第3話 お茶会
ついにお茶会の日を迎える。
マゼンダ侯爵家と交流のある貴族の令嬢たちを招いており、ロゼリアは参加者たちの顔をじっと確認している。その中に、目的の人物を発見する。
(ちゃんと来たわね、チェリシア)
目立つピンク色の髪の毛のせいですぐに分かる。
今回のメインターゲットであるチェリシア・コーラル子爵令嬢だ。ロゼリアは侯爵家、チェリシアは子爵家なので、普通に考えれば断われないので、これは当然の結果だろう。
他の令嬢の相手をしながら、ロゼリアはチェリシアの姿を追う。
ところが、目の前では予想外のできごとばかり起きてしまう。チェリシアはまったく動かないし、挨拶をされることもなくぽつんと孤立してしまっていた。
(なんで、あの子はずっと一人なの?)
焦ったロゼリアは、令嬢たちとの挨拶を一段落させると、チェリシアのところへと歩み寄っていく。
「ひっ!」
ロゼリアが近付くと、チェリシアは怯えたような声を上げて縮こまってしまっている。さすがにこれは、お茶会の場においてマナーに反する行為だ。あまりにも予想外でロゼリアも対応に困ってしまっている。
(いくらなんでも怯え過ぎではないかしら)
不思議に思いながら、ロゼリアはチェリシアの顔を見つめている。
「あ、悪役令嬢……」
「ん?」
ぽつりとチェリシアの口からこぼれた言葉に、ロゼリアは眉をぴくりとさせる。
「ちょっと、先程の言葉はどういう意味かしら」
聞き捨てならないと感じたロゼリアは、声を荒げてチェリシアの方をつかんでしまう。あまりにも突然の行動にチェリシアはさらに怯えてしまい、周りの令嬢たちも何事かと騒いでしまう。
自分の取った行動の結果に驚きながらも、事態をどうにか収拾しようとするロゼリアは、チェリシアに顔を近付けて小声で話し掛ける。
「お茶会が終わりましたらお話がございます。先程のことで騒ぎになってしまいましたから、私の隣にいるだけで構いませんので、お茶会をお楽しみに下さいませ」
「は、はい……」
チェリシアは涙目になりながらも小さく頷いていた。
(なんて拍子抜けなのかしら。あんなに醜悪な顔をして私を罠に嵌めた令嬢だというのに、幼い頃はこれほどに憶病だったなんて。何があったら、あのようになるというのかしら……)
あまりにも予想外過ぎて、ロゼリアは心の中で大きなため息を吐く。
この後のロゼリアは、チェリシアを隣に侍らせたままお茶会の対応を行う。さすがにロゼリアの隣に座ったことで、チェリシアにも話題が振られてくる。その度に、怯えるチェリシアをかばいながら話題を捌いていっていた。
「ふぅ、疲れたわ……」
無事にお茶会が終わり、ロゼリアは自室に戻ってようやく重圧から解放されていた。
ただ、その場にはチェリシア・コーラル子爵令嬢を連れ込んでいる。
侍女であるシアンに飲み物と少しのお菓子を用意するように指示すると、ロゼリアは改めて、チェリシアと二人きりのお茶会を始める。
「それで、先程の”悪役令嬢”とはどういうことなのかしら」
威嚇にならないように気をつけながらも、ロゼリアは鋭く切り込んでいく。
「ごめんなさい。聞き間違いです、いじめないで」
完全にチェリシアは怯え切っており、肩ひじを張って下を向き、頭を左右に振っている。その様子に、ロゼリアは強い違和感を感じている。
「いじめないから、正直に話してもらえないかしら。もし、信じてもらえるかどうかを問題としているのなら、私だってそういう体験をしたから気にしないで」
ロゼリアがこのように話した瞬間、チェリシアの震えがぴたりとやんでいた。その様子を見たロゼリアは、もう一度優しく語りかける。
「だから、なぜ私を”悪役令嬢”といったのか話してちょうだい」
自分に向けて優しい笑顔を向けられたチェリシアは、心からそう言ってくれてると確信したのか、ようやく話す気になったようだ。
自分の胸の前で右手の拳をぎゅっと握ると、しっかりとロゼリアの顔を見つめている。
「……ロゼリア様がそこまで仰られるのでしたら、お話いたします。実は、私はこことは違う世界からやってきた人間なんです。いわゆる転生者なんです」
チェリシアの言葉を聞いて、ロゼリアは驚いていた。
別の世界なるものがあるとは思ってもみなかった。しかし、未来から舞い戻ってきた体験をしているために、それもあり得る話だなと思い、すぐに表情を元に戻していた。
「そう。私がおかしく感じたのはそのせいなのね。心配しないで、私も未来から死に戻ってきたという体験をしているから、おそらく似たようなものよ」
「えっ、未来? 死んだ? どういうことなのですか?!」
ロゼリアが話した内容を聞いて、チェリシアはまったく理解が追いつかずに頭を抱えている。
その様子を見たロゼリアは、一度チェリシアを落ち着けた後で、自分が体験してきた未来というものを話した。
「そ、そんな……。ロゼリアが処刑されるルートなんて、ゲームにはなかったわ。どんなに悪くても爵位はく奪の上で国外追放だったはずなのに……」
「そう……。そのゲームとやらの中では、私は死ぬことはないというのね?」
ロゼリアから優しい表情で諭すように話しかけられると、チェリシアは黙ったままこくりと頷いている。
チェリシアの口から出たゲームというものの内容に、ロゼリアは強く興味をひかれる。
ところが、その時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「ロゼリアお嬢様。そろそろチェリシア様を帰らせた方がよいのではないでしょうか」
同時に聞こえてきたのはシアンの声だった。その声を聞いたロゼリアが窓の外を見ると、夕暮れが近付いてきているようだった。
確かに、遅くなっては家族が心配するだろう。やむなくロゼリアはチェリシアを家に帰すことにする。
そして、また日を改めて話をすることを約束すると、護衛をつけて家まで送らせることにしたのだった。
「ロゼリアお嬢様、本当に八歳でございますか?」
チェリシアを見送りながら、シアンはロゼリアに尋ねてしまう。
「悪い夢にうなされて、ちょっとだけ大人になっただけよ」
「左様でございますか」
笑うようにして答えるロゼリアに対して、シアンは少し呆れてしまっているようだった。




