第16話 女王からの招待状
王都に戻ってきてから七日ほどが経過する。
シェリアでの塩づくりも順調なようで、もう間もなく王都にもその第一陣が届けられるようになるらしい。ロゼリアの耳には、お城で働く父ヴァミリオの口から伝えられた。
その一方で、ロゼリアはチェリシアとも交流を続けている。ただ、王都に戻ってきてからは、その妹であるペシエラとも顔を合わせるようになっていた。
ロゼリアもチェリシアも、二人で会うつもりでいたのだが、ペシエラがわがままを言ってどうしても首を突っ込んでくるので、やむなく三人で会っている。
(相変わらず、私に対して鋭い視線を向けてきますね……)
コーラル子爵邸に遊びに向かった時には、ロゼリアはペシエラからものすごい視線を浴びせられていた。チェリシアの隣に座って、じっとロゼリアのことを見つめてきているのだ。その視線はまるで睨みつけるようである。
ところが、自分たちよりも三つも年下ということもあり、ロゼリアは怖さよりも可愛らしさを感じているようだった。
三人の交流だが、マゼンダ侯爵邸で会う時はチェリシアとともに淑女教育が行われる。ペシエラはまだ五歳ということでやむなく見学という状況である。
ただ、この時もギンとした鋭い視線を向けてくる。とてもじゃないが五歳とは思えない視線である。それはまるでロゼリアとチェリシアを監視するかのような視線だった。
「なんだか、ものすごく見てきているわ」
「あの視線、まるで見定めるかのような視線ね」
ロゼリアとチェリシアは、こそこそと話をしている。
ところが、家庭教師のレッスン中の無駄口など見逃してもらえるわけもなく、二人揃って叱られてしまっていた。
(うーん、やっぱりあの視線、見覚えがあるのよねぇ……)
やむなくレッスンに集中するロゼリアだったが、終始ペシエラの視線のことが気になって仕方なかった。
家庭教師のレッスンが終わると、ロゼリアの部屋でくつろいでいる。
「はぁ、貴族のお勉強って大変だわぁ……」
毎回毎回厳しいレッスンが続いているとあって、チェリシアはずいぶんと参っているようである。
どうやら、チェリシアの前世ではこういう経験はあまりなかったということなのだろう。ロゼリアは態度を見る限りそのような印象を受けている。
「違うわよ、ロゼリア。私だってこういうレッスンなら経験はあるわ。ただ、貴族の作法とかに興味がないというかなんというか……」
「まぁ、お姉様ってばだらしないですわね。貴族というのは気品というものが問われますのよ。甘っちょろいことを言わないで下さいませんこと?」
「ペシエラ。その言い分だと、あなたはそういうことに詳しそうね。まだ五歳なのに、どこで習ってっていうの?」
「て、邸宅の書庫ですわ」
ペシエラはチェリシアに説教をしているようだが、思わぬ反撃を食らってしまう。そしたら、ちょっと目を逸らしながらごまかすように答えていた。
その様子をロゼリアも怪しみながら見ている。
「まぁ、そういうことにしておきましょうか。ずっと家の中にいたから暇だったでしょうからね」
ところが、チェリシアはとっとと話を終わらせてしまった。それゆえにペシエラはちょっとほっとしていたようだった。
「ロゼリア、酸っぱくなったワインのことは話をしてくれたかしら」
話題を変えたチェリシアは、酢のことが気になっていたようで、ロゼリアに確認を入れている。
シェリアへ出向いた時に塩を手に入れたことをきっかけに、チェリシアはやたらと調味料へと興味を示していたのだ。
ロゼリアの家であるマゼンダ侯爵家は果物の生産が盛んということで、王家に卸すワインなども生産している。その話を聞いたチェリシアは、酸っぱくなったワインがないかをロゼリアに確認した。
ところが、過去に発生した酸っぱいワインはすべて捨ててしまっていたということで、大変ショックを受けていたのは記憶に新しい。それでも諦めずに、直近に仕込んだワインにそのようなものがないかを改めてしつこく確認しているというわけである。
「お父様に話してあるわよ。領地に確認してもらえるようにお願いしてあるから、あれば捨てずに王都に運ぶように手配してもらえるはずよ」
「よっしゃ」
ロゼリアの話を聞いたチェリシアは、さっきまでのレッスンを台無しにするようなガッツポーズを決めていた。
「届いたら連絡が欲しいわ」
「ええ。そうさせてもらうわ」
酸っぱいワインが手に入ると聞いたチェリシアは、ペシエラを連れてコーラル子爵邸へと戻っていった。
まるで嵐のように去っていくチェリシアの姿に、ロゼリアはつい笑ってしまっていた。
ところが、それと入れ替わるようにして、侍女であるシアンが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「ロゼリアお嬢様、大変でございます」
「ど、どうしたのよ、シアン」
普段はとても落ち着いて行動しているシアンが、ものすごく慌てふためいている。逆行前も含めて見たこともない姿に、ロゼリアは慌ててしまっている。
「お嬢様宛に、王太子殿下を交えて行われるお茶会のお誘いが、女王陛下の名で届いております」
「な、なんですって?!」
シアンから伝えられた内容に、ロゼリアは表情を引きつらせながらものすごく驚いたのだった。
このアイヴォリー王国のもう一人の王、女王陛下からのお茶会の誘いだった。




