第11話 シェリアに到着して
今回の目的地であるコーラル子爵領のシェリアは、南北に広い子爵領の最南端にある海に面した街だ。
王都からは東北東に進んでいき、馬車の場合はどんなに早くても十日はかかる距離にある。
今回この街が選ばれたのは、目的である塩を作るための拠点としてふさわしいからだ。
シェリアに向かう馬車の中では、ヴァミリオが改めてロゼリアに問いかけている。
「ロゼリア、お前はいつから魔法が使えるようになったんだ?」
シェリアに向かうということもあってか、改めて魔法が使える理由を問い質しているようである。
馬車の中にはロゼリアとヴァミリオ、ロゼリアの侍女であるシアン、ヴァミリオの侍従の四人しか乗っていない。従者の口の堅さが分かっているので、ヴァミリオは問い質しているというわけだ。
ところが、ロゼリアはあんまり大っぴらにしたくないのか、あまり表情を変えずにいる。
「魔法でしたら、ごく最近です。友人であるチェリシア様からの相談を受けまして、その実現のためにひそかに練習したのです」
淡々と答えている。
ロゼリアの回答ははっきりいって疑わしい。疑わしいにもかかわらず、あまりにも堂々としたその態度に、ヴァミリオは深く追及できないようだった。
やむなくヴァミリオは質問を変える。
「使用人たちから証言が上がっているのだが、ロゼリア、最近のお前はずいぶんと変わったようだな。おねだりとかわがままとかがかなり減ったようだが、一体何があったのだ」
そう、八歳の子どもなら大体みんなが行っていそうなわがまま。これも最近のロゼリアには見られなくなっていた。
「あら、それは乙女の秘密ですわ、お父様」
真顔で聞くヴァミリオに対して、にっこりと笑って返すロゼリアだった。
この後もいろいろとロゼリアに質問をしたヴァミリオだったが、どう質問しようとまともに答えようとしないロゼリアの態度に、最終的には諦めてしまったようだった。
ロゼリアたちの乗った馬車は、特にトラブルに見舞われることもなく、無事にコーラル子爵領にあるシェリアへと到着する。
このシェリアには、コーラル子爵の別邸が存在しており、一行はその別邸へと案内される。
「お帰りなさいませ、旦那様、チェリシアお嬢様」
「うむ、元気そうでなによりだな」
まずはコーラル子爵とチェリシアが姿を見せると、屋敷の使用人たちはきちんと主たちを出迎えている。
次に子爵が客人を招き入れる。
「ようこそおいで下さいました、王太子殿下、宰相閣下、マゼンダ侯爵様、ロゼリア侯爵令嬢様」
客人たちが姿を見せると、使用人たちがきちんと挨拶をしている。身分が上の者から順番に名を呼ぶあたり、貧乏でありながらもきちんと指導は行き届いているようだ。
「お前たち、ちゃんと部屋の用意はできているな。すぐに殿下たちをお部屋にご案内するのです。では、殿下、参りましょうか」
コーラル子爵がシルヴァノたちを案内しようとした時だった。
「お父様! お姉さま!」
屋敷の奥から、一人の少女が勢いよく飛び出してきた。
「おお、ペシエラ。元気になったようでなによりだ」
「ペシエラ、お久しぶり。調子はどうかしら」
奥から飛び出してきた少女に向かって、コーラル子爵とチェリシアが反応を返している。
ペシエラと呼ばれた少女。チェリシアとよく似たピンク色の髪が、内側にカールしており、瞳の色はチェリシアよりも赤みが強いようだ。
ところが、ロゼリアはこの少女を見て強い違和感を覚えた。
(だ、誰なの、この子は……)
そう、このペシエラはロゼリアの記憶の中にはいなかったのだ。
コーラル子爵家の娘は、ロゼリアが把握している限りはチェリシア一人だけだ。それは、逆行前の記憶でもそうだし、チェリシアが書き出したゲームシナリオでもだ。
ならばなぜ、目の前にチェリシアの妹がいるのか。事態がよく把握できず、ロゼリアは警戒してしまっていた。
「ペシエラ、殿下たちがお見えになられているのです。ご挨拶なさい」
「はい、お父様」
コーラル子爵に促されて、ペシエラは前へと歩み出てくる。
「王太子殿下、みなさま。コーラル子爵領シェリアへようこそおいで下さいました。わたくしは、コーラル子爵家次女のペシエラと申します」
ペシエラは、見事な淑女の挨拶をしっかりとやってのけていた。
あまりにも見事だったために、ロゼリアもつい見とれてしまう。
「チェリシア、この子はいくつなの?」
我に返ったロゼリアは、こそこそとチェリシアに近付いて、ペシエラの年齢を尋ねている。
「私の三つ下だから、まだ五歳よ」
「チェリシアは、この子のことは知っていたのかしら」
「前世の記憶を取り戻してから、しばらくは混乱していて忘れていたけど、こっちに向かう途中で思い出したのよ。ゲームにはいない子だから、私も驚いたわ」
チェリシアに話を聞いたロゼリアは考え込んでしまう。
チェリシアが話したゲームにも存在していない少女。そして、なによりも逆行前のロゼリアも把握できなかった少女だ。
なぜ彼女が存在することになったのか、ロゼリアはいろいろと考えを巡らせてしまう。
その時、ロゼリアはふと視線を感じて顔を上げる。
視線を感じた先にいたのは、先程挨拶をしていたペシエラだった。
(……今の突き刺さるような視線。いや、まさかね……)
何か引っかかりを覚えるロゼリア。
「ロゼリア、部屋に移動して休むとするぞ」
「はい、お父様」
ヴァミリオに呼ばれたロゼリアは、客間へと移動するのだった。ペシエラに感じた、様々な違和感とともに。




