第4話 決意
次の週末、ロゼリアはコーラル子爵邸を訪れていた。
もちろん、貴族として前触れは出しておいたので、子爵邸に到着した時にはきちんと出迎えを受けている。
「ロゼリア嬢、今回はわが家をご訪問下さり、まことにありがとうございます。チェリシアも同い年の友人ができたととても喜ぶでしょう」
ロゼリアは驚いていた。
それというのも、コーラル子爵が自らお出迎えをしているのだから。対するロゼリアは、自分の侍女であるシアンと護衛であるブラウオン・チャコールだけである。
子爵との間で挨拶を交わすロゼリアの後ろでは、ブラウオンはシアンに対して愚痴を叩いている。小声であるとはいえど、目の前でその態度はさすがに失礼であろう。一方的に愚痴を聞かされていたシアンはブラウオンをしっかりとたしなめていた。
「ブラウオン、お屋敷に滞在中、ロゼリアお嬢様はチェリシア様とお二人でお話をなされるそうです。私たちは部屋の外で待機ですので、くれぐれも失礼のないようにして下さい」
「……分かったよ」
最後にブラウオンにしっかりと言い聞かせるシアンだったが、あまりにも不機嫌そうな態度に不安を覚えるのだった。
屋敷の中へと入っていくと、部屋の中ではチェリシアが緊張した面持ちで待ち構えていた。
しっかりと挨拶を交わすと、ロゼリアとチェリシアの二人を残し、他の面々は全員部屋を出ていく。二人となったロゼリアとチェリシアは、しっかりと向かい合って座っている。
「さて、それでは先日お話になられていた、ゲームとやらについてお話を伺えるかしら」
「は、はい」
ロゼリアが話し掛けると、チェリシアは背筋をピンと伸ばして返事をしている。
一度、しっかりと気持ちを落ち着けたチェリシアは、ゲームについて話を始める。
「私が元いた世界では、このくらいの大きさの板で遊べる動いたりしゃべったりするものがありました。それを一般的にゲームと申します」
チェリシアは両手を使って大きさを示しながら、説明を続けていく。
かつてチェリシアとなる前の人物は、スマートフォンなるもので遊んでいた”乙女ゲーム”なるもので描かれていた世界と、現在いる世界が似ていると話している。
そこまでの説明を聞いたロゼリアは、一度あごに手を当てて少し考え込む仕草をする。
「それで、あなたがこの世界に転生した気が付いたのは、いつ頃のことなのかしら」
「はい。お茶会の一週間前、つまり、今から二週間前のことです」
「あら、それって……。私が今の時間へと戻ってきたと気が付いた日じゃないの」
ロゼリアはとても驚いている。自分が未来から死に戻ってきた日に、チェリシアは前世の記憶を取り戻したというのだから。
ロゼリアの出したお茶会の誘いを受けた時は、まだ前世の記憶を取り戻したばかりで混乱しており、名前をしっかりと把握できなかったとのことらしい。
改めてゲームについて聞くと、ゲームの中ではチェリシアがヒロインで、ロゼリアはそのチェリシアを邪魔して回る悪役だったのだという。だから、ロゼリアのことを”悪役令嬢”と呼んだというわけである。
「なるほどね……。それで、ゲームの中のチェリシアはどのような感じだったのかしら」
「えっとですね……」
ロゼリアの目の前にいるチェリシアは、覚えている限りのことをロゼリアに話した。その説明を聞いたロゼリアは、ちょっとばかり表情を歪ませている。
「変ですわね。私の知っているチェリシアは、作法もなっていないような田舎娘でしたわ。そのことが原因で、侯爵令嬢である私は、よくお小言を言いましたわね」
「そうなんですが……。そのチェリシアのことはよく分かりませんが、だとしたら、あまり恨むようなことではないとは思いますけれど……」
「実際にどう思ったのかは、そのチェリシアにしか分からないものよ。でも、結果として私は幼い自分へと死に戻ってきたわ。ということは、私が死んだということは、この世界にとって不都合だったということなのかしら」
「かも知れません。もしかしたら、ゲームの強制力かもしれません」
「どういうことかしら」
話を進める中で出てきたよく分からない単語に、ロゼリアは思わず反応してしまう。
チェリシアがいうには、ゲームのシナリオから外れようとすると、それを無理やり筋書き通りに戻そうとする力が働くことがあるのだそうだ。それが、強制力というわけである。
「なるほど、その強制力が働いて、私が死なないように幼い頃からやり直しをさせていると、そういうわけですか……」
ロゼリアは考え込んでいる。
かと思えば、唐突にテーブルを叩いて立ち上がる。
「決めましたわ。チェリシア、あなたの持つゲームの知識と、私が体験してきた未来を組み合わせて、誰も不幸にならない未来を目指しませんこと?」
チェリシアに向かって話しかけるロゼリアの目は、キラキラと輝いている。あまりの勢いに、チェリシアは「はい」と呟きながら首を縦に振るのが精一杯だった。
「では、チェリシア。私たち二人でいる時には、お互いに呼び捨てで参りましょう。同じ目的を目指す同志としましてね」
「はい、ロゼリア……」
顔の少し下で両手を合わせながら、チェリシアはとても恥ずかしそうに返事をしていた。その姿に、ロゼリアはずいぶんと満足そうである。
「学園に入るまで、あと五年の時間があります。その間に直接会ったり手紙を出し合ったり、必要な対策を講じていきましょう」
「はい、ロゼリア」
立ち上がった二人は、お互いの手をがっちりと握り合っている。
こうして、時を戻ってきた令嬢と、異世界から転生してきたヒロインによるまさかの共闘が行われることとなった。
時空を渡ってきた二人によって、物語の結末がどのようになるのか。それは誰にも分からないことだった。




