第18話 女王の威厳と花園
ロゼリアたちの目の前に現れたのは、ブランシェード・アイヴォリー女王陛下。現在のクリアテス・アイヴォリー国王陛下の妻であり、シルヴァノ・アイヴォリー王子の母親である。
凛としたそのたたずまいは、その場にいた者たちを魅了してやまない。
逆行前のロゼリアも、何度となく会ったことのある相手で、それはとても厳しい人だった。
ところが、この時部屋に入ってきたのは一人ではなかった。
その後ろから、クリアテスとシルヴァノも一緒に入ってきたのだ。シルヴァノは今回のお茶会の主役であるのでわかるのだが、まさか国王が同席するとは思ってもいなかった。ロゼリアは心の中で叫び声をあげていた。
なにせ逆行前のお茶会で出会ったのは、ブランシェードのみ。国王も王子もその時はいなかった。それもそうだ。その時のお茶会は、女性だけのものだったのだから。
ロゼリアは立ち上がって王族を迎え入れているが、その光景に体を震わせている。
ブランシェードたちはお茶会の席へと向けて歩き出す。その際に、ロゼリアとチェリシアに相次いで視線が向けられていた。ずっと注視していたロゼリアは気が付いたものの、浮かれていた状態から緊張状態に変わったチェリシアには気が付くような余裕などなかった。
そうした中、ブランシェードたちが席に着く。
「皆の者、改めて、本日集まってくれたことに感謝する」
女王が言葉を述べれば、参加者たちは一様に頭を下げている。
「さて、お茶会を始める前に、この場で一つ報告をさせてもらおう」
女王がこう言うと、ロゼリアの体が強張ってしまう。最悪の事態が予想されたからだ。だが、ロゼリアの願いむなしく、それは現実となってしまった。
「シルヴァノも八歳となったことで、婚約者候補の選定に入ることになったのだが、先日、候補が二人決定したことをこの場で通達させてもらおう」
ロゼリアの警戒した通りだった。
女王はシルヴァノを立たせると、会場へと視線を向ける。
「マゼンダ侯爵家ロゼリア」
「はい!」
女王に名前を呼ばれると、ロゼリアは反射的に大きな声で返事をしてしまう。
「コーラル子爵家チェリシア」
「ふぇっ、……はい!」
感情が複雑な状態になっていたチェリシアは、返事が一瞬遅れてしまっていた。
二人が無事に返事をしたことを確認すると、反応の良しあしを気にすることなく、女王は話を続ける。
「以上の二名を、現時点でのシルヴァノの婚約者候補とする。不服に思う者もおるだろうが、ならば妾はさらなる努力を期待したい。よからぬことは、考えぬようにな」
女王は笑みを浮かべて会場に視線を送る。
これは脅しだった。さすがに貴族たちはその意図を感じ取り、震え上がっていた。
「さて、クリアテスよ。妾は子どもたちとその母親に用がある。場所を変えるゆえに、貴族どもの相手は任せるとするぞ」
「分かった。こちらは任せてくれ」
国王の反応を聞いた女王は、シルヴァノを連れて席を立つ。
ロゼリアたち子どもと、その母親たちは、護衛を伴って部屋を移動する。
その移動の間、ロゼリアは二つの視線を感じ取っていた。一つは自分の兄のカーマイルのもの。もうひとつは、ペシエラの視線だった。
(お兄様とペシエラの視線が痛いわね。ああ、早く終わって帰れませんかしらね)
ロゼリアはキリキリと痛む胃の痛みに耐えながら、女王の後をついていく。
女王の案内で移動していった先は、お城にある中庭。目の前に広がった光景に、ロゼリアの不安な気持ちは吹き飛んでしまう。
一緒に移動してきたチェリシアもまた、ガチガチに固まっていた緊張が吹き飛んでしまう。
(この光景ゲームのスチルでも見たことある風景だわ。実物もきれい……)
前世で遊んでいたゲームの中で見たことのある風景。それが目の前に実際にあるとなれば、感動しないわけがないのである。
「ちょっと、お姉様ももロゼリア様何をぼーっとしていますの。女王陛下の御前ですわよ」
「はっ、そうだった」
ロゼリアとチェリシアの様子がおかしいと気が付いたペシエラが、イラッとした様子で声をかけている。
だが、そのおかげで、二人は我に返ることができた。あのままであれば女王相手に粗相をしていたことすらも考えられる。婚約者候補として発表された直後なのだ。そんなことをすれば家にも迷惑がかかるため、ロゼリアは助かったと安心したようだった。
冷静になったロゼリアは、改めてこの中庭にやってきた人物を確認する。
まずは女王ブランシェード・アイヴォリーとその息子であるシルヴァノ・アイヴォリー王太子。
宰相夫人であるマロンシア・マルーンとその息子であるチークウッド・マルーン公爵令息。
騎士団長副団長夫人であるシャドレア・ノワールと息子のオフライト・ノワール伯爵令息と娘のシェイディア・ノワール伯爵令嬢。
チェリシアとペシエラの姉妹と、その母親であるサルモア・コーラル子爵夫人。
そして、ロゼリアとその兄カーマイル、母親であるレドリス・マゼンダ侯爵夫人。
この中では、コーラル子爵家の三人がちょっと浮いている。なにせ、王家とはこれといったつながりのなかった家なのだから。
娘が突然、王子の婚約者となったのだから、サルモア子爵夫人の心境はおそらくいっぱいいっぱいといったところだろう。
庭園の中には四阿が設けられており、そこまで歩いていく中で、ロゼリアたちに向けられる視線があった。子どものいる両親はもちろんだが、どうこうしている護衛からもだ。おそらくはどのような人物か興味があるというところだろう。
だが、逆行を経験しているロゼリアはこのような視線には慣れていた。
とはいえ、四阿が近付くにつれて、ロゼリアには再び緊張が募っていく。
(落ち着け、落ち着け……)
胸に手を当てながら、ロゼリアは何度も呼吸を整えている。
そうしている間に、ロゼリアたちは庭園の中にある四阿へと到着したのだった。




