第40話 厄災の暗龍
本来は隠しボスである厄災の暗龍が、チェリシアの張った結界の中に顕現してしまった。
厄災の暗龍の恐ろしさを知るチェリシアは、表情を青ざめさせて、その姿をじっと見つめている。
ところが、厄災の暗龍の姿をしっかりと確認してみると、妙な違和感があった。
(よく見ると……、なんだか体が崩れている?)
出現した厄災の暗龍の体のあちこちには、うろこがはがれているなどのなんとも不完全というべきような状態が見られたのだ。
それに加え、大きさもいまいち足りないように思われる。その姿は、チェリシアが展開した障壁魔法の中にすっぽり収まっている。
(もしかして、瘴気が足りなかったのかしら)
想像と違ったためか、チェリシアは少し混乱しているようだ。
「チェリシア、どうするの?」
ロゼリアは声をかけるものの、チェリシアは目の前の光景に意識を奪われており、声が届いていない。
「ペシエラ、前回はどうだったのかしら」
「そんなの、必死過ぎてまったく覚えていませんわよ。怖くて、とにかくみんなを守らなきゃとしか思っていませんでしたわよ」
質問の先をペシエラに変えても、まったく解決にならなかった。
「ギャアアアアアアッ!」
厄災の暗龍の咆哮が響き渡る。その雄たけびに、空気はおろか地面さえも震えている。
その周囲では、他の魔物たちが障壁を突破しようと試みている。だが、その挑戦はむなしく、障壁魔法によってあっけなく弾き返されていた。
そんな障壁魔法も、厄災の暗龍がしっぽを振り回して叩きつければ、わずかながらではあるものの、ひびが入っている。
厄災の暗龍の力を目の当たりにして、ロゼリアはぞっとしている。このままでは、厄災の暗龍による障壁突破は時間の問題だ。何か手を打たねばと、ロゼリアは必死に考えを巡らせる。
(ああもう! 厄災の暗龍の攻略法を思い出せ!)
チェリシアは、目の前の状況を見て、自分の頬を思い切り叩く。ロゼリアもペシエラも混乱している状況では、ゲームの中とはいえど戦った経験のある自分しか頼りにできないと考えたからだ。必死に厄災の暗龍の攻略法を思い出す。
「ロゼリア!」
「な、なによ、チェリシア」
何かを思い出したらしく、チェリシアはロゼリアに呼び掛ける。
「厄災の暗龍の足元を、泥に変えることはできるかしら」
「え? できるかどうかわからないけれど、やってみるわ」
チェリシアの突然の質問に、ロゼリアは戸惑いながらも答えている。土、水、風の三属性が扱えるので、おそらくはできるだろうと思われる。
「ペシエラ、私が展開した二重の障壁魔法の間に、光魔法を埋め尽くすことはできる?」
「七歳に無茶を振りますわね。ですけれど、そうはいっていられませんものね。やってやりますわよ」
無茶振りを食らったペシエラではあるが、背に腹は代えられない状況だ。チェリシアの要求に首を縦に振った。
すぐさま、二重の障壁魔法の中へと向けて、光属性の魔力をどんどんと送り込み始めている。
思い出した攻略法のうち、リアルでも、この面々だけでもどうにか再現できそうなものだけを実行に移すことにしたのだ。
実は、瘴気の塊である厄災の暗龍はアンデッドの扱いであり、光属性の攻撃が面白いほどによく通る。しかも、回復魔法でもダメージが与えられるときたものだ。
そして、運要素が絡むためか、行動阻害系の魔法もそれなりに通ってしまう。
高い頻度で放たれる高火力に圧倒されてしまう厄災の暗龍だが、高い防御力の裏にはそんな大きな穴が存在している。うまくそこを突いてやれば、逆にワンサイドゲームに持ち込めるというボスなのであった。
この攻略法が確立されるまで、ずいぶんと苦労させられた思い出がよみがえってきたチェリシアなのである。
チェリシアから指示を受けたロゼリアは、水と土の魔法を使って、厄災の暗龍の足元の土を泥へと変える。すると、厄災の暗龍は自分の重さで泥の中へと沈み込んでいく。尻尾も泥の中へと埋まり、しっぽによる障壁破壊をどうにか防ぐことができた。
泥へと沈み込んだ厄災の暗龍は腕を振り回してもがいているが、いかんせんそれほど腕は大きくなく、障壁魔法にまで届くことはなかった。
さて、どうにか厄災の暗龍の動きを封じることができた。これで障壁を破壊されるまでの時間は稼げるというものだ。
ここからどう動くべきか、チェリシアは次の行動を考えようとする。
ところが、こんな状況になりながらも、厄災の暗龍は必死に攻撃を繰り出そうとしている。
そう、厄災の暗龍の口の辺りに、とんでもない魔力が集まり始めたのだ。
(ブレスが来る!)
動きを封じたことでほっとしたのも束の間、厄災の暗龍のもう一つの攻撃を思い出して、チェリシアは思わず慌ててしまう。
さすがにこれを放たれるわけにはいかない。
エアリアルソーサーで空に浮きつつ、二重の障壁魔法を維持している。そんな無茶苦茶な状況の中、チェリシアは厄災の暗龍の最強最悪の攻撃を防ぐべく、さらに魔法を使おうと必死の形相を浮かべるのであった。




