第12話 気になるコーラル子爵令嬢姉妹
挨拶を終えたロゼリアは、荷物を使用人に任せて客間でくつろいでいる。
「ロゼリアお嬢様、荷物を運び終わりました」
「ご苦労さま、シアン」
荷物を運び終われば、きちんと使用人たちを労うロゼリアである。
連れてきた使用人と子爵邸の使用人が部屋を出ていき、部屋の中はロゼリアとシアンだけになる。
身の回りを整えたところで、シアンはロゼリアの様子を見て問いかける。
「お嬢様、ペシエラ様について探りを入れましょうか?」
シアンの質問に、ロゼリアは目をぱちぱちとさせている。
どうやらシアンは、ロゼリアの気持ちを汲んでくれたようなのだが、まさかそんな質問をしてくるとは思ってなかったということだ。
「そうね。お願いしようかしら」
だが、せっかくならと、ロゼリアは提案を受け入れることにしたようだ。
それというのも、出会ってからというもの、やたらと自分に対して敵意に満ちた視線を向けてきているように感じられたからだ。ロゼリアからすれば、ペシエラは今回初めて出会った相手だ。となれば、その視線の理由を知りたくなるのは当然である。
ロゼリアはシアンに頼んで、それとなくコーラル子爵邸の使用人から話を集めることにした。
眠る前にはシアンが情報を集めてきた結果を伝えに来る。
「お嬢様、ご報告いたします」
「ええ、お願い」
シアンからの報告によれば、ペシエラ・コーラルは、チェリシアが三歳の時に生まれたことで間違いはないようだった。
チェリシアと違い領地にいたのは、まだ幼いということもあって体が弱く、馬車での移動に耐えられないからのようだった。そのため、このシェリアで過ごしていたとのことだった。
「ふむ、それでコーラル子爵は元気なったのかと聞いていたのね」
「そのようでございます。それ以外には特に問題のあるような話はございませんでした」
「ええ、ありがとう、シアン」
報告を受けたロゼリアは、シアンにしっかりとお礼を言っていた。
睨むような視線は気になったものの、現段階ではただの妹のようなので、ロゼリアはしばらく様子を見ることに決めたようだ。
「ふわぁ……。明日からが忙しいから、今日はもう寝ましょう」
ほっとしたことが影響したのか、ロゼリアは大きなあくびをしてしまう。起きているのも限界だったために、ロゼリアは今日のところは眠ることにしたのだった。
翌日からはコーラル子爵領の視察が始まる。
昨日の到着した際にも感じられたことだが、貧乏で知られるコーラル子爵領の中にあって、このシェリアはまだ活気があるように感じられたのだ。
ロゼリアはどういうことなのだろうかと、不思議そうに街の中を眺めている。
そんな中、ちょっと遅れて現れたチェリシアの姿に、ロゼリアは首を傾げていた。
「チェリシア様、一体何を持ってらっしゃるのですか」
気になって仕方がないので、ロゼリアはチェリシアに聞いてしまっていた。
「これは、釣り竿ですよ。そうです、ロゼリア様、ご一緒にやってみませんか?」
「えっ?」
唐突なチェリシアの提案に、ロゼリアはびっくりしてしまう。しかし、楽しそうな表情をしているチェリシアの姿を見ては断れず、視察を父親たちに任せて、侍女たちとともに岩場の方へと向かっていった。
「岩場の方が波止場よりも釣れるんですよね」
まるで釣りをしたかのように話すチェリシア。
海に突き出た岸壁の上にやってきて、釣り竿から糸を垂らしている。ロゼリアもチェリシアを真似て糸を垂らす。
「まったく、こんなのをどこで用意したんですか」
「えへへ。夜のうちに頼んで用意してもらったんですよ。前世を思い出したので、せっかくだからやってみたいと思いましてね」
呆れるロゼリアに対して、チェリシアはにこにこと笑顔を見せていた。
糸を垂らしてしばらくの間、まったく反応がなかった。すぐに反応がないと、ロゼリアはさすがに飽きてくる。
ところが、チェリシアは粘り強く糸に反応が出るのを待っていた。
くんくん。
糸を引っ張る感触が、ロゼリアの釣り竿に現れる。
「かかりましたよ。ロゼリア、手を離さないで下さい!」
「えっえっ?!」
チェリシアは自分の竿を後ろに放り投げ、ロゼリアの後ろに回って一緒に竿を握る。
ところが、竿を引っ張る力が強く、八歳の少女の体は海へと持っていかれそうになってしまう。様子を見かねたシアンも加わり、三人で竿を引っ張る。
「ロゼリア、魔法で糸の周りの水を一瞬だけでも切り離して」
「なにそれ、難しいことを言わないでよ」
意味不明なことを言うチェリシアに、ロゼリアが反発している。とてもそんなことをしていられる様子ではなかったからだ。
その時だった。
糸に食いつく魚を網ですくい上げてくれた人物がいた。
「これは大物だな。旦那様に言われてついてきたかいがありましたよ」
現れたのは、コーラル子爵家の執事だった。子爵に言われて様子を見に来ていたらしい。
「あ、ありがとう。でも、これは大物だわ」
「ですね。この街の釣り師でも滅多に釣れないやつですよ。お嬢さんには才能があるのかもしれませんな」
ロゼリアを見ながら、コーラル子爵家の執事はにっこりと笑っていた。
「よーし、これで魚の干物を作れるわ。お魚をこのシェリアだけのもので終わらせるのはもったいないからね」
ロゼリアが事態を把握できない中、チェリシアはなにやらやる気を見せているようだ。
釣り上げた魚でもって、一体何を始めるつもりなのだろうか。
チェリシアはとても自信満々の様子で笑みを浮かべるのだった。




