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逆行令嬢と転生ヒロイン~緋色の令嬢  作者: 未羊
第二章 ロゼリアとチェリシア

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第29話 インク不要の魔法のペン

 チェリシアの考えを実現させるには、一か月以上の時間を費やしてしまった。

 それというのも、開発する商品の調整が思うように浮かなかったからだ。唐突に降ってわいたアイディアである魔石の活用、これが最大の難関だったのだ。

 だが、その試行錯誤の結果、無事に生産できる体制を築くことができた。まったく、執念というのは恐ろしいものである。


 この日は、その開発した新商品を持って、国王たちに献上する日である。

 なにせチェリシアがあれやこれやと面白いものを作り出すせいで、国王と女王からしっかりと目をつけられてしまっている。それゆえ、新しいものを作れば城へとお披露目にいかなければならないのだ。


「よく参ったな。またマゼンダ商会が面白いものを作ったとか、そのように聞き及んでおるぞ」


 謁見の前に姿を見せたロゼリアたちに対し、国王はかなり前のめりの反応を見せている。


「国王よ、そう急かすでないというものだ。見よ、子どもたちが怯えてしまっているではないか」


 あまりに急いている国王に対し、女王は実に落ち着いた反応を見せている。とはいえ、この女王も心の底では早く見てみたいと思っている。国王が隣ではしゃぐものだから、こうして冷静でいられるのである。

 ところが、女王が怯えていると指摘していたロゼリアたちだが、怯えているのはチェリシアだけで、ロゼリアとペシエラはむしろ冷静だった。国王の反応が大げさすぎて困っていただけである。


「こほん。いや、取り乱してしまったようだな」


 国王は咳払いをひとつして、なんとか落ち着きを取り戻す。

 そこで改めて、ロゼリアたちに問いかけている。今回持ってきた品は何かと。

 尋ねられたロゼリアは、持ってきた包みを取り出して、開封をしている。箱から出てきたのは、円筒状の物体。ただ、遠すぎて国王と女王からはよく見えない。なので、謁見の間に控える文官に手渡して、二人にじっくり見てもらう。


「ほう、ただの円筒の物体に見えるが、何かな」


 女王が改めて問い掛ける。


「この物体は、”万年筆”と名付けた筆記用具でございます」


「ほう、筆記用具とな?」


 冷静に答えるロゼリアの言葉に、女王がかなり興味を示している。

 この万年筆という物体、チェリシアの発案を元に、ロゼリアが一か月ほどをかけて生み出したものだ。本来ならば、インクとペンというふたつの品が必要なのだが、この万年筆はそれをひとつにまとめたものとなる。

 円筒状の片方は、羽ペンの先のようにとがった状態になっていて、反対側はキャップの取り外しができるようになっている。中には特殊な魔法を施した魔石が入れられていて、ペン先が何かに当たると魔石にかけられた魔法によって、魔力がインクへと変換され、ペン先から漏れ出して文字が書けるようになっている。

 この魔法がまた面倒なもので、水魔法を使えるロゼリアが悪戦苦闘した原因である。魔法のイメージを固めれば、他の魔法が使える人に頼むことができるのだが、いかんせんこの変換魔法が面倒すぎる。現在では、ロゼリアしか使えない希少な魔法となっている。

 とはいえ、苦労話は後回しだ。

 国王と女王の二人が疑念を抱いている今、とにかく実演をするしかない。同行した父親に頼んで、万年筆を実演することになる。

 取り出したのは、紙を置いた板である。ヴァミリオとプラウスは書く文言が思いつかなかったらしく、結局その実演もロゼリアが行うこととなった。

 仕方がないと、ロゼリアは考え込んで一文をさらさらと認める。


『インク不要の魔法のペン』


 ロゼリアが書き上げたのはこの文章だった。

 ところが、たったこれだけのことだが、周囲を驚かせるには十分だった。インクもなしにこの文章を書いてみせたのだから、当然の反応だろう。

 この反応を見たロゼリアとペシエラは、ちょっとした満足した表情を浮かべていた。


 万年筆に思い至った理由は、ペンとインクという筆記具の面倒くささに困っていたチェリシアの悩みに加えて、来年から学園に通うことになるカーマイルのための何かを作れないかと思ったことだ。

 前世ではマジックやボールペンといった筆記用具が当たり前だったチェリシアは、その学生というヒントからここにたどり着いた。

 最初こそ、筒の中にインクを入れてどうにかするという方法を取ろうとしたのだが、まったくもってうまくいくためしはなかった。

 そこで思いついたのが魔石を使う方法だった。

 なにぶんチェリシアには、他のラノベを読み込んできたという実績がある。だからこそ、魔石に込められた魔力の万能性にもすぐ気がつけたのだ。

 とはいえ、このインクの出る仕組みを完成させるまでには、とにかく時間を要した。

 この献上に際しても、父ヴァミリオと兄カーマイルにも実際に使ってもらい、書き心地を確認してもらった上でゴーサインを出している。

 そうして苦労してきた結果は、今こうやって目の見える形で実を結ぼうとしている。


「ペン先が何かに触れるとインクが出るようになっておりますので、使わない時は必ずふたをかぶせておいて下さい。お召し物が汚れてしまいますので」


「ふむ、そこは気をつけよう。では、ちょっと試させてもらうぞ」


 いよいよ国王たちに使ってもらうことになるわけだが、ロゼリアたちはその様子をかなり緊張した面持ちで眺めているのだった。

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