第43話 眠れる少女
魔物氾濫から一日が経った。だが、気を失ったチェリシアはまだ目を覚ます気配はなかった。厄災の暗龍のとの戦いで消耗しすぎたのだろう。
このままチェリシアの目覚めを待っていた場合、どのくらい待たされることになるのだろうか。看病をペシエラに任せて、ロゼリアはプラウスにすべてを話すことにした。
「……というわけなのです」
「ふむ……」
チェリシアとペシエラがそろって同じ夢を見て、胸騒ぎを覚えてカイスまでやって来たということにしておく。時間を遡ってきたり、別の世界からやって来たなんて話をしても、信じてもらえないだろうからしょうがない。
一人が見ただけなら笑って片付けられるようなことでも、二人の娘がそろって見たとなれば説得力が上がる。ロゼリアの狙い通り、プラウスはこの説明に納得したようだ。
だが。さすがに子どもたちだけで済ませてしまったということで、後で怒られるのは間違いないだろう。
その一方で、この魔物氾濫にはなにかと疑問が残る。
ひとつは起きた時期。ペシエラの記憶では、夏の一の月だったはずだ。ところが、今はまだ春の三の月の中ほど。本来の時期に比べ、十日以上のずれがある。
そして、もうひとつは厄災の暗龍が出現したこと。チェリシアがクリア後とか話していたあたり、本来ならば最低でも五年以上も後の話だろう。それが、今回出現してしまったということも引っかかる。
しかし、今の状況であれこれ考えてみても、結論なんて出るわけもない。
ロゼリアは考えることをやめて、チェリシアが眠っている部屋へとやってきた。
「ペシエラ、チェリシアの様子はどうかしら」
「まったく起きる気配はありませんわね。呼吸をしているのは分かりますけれど、この状態が続くようであれば、目を覚ますか不安になってきますわ」
ロゼリアの問い掛けに、ペシエラは不安そうに答えている。よく見ると顔色が悪い。どうやら不眠不休で看病をしていたようだ。
見かねたロゼリアは、代わるから休むようにペシエラに伝える。最初は少し渋ったものの、自分まで倒れてしまえばプラウスにさらに心配をかけてしまうと、ロゼリアの言葉を受け入れていた。
そのまま部屋を出て行ったペシエラは、隣の部屋に移動したかと思えば、そのまま静かな寝息を立てて眠ってしまった。
ペシエラの様子を確認したロゼリアは、ペシエラの座っていた椅子に座り、チェリシアの様子を見守っている。
チェリシアの寝顔はとても穏やかだ。ペシエラの言っていた通り、呼吸に合わせて布団が上下しているので、生きているのは間違いない。
ただ、一日が経過しても眠ったままの状態が続いている。魔力を使い果たすほどに魔法を使いまくっていたので、その反動であることは間違いないだろう。ロゼリアは、チェリシアの眠る布団の上に手を置く。
「本当にあなたは大した人よ。自らの危険を顧みないであれだけ魔法を使って……。だけど、あなたのことを大切に思っている人たちがいるの。さっさと、元気な姿を見せなさいよね」
ロゼリアは、強い表情でチェリシアをじっと見つめたのだった。
チェリシアの看病を続けていたロゼリアは、知らない間に眠っていた。気が付けば、窓から日の光が差し込んでいる。
そう、もう朝になっていたのだ。
驚いて立ち上がったロゼリアは、寝ぼけていることもあってかちょっとふらついてしまう。手をついた際にチェリシアの顔が視界に飛び込んでくるが、その表情は前日よりだいぶマシになっているように感じられた。
チェリシアの様子を確認していると、部屋の扉が叩かれる。
「どちら様ですか?」
「失礼致します。プラウス様よりお手伝いを言い渡されましたスミレと申します」
プラウスからの指示を受けた人間なら信用できるだろう。ロゼリアはスミレを部屋へと招き入れる。
「おはようございます。プラウス様がお呼びでございますので、チェリシア様のことは私にお任せ下さい」
「それはいいけど、ペシエラはどうしているのかしら」
「ペシエラ様でしたら、すでに起きられて、プラウス様のところへ行かれております。お二人のことをとてもご心配なされていらっしゃいましたので、すぐにでも向かわれてはいかがでしょうか」
「そうね。分かったわ」
チェリシアのことをスミレに任せたロゼリアは、部屋を出て自分に用意された部屋へと移動する。
持ってきていた荷物はチェリシアの収納魔法の中なので、困ったことに着替えることができない。あまり待たせるわけにもいかないと、顔だけを洗うと、すぐさまプラウスのところへと向かっていった。
こうして、同じ部屋にチェリシアとスミレの二人だけになる。
そのスミレはというと、じっとチェリシアの顔を見つめている。ただその表情は、心配しているというよりは、ただ見ているといったような無表情だ。
「不思議な感じはするけれど、どう見ても普通の少女に見えるわね。こんな少女が、あの厄災の暗龍を倒してしまうとは、つくづく驚かされるわ」
スミレはつぶやきながら、そっとチェリシアの顔を撫でている。
「だけど、このまま眠っていられても困るというもの。あの人から私はあなたたちのことを守るように頼まれているのだから、さっさと起きてもらわないと困るわ」
スミレはチェリシアの胸の辺りに手を移動させると、すっと魔力を込めて何かの魔法を発動させたのだった。




