第117話 帰省の終わりに
氷山エリアから戻ったロゼリアたちは、ひと晩をすごしたのち、領内の視察へと動くことにした。
神獣インフェルノと幻獣ファントムがあっさりと見つかってしまったので、予定していた日数が余ってしまったためだ。
今は冬の時期ということもあって、農作業はお休み。お酒や酢、それとジャムの生産が主な活動となっている。
ジャムはマゼンダ領特産の果物と、隣のアクアマリン子爵領の砂糖を使って生産される。砂糖が高価であるために、決して安いコストではない。地形的なこともあってか、ジャムは高級品として貴族たちには重宝されている。
ただ、チェリシアはそんなに高級品というイメージを持っていないのでどうにかしようと考えている。そこで考えたのが、前世の寒い地域で栽培されている、砂糖大根、甜菜の存在だった。
せっかく有能な幻獣でもある執事であるファントムがいるのだ。チェリシアは早速、甜菜の情報を紙に書き記してファントムへと渡していた。形やその他特徴、栽培方法から砂糖の作り方まで、それは事細かくである。さすが、前世で農家を目指していただけはある。
「ほう、甘い根菜ですか。分かりました、探してみましょう」
ファントムはなにかと乗り気だった。
実は、隣の領地ということもあって、マゼンダ侯爵家はアクアマリン子爵家とはそれなりの交流があった。その中でサトウキビの生産も試みたことがあり、土地が合わなくて断念した過去があるのだ。
それゆえに、ファントムは甜菜の話にすぐに飛びついていた。
ただ、冬の時期は雪が多く、移動に制限がある。動き出すのは春を迎えてからになりそうなので、ジャムの完全自家生産はまだまだ遠い話のようだった。
領地を見回りながら、ロゼリアたちは別の問題についても話し合っていた。それは、学園卒業後の話だった。
それというのも、貴族である以上、どうしても付きまとうのが結婚の話。アイヴォリー王国や隣国モスグリネ王国では、学園卒業と同時に結婚というのはほぼ当たり前になっていた。
現在はロゼリア、チェリシア、ペシエラの三人がそろってシルヴァノの婚約者候補となっているが、いずれは一人に絞られることになる。
ロゼリアは、逆行前と同じようにペシエラが婚約者に収まるのがいいと考えている。というのも、やはり逆行前の断罪劇が印象に強すぎて、どんなに頑張ってもロゼリアにはシルヴァノが無理だからだ。
ペシエラからペイルが自分のことを好いていたという話を聞いて、ロゼリアはペイルに興味は示している。示してはいるものの、逆行後の現在のペイルの関心は、むしろペシエラに向いている感じだ。そのため、ロゼリアはかなり悩んでいる状況にある。
一方のチェリシアは前世の価値観からか、結婚に関してはかなり楽観視している。なるようになるさというのが、チェリシアのスタンスである。
だが、そんなチェリシアの楽観視をロゼリアとペシエラが許さなかった。
というのも、現在はシルヴァノの婚約者候補という立場だが、いずれは正式に婚約者が決定される。そうなると、自分たちはフリーとなってしまう。
そうなると、今やドール商会同様に王国で大きな商会を抱えるマゼンダ侯爵家とコーラル伯爵家の関係者として、多くの縁談の話が舞い込むことになると予測される。なので、まだシルヴァノの婚約者候補のうちに、お相手を定めておく必要があるというわけだ。
ものすごい剣幕で迫られたチェリシアは、分かったからとしぶしぶ話を受け入れていた。
そうして、長かったマゼンダ侯爵領の視察が終わり、ロゼリアたちは王都へと戻ってきた。
ロゼリアと別れたチェリシアとペシエラは、アイリスとともにコーラル伯爵邸に戻ってくる。
「戻ってきたか、主よ」
屋敷に戻るとニーズヘッグが出迎えている。久しぶりのアイリスの顔を見て、ものすごく嬉しそうな表情を浮かべている。
ペシエラの部屋と移動すると、早速ニーズヘッグから報告を受ける。
チェリシアたちの不在の間も、王都の中では怪しげな動きがみられたらしい。だが、ニーズヘッグが手を打ったためにすべては不発。王都の平和は保たれていた。
「いつまであれを野放しにしている。我であればいつでも本気で叩き潰せるというのにな」
「そう焦らないで下さいませ。下手に動けばこちらが危なくなりますわ。連中を表舞台に引きずり出して叩くのが一番ですのよ」
「分かった。ならば我は静観していよう。連中の動きは事細かく主を通じて報告させてもらうぞ」
「ええ、頼みますわよ」
自信たっぷりに任せろというニーズヘッグの姿に、チェリシアとアイリスは頼もしさを感じているようだったが、なぜかペシエラだけが不安そうな表情を浮かべていた。
こうして、ロゼリアたちの一年次が暮れていく。
新たな神獣との契約に加え、マゼンダ商会の次なる一手を打ち出すこともできた。
その一方で、懸念材料はまったく解決されないままの年越しとなる。
来年こそはすべての不安要素をぶっ潰し、最悪の結末を迎えた未来を変えてみせると、強く誓うのであった。




