第119話 魔法を剣に
シルヴァノもペイルも、将来的には国を背負って立つ立場の者だ。いざという時には自衛手段として魔法と剣術を組み合わせた覚えておいても損はない。
そこでペシエラは、魔法と剣術を組み合わせた戦い方のひとつを見せることにする。
「ロゼリア、わたくしに向かって適当に魔法を撃って下さいませんかしら」
「ちょっと、いきなりなんてことを言うのよ」
唐突な注文に、ロゼリアは驚いている。
だが、ペシエラはもう一度強くロゼリアに魔法を放つように言ってくる。
その表情をどう見てみても、断れる雰囲気には見えなかったので、ロゼリアは仕方なくその要求をのむことにした。
「あんまり傷つけたくないから、弱くてもいいかしら」
「強さはどうでもいいですわ。わたくしに向けて魔法を放つことが重要ですのよ」
ペシエラの覚悟が決まっていたので、ロゼリアは仕方なく魔法を放つ。
ロゼリアの使える属性は土、水、風の三属性。中でも一番わかりやすい、水の魔法を放つことにした。
「見ていて下さいませ、シルヴァノ殿下、ペイル殿下」
ちらりと二人の王子へと視線を向けたペシエラは、しっかりと剣を構える。
次の瞬間、ロゼリアからペシエラに向けて水魔法が放たれる。水球を勢いよくぶつける魔法だった。
「はああっ!」
次の瞬間、ペシエラは持っていた剣に魔力をまとわせて、素早く水球をぶった斬っていた。縦方向に斬られた水球は、ペシエラを避けるように通り過ぎ、その後方で着弾して弾けている。
「ま、魔法を斬った?!」
「しかも飛んでくる魔法をだ。なんて集中力なんだ」
二人揃って驚いている。
だが、ペシエラはちょっと不満があるようだ。剣をぺちぺちと叩きながら、眉間にしわを寄せている。
ペシエラがこのような技術を編み出したのは、逆行前のモスグリネとの戦争の中でだった。その時は自分たちを狙って、モスグリネの兵士たちが次々と襲い掛かってきた。もちろんペイル自身からも狙われた。
屈強な兵士たちの攻撃や、雨あられのように飛んでくる魔法に対処すべく編み出したのが、身体強化とは別のこの魔法剣と呼ばれるものだった。自分の剣に魔力をまとわせることによって、剣の強度と鋭さを強めたのである。
あの時は本当に生き延びるのに必死で、少しの油断もできない状況にあった中で編み出した技。それを久しぶりに使ってみたために、どうも納得しないというわけである。
「見ろよ、ペシエラのやつ、なんだか険しい顔をしているぞ」
「本当ですね。何がそこまで不満なのでしょうかね」
二人の王子には、ペシエラの様子が理解できないようだった。
「さっすが私の妹! 天才、天賦、最強!」
チェリシアは気持ち悪い動きを見せながら、ペシエラを手放しで褒めたたえている。
その隣では、アイリスが改めて自分が生きている奇跡をかみしめている。
「ペシエラ嬢、今のを説明してもらえますかね」
シルヴァノは今のペシエラがやってみせた技のことを詳しく聞こうとしている。
「いいですわよ。今のは魔法剣といいまして、自分の魔力を剣にまとわせて剣自体を強化する方法ですの。身体強化と合わせれば、相当に戦力強化を望めますわ。ただ、魔法の一種ですので使い続けるといずれ魔力が枯渇しますわ。そこだけご注意くださいませ」
「分かりました」
ペシエラからの説明を聞いて、素直にシルヴァノはこくりと頷いている。
「あ、あの。私も教えていただいてよろしいでしょうか」
目の前での話を聞いていたアイリスも興味を覚えたようで、ペシエラにアピールをしている。アイリスの武器は短剣で、握って振るう上に、暗器として投擲することもある。そう考えると、ペシエラの語った魔法剣というものは、自分とも相性が良いと直感したのだ。
やる気を見せているアイリスに対して、ペシエラはにこりと微笑みを見せている。
これだけ興味を示してくれたのであるのならば、教えがいがあるというもの。
「ロゼリア、お姉様、先に戻っていて下さいませんかしら。わたくし、お三方に魔法剣を教えますので、長引くことになると思いますの」
「分かったわよ。ほどほどにしておきなさいよ、ペシエラ」
長くなると思ったので、ロゼリアとチェリシアを先に帰らせるペシエラである。
こうなると止めるのは不可能だし、自分たちにだってやることがあるのでロゼリアとチェリシアは、ペシエラに言われた通り先に帰ることにした。
ロゼリアとチェリシアが帰った後、訓練場の中ではペシエラによる特訓が行われた。
だが、剣に魔力を付与するとはいってもかなり難しく、何本か模擬剣をへし折る結果となってしまった。
「意外と、加減が難しいな……」
「弱すぎるとそもそも魔力が剣に残りませんし、強すぎると剣が壊れてしまいます。なんて繊細な魔法なんですかね」
「模擬剣はそもそも魔力になじみませんもの、仕方ありませんわ。その気になれば、このようなことも可能ですわよ」
そう話したかと思えば、ペシエラは普通の模擬剣に魔力を込めて、訓練場の壁の上に向けて剣を振るって魔法を放つ。
訓練場の壁に当たった魔法は、壁を一部壊してしまう。
「ちっ、逃げられましたわね」
「ぺ、ペシエラ嬢?」
あまりにも唐突なことだったので、シルヴァノたちが驚いている。
「先程から視線を感じましたのでね、ちょっとばかり脅かしてやりましたのよ。魔力の感じからして、お姉様たちではありませんわ。おそらく、パープリア男爵の手の者でしょう」
「なんだって? 警備を強化したのに、入り込んできたっていうのか?」
「おそらくは。まったく、手に負えない連中ですわね」
ペシエラは苦虫をかみつぶしたかのような表情を浮かべている。捉えきれなかったことが悔しいようだ。
だが、怪しい連中がいたとなれば、いつまでも滞在しているわけにはいかない。今日のところは、これで終わりにすることになったのだった。




