第19話 お城の庭園にて
四阿にはテーブルが二つ置かれている。小さい方にはロゼリアたちの母親たちが集められ、大きい方には女王とロゼリアたちが座る。
この時、座らされた場所が思わぬ位置だったため、ロゼリアは驚いていた。
テーブルはそれほど大きなものではないとはいえ、ロゼリアとチェリシア、それとペシエラの座らされた位置は、女王の正面だったのだ。仮にも王子の婚約者候補であるのなら、隣に座らせるところだろう。
実はこれには意図があり、女王は婚約者候補の二人を視界にずっと捉えておきたいというものだった。チェリシアは女王から遠くなってほっとしていたようだが、ロゼリアはその意図をしっかりと汲み取っていた。
(ああ、女王陛下から遠くなってよかった。しかも、目の前に攻略対象たちが勢ぞろい。女王陛下も美しい、眼福眼福……)
ほっとしたのも束の間、チェリシアは目の前に勢ぞろいした美男美女の群れに目をキラキラと輝かせていた。隣ではペシエラがドン引きしている。
しばらくすると、お茶会の準備が整い、しばらくはお菓子とお茶を楽しむことにする。
母親たちはそれなりに話が盛り上がっているようだが、子どもたちのは方は何を話していいのかまったく分からないようで、ただ黙々とお菓子を食べているだけだった。
様子を見かねたのか、女王が動きを見せる。
「ロゼリア・マゼンダ。ちょっとよいだろうか」
「は、はいっ!」
突然名前を呼ばれて、ロゼリアは背筋をピンと伸ばして大声で返事をしている。
「クリアテスから聞いたのだが、そなた、その年でもう魔法が使えるらしいな。無理をさせるのは好ましくないのは重々分かってはおるが、少し見せてもらってもよいだろうか」
とんでもない爆弾発言である。
使えるのは事実なのではあるが、正直なところ、ロゼリアは実演は避けたいと思っている。
いくら逆行によるアドバンテージがあるとはいえ、まだ八歳なのだ。どのような影響があるのか、まったくの未知数だからである。
ところがだ、女王からの頼みである上に、女王の隣に座るシルヴァノ、それとロゼリアの隣に座るチェリシアからはキラキラとした視線を向けられてしまっている。これは、見せないわけにはいかないという状況だった。
心の中で勘弁してほしいと思いつつも、やむなく実演をすることにした。
(私の属性適性は、水、風、土。この庭園で使うのなら……)
何を使うか考えたロゼリアは、この庭園に最もふさわしい魔法を使うことに決めた。
席を立って、全員から少し距離を取る。
(えいっ!)
両手を空に掲げて、ロゼリアは水魔法を発動する。
少し勢いよく飛び出した水の塊を、空中で破裂させて雨を降らせる。その水しぶきにキラキラと光が反射して、庭園に虹が出現していた。
思わず全員がその光景に声を漏らしてしまう。
全員の反応を見て、ロゼリアはうまくいったとほっとしたようだった。
「ふむ、大したものよな。意図的に空中で水を破裂させるのは、制御ができている証拠。まだ八歳だというのに実に素晴らしい。将来がとても楽しみであるな」
「お褒めいただき、ありがとう存じます」
女王に褒められたことで、ロゼリアは淑女の所作を取りながら、心の中でほっとしていた。
ロゼリアが席に着くと、女王の視線はチェリシアへと移動する。
「さて、チェリシア・コーラルよ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
油断をしていたらしく、チェリシアは返事をかんでいた。隣のペシエラは、何をやっているのよと顔を引きつらせていた。
ところが、女王はそのことをまったく咎めることなく話を続けている。
「コーラル子爵領でのことは聞いておる。いろいろそなたの発案でことが動いているようであるな」
「あ、えと、その……」
緊張しまくっているようで、チェリシアはまったく言葉がうまくつづれないようだ。
「これからもその斬新な発想を、国のために役立てておくれ」
「は、はい。も、もったいない……お言葉で、ございます」
女王から期待をかけられたチェリシアは、縮こまりながらぼそぼそと返事をしていた。体は完全に硬直してしまっている。
(チェリシアの反応を見る限り、転生前というのは間違いなく庶民ね。いくつまで生きていたかは知らないけれど、貴族ならこの反応はありえないわ)
おどおどとしているチェリシアを見つめながら、ロゼリアはこのように感じていた。
チェリシアに気を取られていたロゼリアだったが、不意に視線を感じ取る。
視線を感じた方向へと顔を向けたロゼリアは、そこにいた人物に思わずびくっとしてしまう。
そこにいたのは、シルヴァノだった。
シルヴァノは、ロゼリアが振り向いてきたことに驚いて、恥ずかしそうに下を向いてしまった。思わぬ反応に、ロゼリアは唖然としていた。
(あの殿下が、私に見られて、恥ずかしがっている……?)
この時のシルヴァノの反応が、完全に予想外だったからだ。
というのも、逆行前の最後のシルヴァノの姿が、ロゼリアの脳裏にはびっしりとこびりついている。そのこともあってか、自分がシルヴァノに好かれるようなことなどないと考えていたのだ。
(い、一体何が起こっているの?)
虹を見せたことで一瞬和らいだように思えたお茶会の雰囲気だったが、シルヴァノの思わぬ態度のせいで、ロゼリアは最後まで落ち着くことができなかったのだった。




