第118話 新年次を迎えて
ロゼリアたちは無事に二年次へと進級する。
進級の際にどうするか悩んでいた科目だが、アイリスを含めて四人ともそろって魔法科を選択しての進級だった。
魔法科となると、より強力な魔法を使えるようにということで全員が魔法の制御を目的とした魔道具を持つことになっている。だが、ロゼリアたちは現状の時点でとんでもない魔法を魔道具なしで制御しているため、まったく無用の長物である。アイリスも必要がない。
だが、アイリスは本気で魔法を使えるようにならないといけない。それは、神獣使いという立場があるからだ。神獣たちがいなければ何もできない子という印象だけは、どうしても避けたいのである。ケルピーに驚いて何もできなかったという過去が、アイリスには大きくのしかかっている。
なので、マゼンダ侯爵領から戻ってきた後は、残っている冬期休暇中にチェリシアとペシエラに魔法を教えてもらっていた。
一方、ロゼリアたちが婚約者候補となっているシルヴァノも冬期休暇中はかなり忙しそうだった。本格的に王位を継ぐための勉強が始まっていたからだ。
それに加えて、ペイルともども、騎士団の鍛錬に顔を出していた。
理由は、武術大会でのできごとがあったから。突如現れたフェンリルを目の前に、何もできなかったというのが大きかった。婚約者候補の一人であるペシエラが果敢に立ち向かう中、互いの戦いの疲れがあるとはいえど、立って構えるのが精一杯だったことを反省しているのだ。
この冬期休暇中の二人の意気込みは、二年次が始まっても続いている。
二年次最初の登校日も、下校時間になるや否や、二人揃ってどこかへと姿を消していた。
気が付いたロゼリアが発端となって、チェリシアとペシエラ、それとアイリスとともにその後をつけていく。ペシエラは呆れたようにため息をついていたが、チェリシアはノリノリだった。
そうしてやってきたのは、学園の訓練場。ここは普段の学園での授業で使われている場所だ。
二人は模擬剣を引っ張り出して、無言で向かい合う。そうかと思うと、互いに踏み込んで模擬剣をぶつけ合っていた。
「あらあら、青春だわね」
チェリシアはなんか年寄りくさい言葉をつぶやいている。
目の前で戦う二人は、ずっと剣をぶつけ合っている。その様子を見ていたペシエラは、あることに気が付く。
「魔法を、使っていませんわね」
ぽつりとつぶやいたペシエラは、ゆっくりと二人の近くへと歩み出していく。気が付いたロゼリアが止めようとも聞きやしない。
ここまで少し打ち込んで、少し息の上がっているシルヴァノとペイルに向かって、ペシエラは声をかける。
「精が出ますわね」
ペシエラに声をかけられた瞬間、二人の動きが止まる。遠くてよく分からないのだが、チェリシアはかろうじて見えた動きから、何かを感じ取っている。
「ははーん。そういうことかぁ……」
こんなことをつぶやきながら、チェリシアの顔は少しにやけていた。
「わたくしも混ぜて下さいませんこと?」
ペシエラはそういうと、土魔法を使って模擬剣を作り出す。
「お疲れのようですし、二人同時で構いませんわ。わたくしが、魔法を織り交ぜた戦い方というものを見せて差し上げますわよ」
なんとも挑発的な態度である。
だが、シルヴァノとペイルは互いに顔を見合わせると、ペシエラの要求を受け入れた。
ロゼリアたちも駆け寄ってきてペシエラの行動を止めようと出ていくと、ペシエラがにっこりと笑って顔を向けてきた。その笑顔を見たロゼリアは、止めることをやめた。
そうしている間に、ペシエラ対シルヴァノ、ペイルという一対二の戦いが始まろうとしていた。
ペシエラが模擬剣を両手でしっかりと握りしめると、それを合図にして二人の王子が動く。
二人揃って真正面から迫ってくるが、その途中でペイルがすっと横に動く。その動きをペシエラは冷静に見ている。
その間にもシルヴァノの剣がペシエラに向かって振り下ろされる。
冷静なペシエラはその剣をしっかりと受け止めている。シルヴァノはペシエラを押さえ込もうとして、精一杯の力をかけてペシエラの動きを封じようとする。
その間に、ペシエラの死角に移動したペイルが襲い掛かろうとしている。この動きを見ていたチェリシアが思わず声を出そうになるが、ロゼリアがその口をしっかりとふさいでいる。
そんなチェリシアの心配をよそに、ペシエラはとても冷静だった。
「それでわたくしの不意を打ったつもりかしら」
その言葉が飛び出た瞬間、ペシエラの背後に土壁が発動する。ペシエラが視線だけで魔法を発動したのだ。
「くそっ、見破られたか!」
ペイルの繰り出した攻撃は、その土壁によって防がれる。防がれたかと思ったペイルだったが、その一瞬の隙をつかれてしまう。
なんと土壁がペイルを狙って襲い掛かってきたのだ。
「なにっ?! うわっ!」
油断をしたペイルはまともに攻撃を食らってしまう。
「ペイル!」
「シルヴァノ殿下、ご自身の心配をなされては?」
次の瞬間、強い風がシルヴァノへと襲い掛かる。ペイルに対して気が逸れた一瞬で、シルヴァノは風魔法で吹き飛ばされてしまった。
なんということだろうか。剣の腕前だけでもとんでもないペシエラだというのに、魔法を使った瞬間、二人の王子を圧倒してしまったのだ。
その上でアフターケアも十分。吹き飛んだ二人を風魔法でしっかりと受け止めている。なので、まったくケガをさせていない。
「まったく、オフライトに負けたのは、単純に魔法を使っていなかったからなのか」
「ええ、そうですわね。わたくしが本気で魔法を使えば、オフライト様でもほぼ勝つのは不可能でしょうね。ですが、なんだかずるっぽいのでやめたのですわ。だって、武術大会なんですからね」
シルヴァノの言葉に、なんとも複雑そうな表情で答えるペシエラである。
確かにその通りだ。魔法を使いすぎれば武術とは言いづらいところがある。ペシエラはそんなところにまで気を回していたのだった。
まったく、ペシエラの規格外さと気の利きようにシルヴァノとペイルは驚かされるばかりである。
「ただ、魔物相手ですと遠慮は要りませんわ。よろしければ、お二方にもコツを教えて差しあげますわ」
ペシエラは可愛く笑うものの、その笑顔にシルヴァノとペイルは震え上がってしまっていた。
その様子を、ロゼリアはやれやれという感じで眺めているのだった。
そんなこんなで、ペシエラによる魔法を織り交ぜた戦いの講釈が始まったのである。




