第41話 全力の勝利
チェリシアがここまで厄災の暗龍のブレスに警戒するのには訳がある。
ゲームにおける厄災の暗龍は、挨拶代わりにとこのブレスを高確率でぶっ放してくる。このブレスは無属性の防御貫通攻撃であり、高火力も相まってお祈りと称されるほどに理不尽なものだった。
そして、この防御貫通という特性こそが、チェリシアがここまで無茶をする最大の理由となる。
チェリシアが瘴気を囲み込むように展開している二重の障壁魔法。厄災の暗龍のブレスは、その特性によって障壁魔法をたやすく貫いてしまうのだ。そうさせないために、チェリシアは無茶を承知で四つ目の魔法を放とうとしているわけだ。
だが、さすがにチェリシアへの負担は大きく、普段は涼しい顔をしているチェリシアが、大粒の汗を流しながら歯を食いしばっている。
「ここで、潰す!」
チェリシアは、厄災の暗龍の頭部を包み込むように光の魔法を発動させる。だが、それでも瘴気の集束をそこそこ阻害するので精一杯。すでに集まってしまった瘴気を元に、厄災の暗龍はブレスを放てる状態にある。これ以上の火力アップを防いだのはいいが、ピンチの状態にあることには変わりなかった。
「ロゼリア!」
チェリシアは叫ぶ。
「私の光魔法に、風魔法をかぶせて! 暗龍の口をふさいで、ブレスを、攻撃を潰して!」
ロゼリアの手はちょうど空いており、チェリシアは助けを求めたのだ。
「分かったわ!」
ロゼリアはすぐさま風魔法を使い、チェリシアの光魔法を包み込んで、厄災の暗龍の頭部へと押し付けていく。
この行動により、厄災の暗龍の頭部は光魔法によって押しつぶされるような格好になる。厄災の暗龍は口を広げることができず、必死に頭を覆う魔法を振り払おうともがいている。もがけばもがくほど、発射を控えたブレスが、厄災の暗龍の口の中を傷つけていく。防御貫通は、暗龍自身にも有効なのだ。
やがて、限界を迎えたブレスは、厄災の暗龍の口の中で炸裂する。防御貫通の高火力のブレスは、厄災の暗龍の頭部を跡形もなくなるほどの威力で吹き飛ばしてしまった。
「ペシエラ、行くわよ!」
「準備万端ですわよ、お姉様!」
ブレスの大爆発を確認したチェリシアは、二重に展開した障壁魔法の内側を解除する。
その瞬間、ペシエラに頼んで充填させていた光魔法が、勢いよく障壁の内部へとあふれ出す。その強力な光魔法は、吹き飛んだ頭部と不完全な部分から厄災の暗龍の体へと流れ込み、全身を一気に焼いていく。
瞬く間に光魔法によって全身を焼かれた厄災の暗龍は、断末魔すら上げることすら叶わず、大きな音を立ててその場へと倒れてしまった。
なんということだろうか。いくら不完全だったとはいえど、伝説とも言われた厄災の暗龍を相手に、十歳と七歳の少女たちの完全勝利に終わったのである。
この状況を信じられないとばかりに、ロゼリアたちはぽかんとした表情でエアリアルソーサーの上から眺めている。
「ははは、勝ってしまったのかしらね」
「ええ、厄災の暗龍は、倒れましたわね……」
次の瞬間、三人そろって、力が抜けたようにエアリアルソーサーの上で座り込んでしまった。
だが、まだ油断はできない。
厄災の暗龍は倒れたものの、まだ魔物が残っている可能性が十分に考えられる。
三人はその状況を確認したいのだが、どうやらチェリシアが魔力を使い果たしかけているらしく、エアリアルソーサーがその形を維持できなくなり始めていた。
やむなく、三人は一度地上に降りることにした。
どうにか無事に地上へと降りることができたものの、チェリシアの魔力はすでに限界で、すぐにエアリアルソーサーは霧散してしまう。
唯一元気であるロゼリアがくぼ地の方を見るものの、厄災の暗龍が倒れたことで発生した砂埃のせいで、まったくくぼ地の中が見えなくなっている。さらにはチェリシアが展開した障壁魔法も一部が崩れ始めており、中の状況の確認は急を要する事態となっていた。
「風よ!」
余力のあるロゼリアが風を巻き起こして、くぼ地の中の砂埃を吹き飛ばす。崩れた障壁の隙間から、風に乗って砂埃はすべて吹き飛んでいき、ようやく中の様子をはっきりと見ることができた。
くぼ地の中央には厄災の暗龍が、その周囲にはたくさんの小さな魔物たちが横たわっている。しばらく眺めていたものの、どうやら動き出すような個体はいないようである。
こうして、魔物氾濫は完全に終わりを迎えたのである。
「わ、私たちが、本当に魔物氾濫を抑えてしまったのね」
「ええ、厄災の暗龍すらも倒して……、これで領地の平和は、守られましたわ……」
ロゼリアがぼそりとつぶやくと、ペシエラも疲れた状態であるものの、どうにか笑顔を浮かべている。
「えへへへ……、よかっ、たぁ……」
「チェリシア?!」
ペシエラに支えられるように上半身を起こしていたチェリシアだったが、どうやら限界がきてしまったらしく、障壁魔法が消え去ると同時に気を失ってその場に倒れてしまったのだった。




