第126話 その頃のシルヴァノ
シルヴァノは、妙な違和感を覚えていた。
それというのも、つい先日から、城の中がやけに慌ただしくなっているのだ。
騒がしいというならば、たまにあることなので気にはしない。ところが、兵士から女官、使用人と至るまでかなり多くの人員が所狭しと駆け回っている。さすがにこの状況を目の当たりにすれば、シルヴァノも妙だと感じてしまう。
学園から帰ってきたシルヴァノは、ペイルと別れる前につい声をかけてしまう。
「なあ、ペイル。これってどういうことだと思う?」
「俺に聞かれても困るぞ。俺は留学生とはいっても他国の人間だ。この国のことに介入できるわけがないだろうが」
だが、ペイルが事情を知るわけもなく、求める答えを得ることはできなかった。
とはいえ、ペイルも気にはしているらしい。
「それに、これだけの騒ぎだ。王族にとって重要なことじゃないのか?」
「ペイルもそう思うんだな。だけど、兵士はおろか、使用人に聞いてみてもはぐらかされるばかりなんでね。私にまで秘密にするなんて、一体どういうことなのだろうか」
「それじゃますます俺には分からん。話をしてもらえるまで待つしかあるまい」
ペイルとの話を終えると、シルヴァノは一応相談に乗ってもらってお礼を言って自室へと戻っていった。
ペイルもペイルで、やれやれといった顔をして客間へと向かっていった。
気になるシルヴァノは、その後の夕食の席で両親に聞いてみることにした。
「父上、母上。ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだ、シルヴァノ」
シルヴァノが声をかけた瞬間の国王と王妃の反応に、シルヴァノは思わず固まりかける。いつもなら柔らかい感じで返してくるのに、この日はなんとも冷たさを感じたのだ。
だが、シルヴァノはこの程度で退くまいと、ぎっと拳に力を込めている。
「最近、城の中が慌ただしいようですが、一体何があったのでしょうか。気になって仕方がないのですが」
このようにシルヴァノが聞いた瞬間、クリアテスの視線が険しくなる。どうやら、この質問を予測していたかのような反応だった。
「食事くらい静かに取れ。そのことについてはお前の気にするところではない。いずれ分かることだからな」
「し、しかし!」
「黙りなさい、シルヴァノ。クリアテスの申す通り、今は気にすることではない」
答えに納得のいかないシルヴァノであったが、両親から厳しい回答をぶつけられてしまっては黙り込むしかなかった。
「わ、分かりました」
いつになく厳しい両親に、シルヴァノはおとなしく引き下がったのである。
食事の席に同席していたペイルは、おとなしくその状況を見守っていた。
その後のシルヴァノは、城の様子が気になるものの、気にしないようにして過ごすことにした。
翌日は王国騎士たちの訓練に参加して、剣の稽古に一生懸命に打ち込んでいる。あまりにも城の中のことが気になるために、その雑念を振り払うかのように熱心に取り組んだ。
「シルヴァノ、お前がいら立つのも分かる。だが、昨日の口ぶりからすると、お前の耳には相当に入れたくないっぽいようだな」
「君もそう思うかい、ペイル」
「ああ、ひしひしと感じるよ。あれだな、サプライズを仕掛けるつもりなんだろう。もしそうなら、お前はその策に乗っかってやるのがいいと思うぞ」
「うーん、そうなんだろうかな。だとしても、私を見ては驚いて逃げていくような動作はどうかと思うんだけどね」
「使用人たちはお前の言うことには従わないといけないから、声をかけられる前にその場を離れてるんだろうよ。しばらくの我慢だ。俺の見立てならひと月も経たないうちに、理由が分かると思うよ」
シルヴァノに対してそのように結論を話すと、ペイルは模擬剣をシルヴァノに突きつけている。
「というわけだ。俺と一戦交えようじゃないか。いつまでもうじうじした、情けない姿なんて見てられないからな」
「望むところだな。君には負けたくないと思っているからね」
ペイルからの誘いに乗っかるシルヴァノである。
それから行われたペイルとシルヴァノの戦いは、とても学園の二年次に上がったばかりとは思えないとても激しいものだった。周囲で訓練をする騎士たちも、思わず注目してしまうくらいである。
その日の二人は、疲れ果てて倒れるまで、とにかく剣を振るい続けた。
シルヴァノもペイルも、ロゼリアたちの知る逆行前の状況とはかなり違っている。
シルヴァノはどちらかといえばわがまま王子、ペイルは乱暴王子といった感じだったのだが、今回の二人は性格こそ違うが、とてもまじめに努力を重ねる、誰もが一目置く存在となっている。
剣や魔法の訓練はもちろん、座学にもかなり真剣に取り組んでいるために、今の段階でも王位を継ぐにふさわしい人物となっている。
この二人の努力の影には、一人の令嬢がいるわけだが、それは周知の秘密となっている。
二人の王子をここまで変えたその令嬢もまた、逆行前とは大きく異なった存在である。
その日から約二週間後、シルヴァノとペイルは、城の慌ただしさの理由を知ることになるのであった。




