第31話 危険な未来
万年筆の件から半年が経った。
ロゼリアとチェリシアは十歳、ペシエラも七歳となった。ロゼリアの兄であるカーマイルは、無事に王都にある学園へと入学しており、時の流れは本当に早いものだと実感させられている。
無事に十歳となったチェリシアはいよいよ魔法が解禁となったのだが、秘密裏にロゼリアが指導していたこともあって、プラウスの前で披露した時に腰を抜かさせていた。さすがは乙女ゲームのヒロインである。
この魔法に関してはロゼリアも見せてもらっていたのだが、氷の塊を生み出して丸太の的をなぎ倒してしまっていた。
逆行前のチェリシアも相当な魔法を見せていたのだが、中身が別人になったとはいえ、その時よりもさらに強力な魔法となっていた。
その時のロゼリアの驚きに対して異世界転生の影響じゃないかとチェリシアは推測していたが、当然ながらロゼリアはもちろん、元チェリシアであるペシエラもまったくもって理解不能だった。
この時、チェリシアは地水火風光闇という六属性すべてへの適性を示していたので、これでペシエラも逆行前同様であったのなら、姉妹で全属性を使えるという化け物が誕生するということになる。ロゼリアは頭が痛くて仕方がなかった。
とはいえど、ロゼリア自身も地水風の三属性に関してはエキスパート級の腕前。だからこそ、チェリシアのぶん投げてくる無茶にも対応できていたのだろう。
十歳になった年の春先、ロゼリアたちは商会に集まって話をしている。
商会が売り出す次の商品を考えるためだった。
「やはり、魔石の使い道をもっと広げるべきだと思うのよね」
そう話すのはチェリシアだった。
「でも、お姉様。魔石をどのように使うといいますのよ。万年筆だけでもかなり画期的でしたし、今はそのせいで魔石が少し不足気味ですのよ?」
そこに待ったをかけるのはペシエラである。
実際、万年筆はかなり好評で、そのために魔石をかき集めている状態だ。
ところが、そんな状況だというのに、チェリシアはまだ何かを企んでいるようである。だからこそ、表情を歪めているようだ。
「そうよね……。魔石をかき集められるいい方法はないかしらね。それこそ、大量に魔物が発生するとか」
「そんな災害みたいなこと、軽々に口に出さないでくれないかしら」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
チェリシアが変なことをいうものだから、ロゼリアは思いっきり咎めている。
ところが、その言葉を聞いた瞬間、ペシエラが表情を暗くしている。
「どうしたの、ペシエラ」
ペシエラの異変に気が付いたチェリシアが、つい声をかけてしまう。
「お、思い出しましたわ。逆行前の十歳の時、コーラル子爵領を大規模な魔物氾濫が襲いましたのよ」
「えっ、ペシエラが十歳の時? だったら、三年……」
「何を仰りますの、お姉様。わたくしが十歳ということは、お姉様が十歳の時のことですわよ!」
ペシエラがつぶやいた言葉にチェリシアがとんちんかんな反応を示すものだから、ペシエラが血相を変えて怒鳴っている。
このただならぬ雰囲気に、ロゼリアも反応している。
「ペシエラ、それはいつの話かしら」
十歳の少女ながらに、眉間にしわを寄せている。そのくらい放ってはおけない話なのだ。
「わたくしがチェリシアだった頃の十歳の時、夏の一の月ですわよ」
「今が春の二の月だから、再来月ね。あんまり時間がないわね……」
ペシエラから出てきた時期を聞いて、ロゼリアは思わず爪をかんでしまう。
「思い出したわ。確かチェリシアから渡された乙女ゲームとかいうもののイベントの一つにあったわね。故郷で魔物氾濫が起きて、それがきっかけで魔法が使えるようになるとかいう……」
「そうですわよ。逆行前のわたくしは、その時に魔法の才能に目覚めましたのよ。あの時は必死だったのでよくは覚えておりませんけれど」
「あっ!」
子どもとは思えない表情を浮かべるロゼリアとペシエラの姿を見て、チェリシアもようやく思い出したようである。
自分が記憶から書き出した乙女ゲームの重要イベントだというのに、すっかり忘れているとはまったく困った転生ヒロインである。
ロゼリアとペシエラからジト目を向けられて、チェリシアはすっかり顔を赤くしてしまっていた。
「それで、場所は分かるかしら、ペシエラ」
困ったものだと呆れた表情を浮かべたのも束の間、ロゼリアはすぐに必要な情報をペシエラから聞き出す。
「カイスという、コーラル子爵領の内陸部にある、高外にポツンとある寂れた村ですわよ。シェリアからほぼ真北に向かったところにあるのですけれど、高台までの道が曲がりくねっていますから、馬車だとシェリアからさらに十日間ほどがかかりますわ」
話を聞くだけでかなり遠い場所だということがよく分かる。
都合よく馬車を出すことができたとしても、移動時間を考えると、本当に余裕がない状況だった。
「人を巻き込んで動くには、時間が惜しいわ。説得の時間ももったいないですから、私たちだけでどうにかしてしまいましょう」
「正気ですの?」
さすがにロゼリアが唐突に言い出した内容に、ペシエラは気は確かかと食ってかかっている。
だが、逆行前もゲームも、チェリシア一人で最終的に魔物氾濫を終息させている。ならば、自分たちだけで終わらせることは可能だと、ロゼリアはそう睨んでいるのだ。
これには「ピンチはチャンス!」とチェリシアもやる気になっている。
あまりにも二人が前向きなために、ペシエラは言っても聞かないと諦めたようだった。
話がまとまると、ロゼリアは唐突に立ち上がる。
「ハイビス、シアン!」
「お呼びでございますでしょうか、ロゼリアお嬢様」
ロゼリアは自分の家の使用人を呼び出すと、すぐさま駆けつけてきた。二人にマゼンダ商会のことを任せ、自分たちはマゼンダ侯爵家へと移動したのだった。




