第124話 オーロ・ドール商会長
ロゼリアはシアンとともにドール商会へとやってきた。
先触れを出していたこともあって、商会にやってきた二人はすぐさま応接室へと通してもらえた。
しばらく待っていた二人の前に、なんとも意外な人物が現れる。
「これはこれは、ロゼリア・マゼンダ侯爵令嬢ではございませんか。本日はどのような用件でいらしたのでしょうか」
ドール商会の商会長であるオーロ・ドールその人だった。
成金にありがちな体型ではなく、すらっとした細身の体をしており、意外と筋肉がある。髪は短めの金髪で、口ひげを生やしている。
この人物こそが、ブラッサとロイエールの父親である。
「お久しぶりでございます、オーロ商会長」
ロゼリアは淑女然とした態度で挨拶をしている。
「まあまあ、おかけになって下さい。お話を伺いますよ」
オーロの言葉に従い、ロゼリアはソファーに腰を掛ける。シアンは立ったままだ。
「今回のご訪問をした理由ではございますけれど、オーロ商会長にご確認を行いたいことがございましてね。もちろん、それ以外にも商談はございますけれど」
「ほう、確認したいことですか」
「はい。オーロ商会長は、豆というものはご存じでございますでしょうか」
「豆、でございますか」
豆の単語が出た途端、オーロの眉がぴくりと動いている。ロゼリアはそれを見逃さない。
「豆をご存じなのですね?」
「何のことでしょうかね」
ロゼリアが確認をすると、オーロははぐらかしにかかっている。
だが、逆行前に十九年、逆行してきてから六年、合わせて二十五年も生きているロゼリアがその態度を怪しがらないわけがない。オーロに対してジト目を向けている。
さらに質問を続けようとした瞬間だった。
「ちょっと待ったぁっ!」
「えっ、チェリシア?!」
どこからともなくチェリシアの声が響き渡る。
次の瞬間、何もない空間からチェリシアが降ってわいた。華麗に着地を決め、腰に手を当てながらロゼリアをじっと見ている。
「ちょっと、テレポート?! どうしてここに!」
「ペシエラと別れてマゼンダ商会に寄ったのよ。それで、リモスさんに聞いて飛んできたってわけよ」
「飛んでって、あなたね……」
あまりにもぶつぶつとうるさかったチェリシアをペシエラに押し付けてきたのだが、どうやらロゼリアが出た後にマゼンダ商会に顔を出したらしい。
ドール商会に向かったと聞いたチェリシアは、文字通り飛んできたのである。
「突然のご訪問を失礼致します、オーロ・ドール商会長」
ロゼリアの正面にいたオーロの姿に気が付き、チェリシアはちゃんと挨拶をしている。なんだかんだでこの世界の礼儀作法は身につけているのだ。
「い、いや。とんでもない魔法を見せてくれたので、そのくらいは気にしませんよ。それにしても、チェリシア嬢は何用でごちらへ?」
「それは、新しい味覚のために、豆を求めているからです!」
オーロの質問にドヤ顔を決めながらはっきりと答えるチェリシアである。
ライバル商会の令嬢が二人揃って同じものを求めている。この状況にオーロはさらに口をつぐむ。その様子を見て、ロゼリアはやむなくあるものを取り出した。
「オーロ商会長。情報料代わりといってはなんですが、こちらをお試し願えませんかね」
「これは?」
「我が家マゼンダ領の果物を使った、ドライフルーツというものです。どうぞお試しください」
お茶うけにと持ってきていたドライフルーツを、ここぞとばかりに差し出すロゼリアである。
オーロは驚いた顔をしつつも、すぐに冷静な態度を取っている。
「ほう、これは果物を乾燥させたものですか。食べやすいように薄切りにされていますね」
「食べやすいようにというのもありますが、この形状の方が乾燥をさせやすいですからね。私の持つ水魔法と風魔法で作り上げたものでございます」
「ほう、魔法にはこのような使い方があるのですか。では、ちょっといただいてみましょうか」
説明を聞いたオーロは、ドライフルーツをひとつつかんで口へと運ぶ。
口に入れた瞬間、オーロの目がカッと見開いている。
「ほう、これはまた生とは違った味わいですな。本来の果物と比べても甘みが増しているといいますか」
オーロはひと口食べてあれこれと感想を漏らしている。どうやら、ロゼリアの作ったドライフルーツを、オーロはお気に召したようである。
「これだけのものを提供されては、私としても情報を出さないわけにはまいりませんね。商人というのは信用第一ですからね」
ドライフルーツを味わったことで、オーロの態度はすっかり軟化したようである。
この状況ならば、ロゼリアたちの目的は達することができるだろうと思われる。
「分かりました。ご質問いただいた”豆”についてお話をいたしましょう」
この言葉が出てきた時には、チェリシアは心の中でガッツポーズをしていた。
「豆はモスグリネ王国にございます」
オーロの口から、チェリシアたちが期待していた通りの言葉が飛び出てきた。
そう、睨んだ通り、豆は隣国モスグリネ王国に存在していたのである。




