第122話 チェリシアの次なる野望
二年次が始まったロゼリアたちは、この一年のイベントをチェックする。確認してみた結果、二年次のイベントあんまり一年次と変化はない。
大きなイベントは夏の合宿と秋の学園祭のふたつ。それ以外には、攻略対象ごとの細かいイベントがあるくらいだ。
本格的な個別イベントが発生するのは三年次になってから。そして、三年次を終えてからそれぞれの個別ルートに入るというのが、この乙女ゲームの流れである。ちなみに、個別ルートのエンディングは複数ある。多いキャラでは六個ほどに分岐する。
中でも特殊なのは、モスグリネ王国の王子であるペイルのルート。これだけは二人で直接会うというイベントがほとんど存在していない。舞台がアイヴォリー王国メインなので、これはしょうがない話である。
だが、どのルートへと進んでもチェリシアがヒロインで、ロゼリアが悪役という立ち位置は変わらない。乙女ゲームというのはそういうものである。
その一方で、現実の方はそうはいかない状況にあった。それは、パープリア男爵の存在だ。
なんと、国家転覆を狙う悪い連中が発見されたのだ。そのせいで、ゲームとはまったく違う展開を見せている。発覚したのは夏の合宿。アイリスを助けたことで、あの魔物氾濫が人為的なものであることが分かったのだ。明らかにこの世界はゲーム世界とは違う何かがあるというわけだ。
現実問題、チェリシアには存在しない妹がいるし、ヒロインと悪役令嬢は敵対していない。もはや、ゲームの知識など役に立たなくなっていたのだ。
そんなわけで、チェリシアは自分の趣味に走り始めていた。
ペシエラが頑張って作り上げたカメラをベースにして、あっという間にビデオカメラを完成させたチェリシアは、次の興味を食へとぶつけていた。
その発端が、去年の夏に訪れたカイスである。なんとそこで、米を発見したのだ。コーラル伯爵領のお荷物だったはずのカイスでのまさかの発見である。シェリア東のオリーブに続いて、コーラル領にはお宝が眠っていた。
マゼンダ侯爵領から戻った後のチェリシアは、テレポートを駆使してカイスまで向かい、わざわざお米を手に入れて戻ってきた。
それを前世の記憶を頼りにして、精米した挙句、お米を焚き上げることに成功していた。
これに気をよくしたのか、チェリシアは稲作の仕方をさっくりと挿絵付きの本にまとめると、すぐさまテレポートでカイスまで出向いて村人に渡していた。もちろん、米を使った料理を持ち込んでである。
チェリシアがまとめた本によれば、田植えは春の三の月、収穫は秋の二の月になる。秋の二の月は学園祭の時期とかぶっているものの、どうやら今年は間に合う可能性は低いと見られる。
だが、米の可能性を考えると、チェリシアはすっかり妄想が止まらなくなっていた。
「チェリシア、気持ち悪いわよ」
「えっ?」
学園でロゼリアにストレートに物言いをされるチェリシアである。
聞けば、顔がずっとにやけていて、周りが引くくらいになっていたらしい。どうやら妄想のし過ぎのようである。
「それにしても、どうしてそこまでにやけているのかしらね」
隣に座ったロゼリアに、理由を尋ねられている。
「うん、カイスで見つけたお米のことでね、あれこれ考えていたのよ。私の前世は、お米を主食とした国に住んでいたからね」
「なるほどね。懐かしいものを見つけて興奮しているってわけね」
チェリシアの語った理由を聞いて、ロゼリアはものすごく納得がいっているようだ。付き合いが長いせいで、分からないところはまだ多いけれど、理解も深まっているというわけなのだ。
「カイスの栽培環境は安定しているから、栽培に成功すれば今年からかなりの量が見込めるわね。小麦の代わりにもなるし、料理のレパートリーも多いわ」
チェリシアが説明を始めた瞬間、ロゼリアは何かを警戒している。
「そ、そう。とりあえず用事があるのでこれで……」
立ち上がろうとするロゼリアだったが、がっちりと裾をチェリシアにつかまれてしまっていた。どうやら逃げられないようである。
顔を引きつらせるロゼリアだったが、チェリシアの米に関する弾丸トークから逃れられなかった。さすがは農家を目指したチェリシアである。話がまったく止まらなかった。
「……というくらいに、お米ってすごいのよ」
「そ、そうなのね。アレルギーとか分からなかったけど、まあ使い道の多い作物ということは分かったわ」
「でしょ? あっ、でも、日本人としたら、味噌と醤油が欲しいのよねぇ。でも、アイヴォリー王国をこれだけ見て回っても、大豆はもちろん小豆も見ない。豆ってないのかしらね」
語って満足したチェリシアだったが、見つかっていないものを思い出して机にふさぎ込んでしまっている。
「それなら隣国のペイル殿下にお伺いしてはどうかしらね。あと、ドール商会が食料に関しては詳しいから、ブラッサ様やロイエール様に聞いてみるのもいいと思うわよ」
「あっ、そうだね。水着に使った生地も、モスグリネ産のものを使って言うし、知らないものがあるかもしれないものね」
ロゼリアから可能性を指摘されると、チェリシアは顔を上げて笑顔になっている。
まったく単純というかなんというか、ロゼリアはチェリシアのことが心配になってくる。
「ほら、チェリシア。次の講義が始まるわよ」
「うん、まずは勉強よね」
切り替えるようなことを言っているチェリシアだが、さっきのこともあってかロゼリアは心配である。
暴走して大変なことにならないだろうか。不安しかないというものだった。




