第120話 正式決定
二年次の初日にちょっと怪しい動きはあったものの、それからというものは平和なものだった。
魔法科に進んだロゼリアたちは、一週間ほど経った日のこと、アイリスをはじめとした複数人の学生の魔法の面倒を見ることになった。
どうやら今回頼ってきた学生たちは、授業だけではどうにも理解できないところがあるらしい。その学生たちの悩みを、ロゼリアたちは快く聞き入れることにした。
魔法に慣れ親しんでいない学生たちは、まだまだ魔法が苦手な人が多く、魔法を使いこなしているロゼリアたちには憧れのようなものを持っていた。そのため熱意がすごく、断るに断れない状況となっていた。
なお、このロゼリアたちの魔法の講習には、プラティナも参加しており、かなりわいわいとした集まりだったという。
それからさらに二週間ほどが経つ。
学園がお休みの日、ロゼリアたちはお城へとやって来ていた。
女王からのお茶会の誘いとあっては、断れるものではない。お城へとやってきたロゼリアたちは、王族だけが入れる庭園へとやって来る。
ロゼリアたちの目の前には、女王のほかに、プラティナ・スノーフィールドとシェイディア・ノワールの二人がいる。侍女を連れてきたロゼリアたちとは対照的に、女王たちには侍女の姿がなかった。
そこで、シアンやアイリスを下がらせようかとするロゼリアたちだったが、女王はそのままでいいといって、二人の滞在を許可していた。
「よく来たな。立っているのもつらかろう。侍女も含めて座るとよいぞ」
女王がこのように声をかけてくるので、ロゼリアたちは全員席に着く。
ただし、全員の表情はかなり緊張した様子だ。さすがに女王から誘われたお茶会なのだから、当然といえるだろう。特に元が男爵令嬢であるアイリスはガッチガチである。
一体どんな話をされるのだろうか。ロゼリアたちの間にはずっと警戒からくる緊張感が漂っている。
そんな中、女王がようやく口を開く。
「皆のもの、本日はよく妾の呼び掛けに集まってくれた。今回呼び立てたのは他でもない。我が息子シルヴァノの婚約者の件である」
女王の口から出た言葉に、ペシエラが一番驚いていた。
確かに今年はシルヴァノも十四歳となる年だ。正式な婚約者を決めていてもおかしくない年ではある。
とはいえ、二年次の春の一の月の真っ最中に出てくるとは、思ってもいなかったようだ。せめて、年末だろうと見ていたようだった。
そんな中、女王の視線がちらりとペシエラに向けられる。その時、ペシエラは思わず体を強張らせてしまう。
再び女王の視線が全体に向くと、女王はおもむろに話を始める。
「実はな、去年までのシルヴァノの行動を見ていて思ったのだ。どうやら、我が息子は一人の淑女にご執心のようだとな」
その瞬間、視線が一斉にペシエラに集中する。
女王が視線を向けたのは当然だが、それ以外の全員の視線も同じように集まるものだから、さすがのペシエラも驚きを隠せない。
「み、みなさま。どうしてわたくしをご覧になられているのでしょうか」
「どうやら、周知の事実のようであるな」
珍しくあたふたするペシエラだが、女王の言葉は実に淡々としたものだった。もう皆が分かっているのであるならば、隠す必要もあるまい。そういわんばかりに、女王はペシエラに対して笑みを向ける。
「我が息子シルヴァノの婚約者は、ペシエラ・コーラルに正式決定する。後日、大々的に公表することになるので、光栄に思うとよいぞ」
お茶会の少人数の令嬢が集まった場で、女王ははっきりと口に出していた。
ちなみにだが、ここに集まっている面々は、過去には婚約者として名の挙がった者ばかりである。そういった経緯から、女王は今回、この場にその婚約者候補を集めたというわけなのだ。
この場で事前に発表したのは、あとで揉め事を起こさないためであるが、思いの外ペシエラたちは仲が良いようで、懸念したようなことは起きなかったようだ。
ペシエラとしてみれば、シルヴァノの婚約者に収まったのは望みどおりではあるものの、まだ自分が十一歳という年齢のために、少々戸惑い気味のようである。
だが、ロゼリアたちはもちろん、プラティナとシェイディアにも祝福されてしまえば、悪い気はしないというもの。少し考えたものの、ペシエラは受け入れることに決めた。
「みなさまにこうも祝われてしまえば、わたくしも後には引けません」
そう話したかと思うと、ペシエラは席から立ち上がり、女王に対してしっかりと頭を下げている。
「女王陛下。ペシエラ・コーラル、シルヴァノ殿下の婚約者の件、しかとお受けいたします」
淑女というよりは、まるで騎士のような返答を行うペシエラである。だが、きっちりとした態度を示したことに、女王は満足そうだ。
シルヴァノの婚約者の件が片付いたことで、女王も少し安心したような表情を浮かべると、今度はアイリスへと視線を向ける。
パープリア男爵の調査の続報である。あれからというもの、王家の方でしっかりと調査を行っているのだが、どうにもこうにもしっぽがつかめないらしい。
「すまぬな、おぬしが安心して過ごせるのはまだまだ叶いそうにない。その代わりといってはなんだが、おぬしの兄がちょうど騎士団の訓練に参加しておる。シルヴァノも参加予定ゆえに、あとで一緒に見に行かぬか?」
「はい、会いとうございます」
女王の問い掛けに、アイリスは即答していた。
去年の合宿のことで心配をかけたこともあってか、今では兄妹の間にまったくのわだかまりはなくなっている。そのためか、アイリスの返事は無表情ではあるものの、声はとても嬉しそうなものだった。
そんなこともあってか、シルヴァノの婚約者の正式決定という重大な話があったというのに、お茶会は比較的和やかな雰囲気で終わることができたのだった。




