第34話 未開の森へ
ひと晩休んだロゼリアたちは、チェリシアの体調を確認して、再びエアリアルソーサーでカイスを目指す。
出発してしばらく進むと、見たことのある街が見えてきた。
「あれは、シクラメアの街ですわね」
「そうね。あの街が見えたということは、コーラル子爵領まではもう少し。王都からは三日間は移動した場所なので、半分ちょっとという時間でここまで来たということになるわね」
ペシエラとロゼリアが話をしている。
チェリシアはエアリアルソーサーの操作に集中しているので、現在は話に加われていない。
「お姉様」
「なにかしら、ペシエラ」
唐突に声をかけてくるペシエラに、チェリシアは短く答える。
「これから左手に山と森が見えてきますわ。できれば、その森に沿って進んでいただけますかしら」
「了解」
チェリシアは短く答えて、周りを見回し始める。
ほどなくして、ペシエラが言ったとおりに山と森が見えてきた。
「あの森に沿えばいいのね」
「ええ、そうして下さいませ。目の前に見えるあの森は、未開の森と呼ばれる地域ですわ。魔物も多く住むといわれております場所になりますわよ」
「なるほど。商会で取り扱う魔石の多くは、この未開の森を産地としているのね」
「その通りですわよ」
ロゼリアが確認するように問えば、ペシエラはこくりと頷いている。
コーラル子爵領からも外れた場所ではあるものの、なぜペシエラがこうも知っているのだろうか。疑問に思うところだが、今は気にしている場合ではない。ロゼリアはそう思って聞こうとした言葉を飲み込んだ。
エアリアルソーサーで進んでいると、目の前になにやら鳥と思しき姿が見えてきた。魔物の生息する未開の森の近くを移動しているのだ。見かけても不思議ではない。
「あれは、フォレストバードのようですわね」
「フォレストバード?」
じっと目を細めて前を見るペシエラが、鳥の種類を特定したようだ。名前を聞いてもいまいちピンと来ないので、ロゼリアはペシエラに確認している。
「少し大型の魔物でして、見た目としては鷲のような姿をしておりますの。ですので、あれは間違いありませんわね」
説明を求めてくるので、ペシエラは見た目に関してしっかりと説明をしている。
しかし、このフォレストバード、進行方向で邪魔をするように飛んでいる。このままでは襲撃されかねない。そう感じられたので、ロゼリアはぐっと拳に力を入れる。
「風よ!」
前へと手を突き出して拳を開くと、ロゼリアは魔法を発動する。
風属性の攻撃魔法であるウィンドカッターである。
さすが、逆行前の時間軸で魔物との交戦経験があるだけのことはある。ロゼリアが放った風魔法は、目の前のフォレストバードをあっさりと真っ二つにしてしまった。
「うっ……」
ところが、その光景を見ていたチェリシアが、少しばかり気分を悪くしてしまったようである。
ロゼリアやペシエラとは違い、平和な世界で暮らしてきたのだ。いくら魔物とはいえども、生き物を殺すことに慣れていないために、このような反応をしてしまったようである。
「チェリシア、魔物との遭遇は倒すか倒されるかという厳しい世界です。それに、これから魔物氾濫というものに立ち向かうのですから、そんな甘い態度なんて取っていられないわよ」
気分が悪くなってしまったチェリシアを見て、ロゼリアは厳しく言い聞かせている。
「そ、そうね……。ゲームでも戦闘はあったんだもの。自分が戦わなきゃいけないとは分かっていたはず。でも……」
ロゼリアの言葉を聞いて、チェリシアは複雑な心境になっているようだ。
ただ、相当に顔を青ざめさせているようで、ロゼリアとペシエラはとても見ていられない状況になっていた。
「仕方ないわ。ここは一度休憩を入れることにしましょう。チェリシア、地上に降りて、今日のところはもう休むわよ」
「……ごめんなさい」
情けない姿を見せてしまったことを、チェリシアは反省して謝っている。
素直にロゼリアの提案に応じて、未開の森から少し離れた位置へと移動して、エアリアルソーサーをゆっくりと地上へ下ろしていく。
地上に降りると、ロゼリアたちはすぐにエアリアルソーサーから降りる。その瞬間、エアリアルソーサーはその形を保てなくなってしまっていたようで、あっという間に霧散してしまっていた。よっぽどチェリシアの精神が不安定になっていたようである。
事態は深刻と見たロゼリアとペシエラは、明日も一日ここに留まり、チェリシアに魔物討伐に慣れてもらうことを提案する。チェリシアもこのままではいけないと思い、二人の提案にすんなりと首を縦に振っていた。
これから向かうカイスで起きるであろう大規模な魔物氾濫。それを前にして発覚したチェリシアの弱点。
魔物氾濫を無事に乗り切るためにも、この問題を解決するべく、ロゼリアとペシエラはその心を鬼にすることに決めた。
その日はチェリシアの回復を待ち、体調を万全に整えることに集中するのであった。




