第36話 暴走したら止まらない
ペシエラが見守る中、近くを探索して見つけたコボルトを狩っていく。その様子にはさっきまで震えていたのが嘘のように容赦がなく、ペシエラはあまりの変わりように表情を引きつらせていた。七歳児にさせていい表情じゃない。
チェリシアがどんどんと楽しくなっていく様子を見たペシエラは、チェリシアを慌てて止めさせていた。
「お姉様、もういいですわよ」
「えっ、もう?」
ペシエラが必死に止めてくるものだから、チェリシアは物足りなさそうな表情をしている。
あまりにも残念そうな顔をする姉に対して、ペシエラは容赦なく説明を始める。
この未開の森には冒険者も時々やって来る。あまりに狩りすぎてしまうと、一時的に魔物がいなくなってしまって迷惑が掛かってしまうというのだ。
「あっ、やっぱりそうなのね」
「そうですわよ。瘴気がある限り魔物は発生しますけれど、なんにしてもやりすぎはよろしくおありませんわ」
「了解。時間湧き、ランダム湧きなのね。覚えておくわ」
「なんですの、その単語は」
ゲーム知識による意味不明な発言に、ペシエラは顔をしかめている。
「とりあえず、あとは食材用の魔物を狩りますわよ。ロゼリアも待ちわびているでしょうし、さっさと済ませましょう」
「はーい」
もう深く追及することを諦めたペシエラは、夕食用の食材を入手することだけを考えて、チェリシアとともに魔物をもう少しだけ狩るのだった。
その頃のロゼリアは、チェリシアが置いていった天幕などを張って、野宿の準備をしっかりと整えていた。こうなると、あとはチェリシアとペシエラの二人が戻ってくるのを待つばかりだった。
さすがにちょっと遅くなってきているので、ロゼリアはだいぶ心配そうである。
「ただいま。待たせちゃったわね、ロゼリア」
「ただいま戻りましたわ」
満面の笑みを浮かべるチェリシアに対して、ペシエラはどことなく疲れた表情浮かべている。
実に対照的な表情を浮かべる二人の姿を見つけて、ロゼリアはなんとなく事情を察したようである。
「その様子だと、魔物の討伐自体は問題なかったようね」
「ええ。最初こそちょっと及び腰でしたけれど、最後はそれは虫でも叩き潰すかのように楽しんでいましたわ」
「あははははっ」
ペシエラに全部をばらされてしまったチェリシアは、大笑いをすることでごまかしているようだった。
「まったく、吹っ切れた人間というのは恐ろしいものですわ」
チェリシアを見ながら、ペシエラは何かを思い出したかのように渋い顔をしていた。
その時のペシエラの様子が気になったものの、ロゼリアはあまり踏み込むべきではないと思い、すぐさま話題を切り替える。
「それで、狩りの成果はどうだったのかしら」
ロゼリアが問いかけると、チェリシアとペシエラは顔を見合わせている。こくりと頷くと、チェリシアの収納魔法から先程の討伐成果を引っ張り出している。
そこから出てきたものに対して、ロゼリアは思わず指を差して尋ねてしまう。
「この毛皮は?」
「コボルトの毛皮ですわよ。お姉様が何を思ったのか、確保しようと言い出しましたので、持って帰ってきましたの」
問いかければ、ペシエラがすぐに正直に答えていた。
なるほどと思うロゼリアだったが、正直何に使うのか見当がつかないようだった。
「コボルトの毛って、思ったよりも丈夫だったので、こういう使い方ができるのではないかと思ったの。見てもらえるかしら」
「え、ええ」
チェリシアは何を思ったのか、コボルトの毛皮を、毛を上にした状態で敷いている。
次の瞬間、チェリシアはコボルトの毛の上に立っていた。
「あら、意外と沈み込まないわね」
チェリシアの体重がどのくらいかは分からないものの、コボルトの毛に沈み込むことなく、毛皮の上にしっかりと立ち続けている。
そうかと思えば、次の瞬間にはチェリシアは毛皮の上で足を擦り始めた。
「何をしているのかしら」
「こうして、靴裏の泥を落としているんですよ、ほらっ」
チェリシアが毛皮からどくと、確かにそこには泥汚れがびっしりと残っていた。
「これなら玄関前に置いて、靴裏の泥を落とす玄関マットにできると思うのよね。これだけ丈夫でゴワゴワとした毛だもの、まだ他にも使い道がありそうだわ」
「ふむ……。まぁ、考えてみるわね」
これだけしっかりとした毛ならば、打撃などにも強そうな感じである。
これが異世界人の知識と発想かと、ロゼリアはチェリシアに対して視線を向けている。
そんなことを思っているロゼリアの目の前では、再びチェリシアが突飛な行動を取り始めた。
天幕のひとつを改造したかと思えば、なにやらごそごそと怪しい動きをしている。
「お姉様、何をしていますの?」
ペシエラが天幕の中を覗こうとしている。
「なにって、さすがにお風呂に何日も入らないのは耐えられないわ。簡易のシャワーを作ろうと思っているのよ」
さすがはお風呂大好きのチェリシアである。この数日間、お風呂に入れなかったところに魔物狩りで汚れたので、どうやら限界がきてしまったらしい。
きれいにしたいということで、天幕を改造して簡易シャワーにしてしまったようである。天井に取り付けた魔石に火と水の魔法を込めて、お湯ができるようにしたとのことらしい。
それだけでは飽き足らず、シャワーを浴びた後に脱いだドレスなどを水魔法と風魔法で洗濯までしてしまっている。この発想力と行動力には驚かされるばかりだった。
いろいろと疲れてしまったこともあって、この日の三人はいつも以上にぐっすり眠れてしまったようだった。




