第42話 お父様は心配性
時は、カイスの近くで魔物氾濫が起きる五日ほど前のこと。
コーラル領シェリアに滞在するプラウス・コーラルは、街の収支報告書に目を通してた。
ロゼリアとチェリシアの手によってシェリアは大きく様変わりしており、塩と魚料理でかなり潤っているため、プラウスはかなり満足した様子を見せている。
ただ、だからといって、コーラル子爵領の問題が解決したわけではない。
実はまだ、コーラル子爵領にはまともな農地がないという問題が横たわっている。海から近いシェリア周りは、まだまだ塩による影響で農作物が育ちにくい状況だ。
これは北部の方も同じような状況で、同じ領地の中でも貧富の差がどんどんと広がっている。どうやって解決するべきか、プラウスの悩みは尽きない。
そこに、王都のある屋敷から、馬に乗って血相を変えた部下がやって来た。
「どうしたのだ」
「た、大変でございます、子爵様」
プラウスが出迎えると、やって来た部下がメモを取り出しながらプラウスに告げる。
「チェリシアお嬢様とペシエラお嬢様が、このような書置きを残されて行方不明になっております!」
「なんだと?!」
驚いたプラウスはメモを受け取る。そこにはこう書かれていた。
『カイスの村まで出かけてきます』
メモを見たプラウスは、やって来たばかりの部下に休憩ついでにシェリアでの仕事を押し付けると、元気な部下数名を連れて、慌ただしく準備をして屋敷を飛び出していった。
この時のプラウスは、なぜか娘たちが既にカイスにいるだろうという直感が働いていた。
なんといっても、姉であるチェリシアの魔法を、実際に見せてもらったことがあるからだ。その時のチェリシアは、とても魔法の才能に目覚めたばかりとは思えない魔法を披露していた。ならばと思ったのである。
複雑な地形を通った上で到着できるカイスの村まで、プラウスたちは馬を駆って四日で到着する、
すぐさまカイスの村の住民に聞き取りをするものの、誰一人として娘たちを見た者はいなかった。そんなはずはないと、繰り返し村人を問い詰めるプラウスだったが、そんな最中、とんでもない魔力を感じ取った。
カイスから東の方向の空を見る。
「な、なんだ、あれは!」
遠くの空からでも、はっきりとどす黒い瘴気が集まっているのが確認できた。やがて弾けたかと思えば、そこから姿を見せたのは真っ黒な禍々しい龍。
「や、厄災の、暗龍……?」
文献で見たことのあるプラウスは、顔を青ざめさせてつぶやいている。
過去幾度となく現れ、出現した地域一帯を灰塵へと帰してきた伝説のドラゴン。それがカイスの近くに現れたのだ。あまりの禍々しさに、プラウスは絶望した。
ところがだった。
しばらくすると、厄災の暗龍の頭部がいきなり弾けたかと思うと、今度は大きな音を立てて倒れてしまった。
一体何が起きたの分からない。しばらく呆然としたプラウスだったが、すぐに馬を駆ってその場所へと向かおうとしている。
「プラウス様、どちらへ?」
「娘たちが、あそこにいるような気がする。お前たち、村のことは任せた」
部下の戸惑いをよそに、プラウスはそのまま走り去ってしまった。
馬を駆って厄災の暗龍が現れた場所までやって来たプラウスは、目の前に求める姿を発見する。
「チェリシア! ペシエラ! 無事か?」
「お、お父様?!」
大声で叫ぶと、驚いたペシエラが振り返っていた。
近くまでやって来たプラウスは、馬を止めてそのまま様子を見ている。くぼ地の中では多くの魔物が倒れており、目の前にはロゼリアとチェリシア、そして、気を失ったチェリシアがいることを確認した。
「まったく、魔物氾濫を鎮めてしまったのか……。まったく無茶をしおってからに。ロゼリア嬢も、感謝する」
プラウスにこう言われるものの、疲れてしまっているロゼリアは何も言えなかった。
「厄災の暗龍まで倒してしまうとはな。我が領地も終わりかと思ったのだが、とんでもない娘たちを持ったものだ」
ちらりと気を失っているチェリシアに視線を向けた。
「あ、あの、お父様……」
「あとで説教をするつもりだが、とりあえず、チェリシアを連れて村まで戻らんとな。目が覚めてからになるだろうが、今回のこと、詳しく聞かせてもらうぞ」
ペシエラは弁解をしようとするものの、プラウスに止められる。さらにこのように言われてしまえば、ロゼリアとペシエラは何も言い返せなかった。なぜなら、自分たちは悪いことをしたという自覚があるのだから。
プラウスは気を失ったチェリシアを背負うと、疲れているだろうが、ロゼリアとペシエラを連れて村へと戻っていく。
村に戻ると、部下や村人たちから驚いた様子で迎えられる。
詳しいことは後回しだ。娘たちを村人へと預けたプラウスは、部下と数名の村人たちを連れて、すぐさま魔物の処理へと向かっていった。
(まったく、我が娘とその友人は、とんでもない子たちだ。あとで侯爵殿には弁明をせねばならぬが、ひとまず今はゆっくりと休ませてあげよう)
魔物の処理へと向かいながら、プラウスは娘たちの奮闘を讃えたのであった。




