第49話 学園編の始まり
あれから、三年の月日が流れた。
その日の朝は快晴であり、目を覚ましたロゼリア・マゼンダは、カーテンを開いて外の景色を眺めている。
十三歳を迎え、今年から王都にある学園に通うことになる。幼い頃にチェリシアに教えてもらった乙女ゲームの本編時間軸が、いよいよ始まるのだ。
深紅の髪の毛を背中あたりまで伸ばし、悪役令嬢によくある盾ロールの髪型……ではなく三つ編みのハーフアップという、どちらかといえば深窓の令嬢にありがちな髪型をしている。
魔物氾濫を鎮めてから学園に入学するまでの三年間、ロゼリアは主に商会の仕事をこなしながら、チェリシアから教えてもらっていた攻略対象ともコツコツと交流を行っていた。もちろん、チェリシアとペシエラも同じようにである。
ただ、攻略対象のうち、どうしても一人だけは出会うことができなかった。
(王家との間でも信用が築けていたから、そこから手紙だけでもとは思ったのだけれど、他国の人間、しかも王族じゃ、そう簡単にはいかないわね)
この三年間の苦労を思い出しながら、ロゼリアは小さくため息をつく。
乙女ゲームにおける攻略対象は全部で五人。
アイヴォリー王国王子、シルヴァノ・アイヴォリー。
宰相の嫡男であるチークウッド・マルーン。
騎士団の副団長の息子であるオフライト・ノワール。
それ以外の二人は、王都に本拠地を構える商会の息子と隣国の王子だ。
このうち、商会の息子は、マゼンダ商会の行う商談などを通じて、何度か会うことができている。チェリシアの提案もあって、回りくどい説明などを行ってみたものの、彼はものの見事に話についてきていた。頭の回転はとても良いようだ。
隣国の王子というのは、アイヴォリー王国の西隣にあるモスグリネ王国の王子である。彼は国家間の交流の一環として、学園に通う六年の半分にあたる前半の三年間をアイヴォリー王国で過ごすことになっている。乙女ゲームの内容はその前半三年間となっているために、攻略対象になっているらしい。
ちなみに両国における六年間の学園生活のことを、チェリシアは中高一貫校みたいだという風に話していた。おそらくは、チェリシアの前世の記憶のことなのだろう。
逆行した八歳の時から五年間の交流があるとはいえど、ロゼリアにしてみればチェリシアのことはまだまだよく分からない。
商会においても、前世の知識を使った様々な発明品を作り出しては、ロゼリアやペシエラを含めた周りの人たちを驚かせていた。中でも、遠隔操作で照明をつけるシステムはびっくりさせられたものである。おそらくは、テレポートに見られるような魔力を飛ばすようなやり方なのだろうが、その仕組みはまったくもって理解不能だった。
前世の知識や価値観が独特過ぎて、ロゼリアたちは飽きない生活を送り続けている。
いろいろと思いながも、ロゼリアは学園の制服に身を包んでいた。
これから六年間通うことになる学園は、平民も条件を満たせば通えることになっているが、大半は貴族の子女である。
その学園の制服だが、上は共通でブレザーである。下は、女子はひざ下スカートであり、ひざ下という条件さえ満たせば長さに規定はない。男子はスラックスだ。
この基本さえ守っていれば、色と模様以外のデザインはカスタムが可能。その気になれば生地すら変更できる。
ロゼリアの場合は、ブレザーの袖はパフスリーブに変更しており、その下には白のブラウスを合わせている。スカートの丈は足首まで伸ばしており、その下には黒のタイツとひざ下まであるロングブーツを合わせている。比較的お嬢様らしい服装といった感じだ。
「さぁ、シアン、学園に向かいましょう」
「はい、お嬢様」
シアンに声をかけて、ロゼリアは馬車に乗り込んで学園に向かう。
アイヴォリー王国の学園は、サンフレア学園という。サンフレアというのは、学園が創立された時の女王の名前だ。この時の女王が尽力した結果、王国の学力水準は大きく向上。その功績を讃え、学園内の中庭、学園長室、講堂の三か所に女王の銅像が建てられている。
学園にやって来たロゼリアだったが、馬車を降りると同時にコーラル家の馬車が到着していた。中からはチェリシアとペシエラの二人が降りてきた。
「おはようございます、チェリシア、ペシエラ」
「おはようございます、ロゼリア」
「おはようございますですわ、ロゼリア」
三人が挨拶を交わす。自分たちだけということもあって、お互いに呼び捨てである。
チェリシアたちの制服は二人揃って同じデザイン。袖は手の方に向かって広がるような形になっている。その下には薄ピンクのブラウス。スカート丈は規則ギリギリのひざ下スカートでハイウエストになっている。白のタイツにミドルブーツと、よくもまぁ、姉妹でそろえたものである。
髪型は、チェリシアが肩にかかるストレートのセミロングで、頭の後ろにワンポイントのリボンを着けている。ペシエラの方はふわっとしたウェーブのかかった髪をツインテールにしていた。こちらは対照的といったところだ。
さて、なぜペシエラがいるのだろうか。
それを解くカギは、三年前の魔物氾濫の時まで遡る。
実はその後、魔物氾濫を発生と同時に鎮圧したことと、その後の領地改革の功績が認められ、コーラル家は子爵から伯爵へと陞爵されていた。
特にカイスの近辺の変化は大きく、このことによって国の食糧事情も大きく改善したのだから、当然といえば当然だろう。
ペシエラが十歳で学園に入れたのも、この時の褒美のひとつである。もちろん、ペシエラ自身もその優秀さを証明したからこそ実現できたというわけだった。
「本当に、三人そろって一緒に学園生活を送れるなんて、夢のような気分だわ」
「それはわたくしもですわ。ただ、逆行前とはかなり違いますわよ。お姉様はこんなですし、わたくしも別にロゼリアのことは嫌いではありませんから」
「ちょっと、ペシエラ?!」
さらっとディスられたことに、チェリシアは思わず頬を膨らませている。この様子にはロゼリアもつい笑ってしまう。
しかし、いつまでも校門でつっ立っているわけにもいかない。
「さぁ、参りましょうか」
「ええ」
三人は声をかけあうと、そろって学園の中へと歩み入っていく。
この時から、ゲーム本編の時間軸がスタートしたのであった。




