第48話 王都への帰還
高台の荒れ果てた土地だったカイスに、一瞬のうちに巨大な水源地が出現した。
「おい、なんだ今の揺れは! それにこの水、一体何があったというんだ」
近くで休んでいたプラウスが、湖の縁までやってきて騒いでいる。
大きな揺れから突然の湧き水、さらにはなみなみと水をたたえた湖の出現。誰もがただ事ではないと感じて当然だった。魔物の処理がもうちょっと遅れていたら、これに巻き込まれていた可能性があるのだから、これだけ声を荒げて当然だろう。
そのプラウスの元に、ふらりふらりとチェリシアの操るエアリアルソーサーがゆっくりと降りてくる。
「チェリシア! お前、何を無茶しているのだ」
プラウスは顔を青くしながら駆け寄ってくる。病み上がりに無茶をしているのだから怒って当然だ。
「も、申し訳ございません、お父様。この精霊が、無茶苦茶なことをしてくれたので、やむを得ず使いました……」
「精霊?」
チェリシアが頭を押さえながらふらついている。それでも、なんとか自分のすぐ隣にいるレイニを指差している。
プラウスの視線の先には背中に羽の生えた小さな男とも女とも分からない存在が浮いている。
「やぁ、ボクが精霊だよ。今さっき起きたことは、全部ボクが起こしたのさ。厄災の暗龍を倒してくれた上に、いろいろと面白いものを見せてくれたので、お礼に願いを叶えてあげたのさ」
その場でくるりんと回ると、一回転したレイニは、ちょこんとチェリシアの頭の上に乗っかっている。よっぽど気に入ったと思われる。
「そういえば、この子がもうひとつ、面白いアイディアを持っているみたいなんだ。場所さえ指定してもらえば、ボクの力でそれも実現をしてあげよう」
「えっ、でも願いは一個なんじゃ?」
レイニの言葉に、チェリシアは思わず小さく跳び上がるように驚いている。
ところが、レイニはにこやかに笑っている。
「水場は僕からの贈り物さ。これからやることが、叶える願いってやつだよ。さっ、遠慮なく場所を決めてくれないかな」
「わ、分かったわよ」
レイニに言われるがままに、チェリシアはロゼリアとペシエラに支えられながら村に向かって移動していく。
村の近くまでやって来ると、ロゼリアとペシエラにお願いして、自分との間で三角形を作ってもらう。
「私とロゼリア、ペシエラのそれぞれを結んだ線を一辺とする四角形の土地に、光の小屋を建ててもらいたいの。外気の影響を受けない、農作物を育てる空間にするのよ」
「高さは?」
「私の倍、ううん、三倍くらいの高さでお願い」
「お安いご用さ」
チェリシアの指定した範囲に対して、レイニは力を発動させる。すると、チェリシアたちが立っている目の前に、光のうっすらとした壁がそびえ立つ。よく見るとそれはまるで光り輝く家のようだった。
「これでいいかい?」
「ちょっと、確認させてもらうわ」
チェリシアはそういと、光の中へと入っていく。光の壁はチェリシアを拒むことなく、まるでそこに何もないかのように通り抜けることができた。
中へと入ったチェリシアは、ロゼリアに頼んで魔法で風を起こしてもらう。ところが、その風魔法は光の壁の中まで入ってくることはなかった。
「すごい、温室ができ上がっているわ」
「どんなもんだい。これが精霊の力だよ」
チェリシアの驚く顔に満足したのか、レイニはとても自慢げにしている。
「お姉様、これは一体?」
ペシエラがチェリシアのところへと駆け寄ってくる。一体、どういうことになっているのか、詳しい説明を求めているようだ。
チェリシアはまだまだ本調子ではないものの、ペシエラたちを集めてこの光の家がどういうものなのかを説明している。
それによれば、外部の環境に影響を受けずに作物を育てられる小屋なのだという。これとくぼ地から変化した湖があれば、このカイスは今までと違った作物の取れる場所へと変化させられるというわけなのだ。
これには、村人たちは大いに沸きたった。
いよいよ、コーラル子爵領の大問題に改善が見られるのだから、プラウスも満足そうである。
早速、湖から村に向けての水路を引く工事が始まった。
チェリシアはその様子を湖の前で見守る中、ふとした疑問を疑問を投げかけている。
「そういえば、レイニ」
「なにかな?」
「この湖、地下水脈に働きかけてって言ったけど、他の場所に影響は出ないかしら」
「はははっ、そんなことかぁ」
チェリシアの質問を聞いて、レイニはお腹を抱えて大笑いである。
「僕は水の精霊でもあるんだよ? そんな愚かしいことをすると思うかい?」
これにはチェリシアはきょとんとするばかりである。
レイニは魔力を作用させて水の量を増やしたらしい。なので、地下水脈にはまったく影響がないとのこと。さすがは精霊、反則的な能力だった。
抱いていた懸念もすっかりと払しょくされたチェリシアは、湖の前に立ってキラキラと輝く湖面をしばらく眺めていた。
こうして湖から村へと引く水路が完成すると、ようやくロゼリアたちは、プラウスたちとともに王都へと戻っていくことになる。
もちろん王都に戻った後には、チェリシアやペシエラはもちろんのこと、ロゼリアもヴァミリオやシアンたちからこってりと絞られていた。勝手に家を抜け出して行方知れずになっていたのだ、怒られて当然である。
しかし、そんな状況でもロゼリアはまったくもって余裕でいられた。
なんといっても、逆行前との状況を変えるべく、解決しておきたい問題が順調に解決を見せたのだから。
大きく変わってしまった過去が、これからのロゼリアたちにどのような影響を与えるか分からない。
はたして、三人の前にはどのような未来が待っているのか。それは、現段階ではだれにも分からないのである。




