第51話 はじまりのお茶会
サンフレア学園の入学式が行われる。
新入生代表の挨拶は、逆行前同様にロゼリアが担当した。王子であるシルヴァノが入学するというのに、なぜかロゼリアなのである。
いろいろと不思議に思うところもあるだろうが、ロゼリアは逆行前と同じ挨拶をそのまま行った。これだけの時間が経っているのに、一言一句そのまま言えるあたり、ロゼリアの能力は高い。ちなみにだが、この挨拶を聞いてペシエラが笑っていたのは内緒である。
在校生代表の挨拶は、こちらも逆行前と同じ六年次生である生徒会長が行った。こちらもまた、逆行前と同じである。
ちなみにだが、ゲームの中ではBGMが流れる中でモノローグが展開されるだけだった。そのため、学園の入学式を目の前で見たチェリシアのテンションは爆上がりである。友人の晴れ舞台を見たのだから、なおさらである。
興奮するチェリシアをペシエラがしっかりと咎めていたこともあり、入学式は特に問題が起きることなく終わることができた。
ただその中で、ペシエラはロゼリアの挨拶を新鮮な気持ちで聞いていた。なにせ、逆行前のペシエラはただの田舎令嬢だったのだ。恵まれた領地を持つ家に生まれ、王都でぬくぬくと育ってきたロゼリアには、それは強い敵対心を持っていた。だから、偉そうに何を言っているんだと、ろくに聞いていなかったのだ。
そうして負の感情を拗らせた結果が最悪の結末を招いた。冷静でいられたのも、そういった経験があったからなのだろう。
入学式が終わった一年次生たちは、貼り出されたクラス分けに従ってそれぞれのクラスに分かれていく。ロゼリアたち三人は同じクラスに振り分けられる。
この状況には理由があった。実は、商会の仕事をしていた以外にも、月に数回のペースで女王になるために向けた教育を受けていたのだ。その教育を通して、一年次の授業内容までをマスターしてしまったがために、わがままを叶えてもらったというわけである。
クラスでの説明を受けた後は、ロゼリアたちは王子であるシルヴァノたちとのお茶会に臨むことになる。なにせここには、五人の攻略対象が勢ぞろいだ。特にチェリシアに気合いが入る。
特別な許可を得て、学園内にその場所がセッティングされていた。
三人で話をしながらゆっくりとお茶会の場にやって来たロゼリアたちは、そこで待ち構えていた光景に驚かされる。
五人の攻略対象以外にも、ロゼリアの兄であるカーマイルに加え、数名の令嬢たちが座っていたのだ。
「遅かったね、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ。君たちが最後だ。みんな待ちわびているから、こっちに来て席についておくれ」
「お待たせして申し訳ございません」
シルヴァノに咎められてしまったので、ロゼリアが代表して謝罪をしている。
謝罪を終えると、ロゼリアたちは速やかに席につく。
それと同時に、全員の前に使用人たちが用意した紅茶とお菓子を確認する。
このお茶会に並べられたお菓子の中には、コーラル領と採れた小麦を使い、マゼンダ領の果物とアクアマリン領の砂糖が使われたものも並べられている。これだけのものが並んでいると、マゼンダ商会の力というものがどのくらいかよく分かる。三年間の努力の結果に、ロゼリアたちは満足しているようだ。
お茶会の席に着いたロゼリアたちは、集まった人物たちを改めて確認する。
攻略対象側の面々は以下の六人。
このお茶会の主催であるシルヴァノ・アイヴォリー王太子殿下。
宰相の息子であるチークウッド・マルーン公爵令息。
王国騎士団の服騎士団長の息子であるオフライト・ノワール伯爵令息。
王国一の商会として名高いドール商会の跡取りであるロイエール・ドール。
ロゼリアの兄であるカーマイル・マゼンダ侯爵令息。ちなみにカーマイルは、チェリシアのメモによると隠し攻略対象らしい。
そして、シルヴァノの対面に座っている隣国モスグリネ王国の王子であるペイル・モスグリネである。
ペイル・モスグリネとはこの場で初めて顔を合わせるのだが、切れ長の目が特徴で、緑色の髪の毛はかなり短くなっている。
そして、同席している女性陣の方はどうだろうか。
一番目立つ銀髪の女性は、プラティナ・スノーフィールド公爵令嬢。ふわふわの銀髪をハーフアップにしている。
オフライトの隣に座る黒髪の女性は、双子の妹であるシェイディア・ノワール伯爵令嬢。
ロイエールの隣に座るのは、姉であるブラッサ・ドール。お金に物を言わせたのだろうか、ブラッサはチークウッドの婚約者らしい。
そして、残った一人はくすんだ銀髪を持つ平民のグレイア。彼女は父親を鍛冶師をしており、自身は剣を扱うこともできるのだとか。その関係で、プラティナやシェイディアとも剣を通じて面識があるらしい。
この四名がこのお茶会に参列している。
初めて顔を合わせる面々もいるために軽く自己紹介が行われる。緊張したチェリシアが軽くかんだ以外は、特に問題なく終わることがきた。
お茶会は自体は、実に他愛のない会話が交わされている。主な話題は、マゼンダ商会とドール商会のことだ。
なぜこんなことになるかといえば、学園で使う備品の多くがその二つの商会の手によって用意されているからだ。
最初の頃は、マゼンダ商会はドール商会に目の敵にされたものである。しかし、それを粘り強く交渉し、扱う分野のすみわけを行うことで敵対関係が解消した。今では両商会の関係は良好である。
実に和やかな雰囲気のお茶会ではあるが、その中でただ一人、厳しい目を向けている人物がいる。
いわずもがな、留学をしてきたペイルだ。
留学のためにやって来たペイルは、アイヴォリー王国の内情に驚かされたものだ。特に日用品の中には見たことのないものがいくらか存在しており、すぐにその出どころを調査させた。その調査の末に行き着いたのが、二つの貴族であり、その令嬢たちが今目の前にいる。
その結果、ペイルの遊学の目的に、条件に当てはまる令嬢三人のうち、誰かを婚約者として自国に連れて帰るというものが加わったのだ。
(必ず、手に入れてやる)
もうすでにこの時から、前回ともゲームとも違うシナリオは進み始めているのだった。




