のブロードソード。一方のペシエラは、剣身の細いサーベルだ。
「あと、本当にその格好で戦うのか?」
「当然ですわよ。淑女たる者の正式な衣装ですもの。この服装で動けなければ、淑女失格というものですわ」
「……分かった」
確認をするペイルに対して、ペシエラははっきりと告げていた。今の服装のままでいいと。
それもそうだ。ペシエラの服装は学園の女子学生の制服なのだから。しかも、かかとの高いブーツ。普通、このような場であれば、パンツスタイルに着替えて、かかとも低い靴に変えるものである。ペシエラは、あえてそれをしなかったのだ。
この対応は、ペイルからすればなめられたものである。そのため、ペイルの目つきはさらにきついものへと変わっていった。
一方のペシエラの方も、実にペイル相手に険しい表情を見せている。
「始め!」
緊張が最高潮に高まった時、教官の掛け声が飛ぶ。
合図と同時に、ペシエラが動く。
真っすぐに駆けていき、両手持ちで持ち上げた剣を、しっかりとペイルめがけて振り下ろす。
ガキィィィンッ!
鋭い金属音が響き渡る。
素早い移動からの一撃を、ペイルがしっかりと受け止めたのだ。
「やりますわね。この一撃を止めるだなんて」
「ふっ、甘く見てもらっては困るぜ。にしても、真正面から突っ込んでくるとは、よっぽど自信があると見える。だが、これはどうだ?」
剣を押して攻撃を弾くと、ペイルはすぐさまカウンターを入れる。
ところが、ペシエラも反応よく、地面を蹴って後ろへと飛んで躱す。かかとの細いハイヒールだというのに、よくこれだけ動けるものである。
小さな少女が機敏に動くその姿は、見物している学生たちをとりこにする。
着地を決めたペシエラは、真正面からではなく、今度は左からペイルへと攻めていく。
先程の衝撃でダメージを受けた様子もなく、ペシエラは剣を引いて攻撃態勢に入る。
これにもペイルはきちんと反応して迎撃態勢に入るものの、目の前からペシエラが消える。
「なっ?!」
ペシエラは素早くペイルの左側へと回り込み、そこからペイルの左の脇腹へと剣を振り上げる。
一瞬動揺したためか、ペイルは反応が遅れてしまう。攻撃を仕掛けようと思った時には、すでにペシエラの剣が左の脇腹に到達していた。
「勝負あり、ですかしら?」
「……ああ、俺の負けだ」
にこりと笑うペシエラに対して、ペイルは素直に負けを認めた。
あまりにも衝撃的な光景に、訓練場内はしんと静まり返る。二人ががっちりと握手をすると、今度は一斉に歓声が沸き上がる。
特待生として入学してきた十歳の少女が、隣国の王子に勝ってしまったのだ。
普通なら国際問題にもなりそうなものだが、学園内での出来事に加え、仕掛けてきたのはペイルの方である。この件はお咎めなしである。
二人の握手する様子を、チェリシアはしっかりと写真魔法で焼き付けている。まったく、どこまでいっても姉バカなのである。
「十歳とはいえど、あの身のこなしと胆力。現在は婚約者候補ではないけれど、将来の伴侶としては望ましいな」
「そうでしょうね。妹のシェイディアが魔法の才能を目撃しておりますし、確かに望ましいでしょう。ですが、ペシエラ嬢は婚約者候補でもありません。殿下はもう少し、冷静でいられた方がよいではないでしょうかね」
「確かにそうだね。今日のことは、父上と母上に報告しておくよ。誰になるかは分からないが、早いうちに婚約者を決めないといけないからね」
少し離れた場所で様子を見ていたシルヴァノとオフライトは、今回のペシエラを目撃して、いろいろと話をしている。そして、報告を急ごうとシルヴァノはその場を去ろうとしている。
「殿下。せめてお声掛けをされてからの方がよいのでは?」
「そうだね。ペイル殿下のことも労っておかないとね」
ペイルが呼び止めると、シルヴァノは仕方がないねという感じでペイルとペシエラに近付いていく。
「二人とも、素晴らしい試合だったよ。これは、私も負けていられないね」
「シルヴァノ殿下。今度は殿下ともお手合わせをしてみたいものだ」
「そうだね。本気でやらないと、私は負けてしまいそうだ」
戦いたいというペイルの言葉を聞いて、シルヴァノは思わず笑ってしまう。
しかし、もう一人労わないといけないので、ぐっと笑いをこらえていた。
「さて、ペシエラ嬢」
シルヴァノが顔を向けると、ペシエラはぐっと手を握りしめる。
「どこで鍛えたのか知らないけれど、素晴らしい戦いぶりだったよ。まさか、ペイルを負かしてしまうとはね」
「ありがとう存じます」
シルヴァノに声をかけられたペシエラは、左手で剣を握り、右手を胸の前で握って軽く頭を下げていた。
「君はまだ十歳だ。これから本当に楽しみだね」
ペシエラの挨拶を見たシルヴァノは、先程以上の笑顔を見せていた。
この時のシルヴァノの笑顔を見たチェリシアは、慌てて先程の写真を紙に写すと、微笑みかけるシルヴァノとペシエラの姿を写真魔法に収めていた。
「ああ、これって、あのスチルイベントだわぁ」
どうやら偶然とはいえ、無事にゲームのイベントをクリアできたようである。




