第47話 光と水の精霊
ロゼリアたちの前の前に、羽を生やした小さな存在が現れた。これが精霊と呼ばれる存在らしい。
「ああ、本当にいたんだわ。この目で精霊を見られるなんて、ああ、なんでスマホがないのかしら」
精霊の実物を見てうっとりしているチェリシアは、なにやら意味不明な単語をつぶやいている。これにはロゼリアとペシエラはどう反応していいのやら困っている。
「おやおや、こんなところに”世界の渡り子”と”時渡り”がいるなんて珍しいことだね」
「世界の渡り子?」
「時渡り?」
聞き覚えのない単語がチェリシア以外からも飛び出してきて、ロゼリアたちはさらに混乱をしている。一体どういう意味なのだろうか。目の前の精霊に視線が集中する。
私たちの視線に対して、精霊はにっこりと笑っている。
「分からなくても当然かな。世界の渡り子というのは、一千年に一度現れるかどうかといわれている存在だからね。その名前の通り、世界を渡り歩く存在を指す言葉だよ」
「なるほど」
「それと、時渡りというのは、時間を遡ったり、逆に進んだ時間に飛んだりすることを指す言葉だよ。いやぁ、”時渡りの秘法”を使える人物がいるとは驚きだね」
目の前の精霊は笑うような表情を浮かべて、言葉の説明をしている。
しかし、ロゼリアたちは精霊が現れた時点から驚きの連続で、なんと反応していいのか完全に困っているようだ。
「えと、時渡りの秘法とは、なんでしょうか」
ぐっと拳に力を込めて、ロゼリアは精霊に問いかける。
「過去や未来へと飛ぶことができる禁忌の魔法のことさ。普通は使った人物と、対象に選んだものだけが飛ぶはずなんだけど、反応からすれば、君たちの中には使った人物はいない。となると、赤い髪の子と桃色の髪の小さな子の二人が対象として飛んできたことになる。なぜそうなったか分からないけれど、実に興味深いよ」
「私と、ペシエラの事?」
「そそっ。多分、二人の因縁が強すぎたことで巻き込まれたんだろうね」
「それならば納得ですわね」
ペシエラはとても納得がいったようで、ポンと手を叩いてる。
「それで、その時渡りの秘法とはどういうものなの?」
チェリシアが精霊に説明を求めている。
「禁法に指定されているように、この魔法は代償を伴うんだ」
「だ、代償……」
「ああ、時渡りの秘法の代償は魔力。ありったけの魔力をすべて使って行使するからね。それに多くの制約も付きまとう。対象となった人物に、秘法を使ったことを話せない。知られてしまえば、使用前の事実が確定してしまうからね。知られないまま、目的を達成しなければならないというのが制約なのさ」
精霊の話によれば、相当大きな代償を伴うということらしい。あまりにも衝撃的な話に、ロゼリアたちは黙り込んでしまう。
その重苦しい様子を見た精霊は、さらりと話題を切り替える。
「それにしても、君たちはとても興味をひく。世界の渡り子と時渡りが同時に存在しているなんてことはまずありえないからね。特に、その影響を強く受けた桃色の髪の小さな子はなおさら興味があるよ」
「わ、わたくしですの?!」
ずいっとペシエラの顔を覗き込む精霊に、ペシエラはものすごく驚いている。
「いいねぇ、その反応。うん、君たちと関わっていれば退屈はしなくて済みそうだね」
ロゼリアたちの反応を見て、精霊はけらけらと楽しそうに笑っている。
「ああ、そうだ。厄災の暗龍を倒してくれたお礼に、君たちの願いを叶えてあげよう。ボクのできる範囲であるならね」
そうかと思えば、ずいっと顔をチェリシアに近付けてきた。
「な、なんで私に……」
「君が一番強い思いを持っているからだよ。なんだったら、その思いを今ここで実現してあげようじゃないか」
「えっ?」
戸惑うチェリシアに構うことなく、精霊はえいっと力を振るう。
「さぁ、ボクのところに集まって。今から面白いことが起きるからね」
精霊が言葉を発すると同時に、地面が急激に揺れ始める。
次の瞬間、チェリシアたちのいる真下から、突然、水が噴き出してきた。
「ひゃあっ!?」
足元の地面ごと高く吹き上げられたチェリシアたちは、つい悲鳴を上げてしまう。なにせ、急激に空中へ放り出されたのだから。
やがて浮遊感がなくなったかと思えば、そのまま落下を始めてしまう。
「もう、病み上がりに魔法なんて使わせないでよ!」
叩き落とされる衝撃を和らげようと、チェリシアは不完全ながらにエアリアルソーサーを発動させる。まだ回復していないせいできちんと発動できないようである。
「まったく、何をするんですの!」
「まぁまぁ、下を見てごらん」
「えっ?」
精霊の言葉に従って、チェリシアたちはエアリアルソーサーの下を見てみる。なんということだろうが、自分たちのいたくぼ地に、なんと水があふれてしまっているではないか。
「どうだい、これが光と水の精霊であるボク、レイニの力だよ。地下水脈に働きかけて、水を噴出させたんだ。これで、この辺りは次第に緑あふれる場所になると思うよ」
「これが、精霊の力……」
自分たちの魔法すらをも凌駕してしまう力に、ロゼリアたちはただただ言葉を失うばかりだ。
エアリアルソーサーに乗って空中に漂いながら、湖へと姿を変えたくぼ地をしばらく眺めているのだった。




